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アイドルの死をめぐり、露わになる人々の本音。小説『大好きな人、死んでくれてありがとう』

  • 2026.5.12

小説『大好きな人、死んでくれてありがとう』の作者、まさきとしかさんにインタビュー。

醜い部分こそが人間らしさであり、感情が濃縮された尊い部分なんだと

北海道Y市の廃ホテルで、めった刺しにされた男性の遺体が発見される。被害者の南田蒼太(みなみだ そうた)はアイドルグループの元メンバーだった。グループ解散後、世間からは忘れられていたのだが、皮肉にも事件によって再び脚光を浴びるようになり…。

まさきとしかさんの新刊『大好きな人、死んでくれてありがとう』は、犯人と動機が杳としてつかめない、そのもどかしさが快感になるミステリーだ。

「昨今の“推し”文化にも通じると思うんですが、推しに対してはいくらでも勝手な妄想が抱けますよね。アイドルの死を軸にするなら、語り手を章ごとに替えれば多角的な妄想が書けて物語が膨らむし、場面もどんどん切り替わってスピーディな展開にもできるかなと。ミステリー要素はありますが、それと同時に、利己欲や承認欲求のために必死になる滑稽さや醜悪さといった、人間の業みたいなものにフォーカスしていこうと筆を進めていきました」

南田に横恋慕する年上のパート女性、グループの元メンバーたち、事件を調べる週刊誌記者など、誰もが自分なりの南田を語るが、ページが進んでも、彼の実像はずっとぼんやりとしたままだ。

「私としても、南田はアイドルをやっていた男性というよりただの概念でしかないというか、本当に幻のような存在だなと感じながら書いていました。なので、『誰が、どんな理由で、南田を殺すほど憎んでいたのだろう』というのが最後の最後まで見えなくて悩みましたね」

だが、本書のクライマックスは犯人と動機がわかったあとに来る。エピローグのさらなる一撃が圧巻だ。

「当人たちはもがいて苦しかったりするのだろうけれど、実はその醜い部分こそが人間らしさであり、感情が濃縮された尊い部分なんだと昇華したかったんです。もがけばもがくほど、人生は鮮やかになっていくのかもしれない。エピローグにはそんな思いを込めました」

人がたくさん亡くなる話なので不謹慎かもしれないが、全体を貫くブラックな笑いも堪能してほしい。

「私的にはブラックコメディのつもりもあって、だからこそ自分の枠をちょっと突き破って、ここまでぶっ飛んだ人たちを書けたという感覚があります。楽しんでもらえたらうれしいですね」

まさきとしか

札幌市在住。2007年、「散る咲く巡る」で北海道新聞文学賞を受賞。『あの日、君は何をした』の三ツ矢&田所刑事シリーズは第3弾まで刊行され累計50万部突破。母と子の話に定評がある。

information

『大好きな人、死んでくれてありがとう』

南田のアイドル時代を描くプロローグののち、話者を替えた6つの章で構成。しかしエピローグで事件の風景ががらりと変わる。文庫オリジナル。新潮文庫 693円

写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2494号(2026年5月1日発売)より

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