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賛否がうずまく『プラダを着た悪魔2』について私たちがこんなにも語りたくなるのはなぜ?|横川良明の「沼の中心で愛をさけぶ」Vol.8

  • 2026.5.21
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久々に洋画でのヒット作となった『プラダを着た悪魔2』。公開2週で興収は34億円を突破。早くも今年の実写映画興収ナンバーワンの座が見えてきました。

実際、僕の周りでも「『プラダを着た悪魔2』を観た?」がお決まりの挨拶になっています。ただ面白いことに、未見の人に話をすると、「う〜ん、でも結構酷評なんですよね」と渋めのリアクションが返ってくることも。え? 酷評なの? あんなにサイッコーに楽しい映画だったのに?? それは一体どこの地帯で???

公開前にはビッグバジェットをかけてさまざまなプレミアイベントを開催し、世界中を飛び回ったキャストたち。近年レアとなった来日プロモーションもあり、こんなにも大きな盛り上がりを見せた洋画は久々かも。 TheStewartofNY / Getty Images

思わず気になってパブサしてみたら、なるほど、確かにSNSは賛否両論で真っ二つ。ある人はミランダ(メリル・ストリープ)やアンディ(アン・ハサウェイ)ががむしゃらになって働く姿に共感を覚え、ある人は「期待していたものと違った……」と幻滅している。面白いとか、面白くないとはまた別の次元で『プラダを着た悪魔2』は語られている気がしました。

なぜ私たちは『プラダを着た悪魔2』について何か言いたくなるのか。今回は、20年の時を超えて復活した働く女性たちのバイブルについて語ります。

※本記事は、『プラダを着た悪魔』『プラダを着た悪魔2』のネタバレとなる内容を含みます。未見の方はご注意ください。

『プラダを着た悪魔』はそれぞれのプライドを描いた映画だった

前作を含め、『プラダを着た悪魔』とはどういう映画か。そう問われたら、僕は「プライド」の映画だと答えます。

第一作目『プラダを着た悪魔』は2006年に公開され、全世界興行収入が約3億2,600万ドル(約350億円規模)、日本国内でも約17億円の興行収入を記録し、世界中で大ヒットを収めた。 Aflo

『プラダを着た悪魔』は一貫して、「私はこういうことはしない」を描いてきた。1では、ジャーナリズムを愛するアンディはファッション誌の仕事を下に見ていて、「家賃稼ぎ」と割り切っていた。最終的にミランダのもとを去るのも、ミランダが自分の立場を守るためにナイジェル(スタンリー・トゥッチ)を犠牲にしたことに強い違和感を抱いたから。ファッション誌の仕事にやりがいを覚えはじめていたアンディは、自分の生き方を守るため、「ランウェイ」を離れた。

ミランダもまた「氷の女王」と謗られようと、子どもたちとの時間が奪われようと、一切仕事に手を抜かなかった。「ランウェイ」の世界観を守るためには、決して妥協しない。価値観は対照的なミランダとアンディですが、自分の魂を売り渡さないという点では同じ。二人を支えていたのは、「プライド」でした。

20年経ってもナイジェルだけは変わっていない。 Aflo

仕事において大切なのは、「したいこと」よりも「しないと決めたこと」。そこに、その人のプライドが出る。そして、彼女たちの「しないと決めたこと」に憧れて、20年前から今日まで、たくさんの人たちが『プラダを着た悪魔』に勇気をもらってきたのです。

『2』のミランダとアンディはカッコ悪い?

『プラダを着た悪魔2』が賛否を招いている理由の一つが、このミランダとアンディの「しないと決めたこと」が観る人によってはハレーションを起こしているからではないでしょうか。

20th Century Studios

わかりやすいところで言えば、ミランダ。1ではコートもバッグもアシスタントのデスクに放り投げていた氷の女王が、2ではハラスメント社会の煽りを受け、自分でコートを掛けている。それもとても不恰好に。

さらに、息子同然の年齢の新社長からは、まるで同い年のフットボール仲間のように肩をグーパンされ、ミラノへの出張はすし詰めのエコノミー。1のミランダなら絶対しなかったことのオンパレードに、なんだか自分の憧れを踏みにじられたような気になった人もいたかもしれません。

20th Century Studios

アンディにしたって、業界内で賞を獲るほど評価されているジャーナリストになったのに、「ランウェイ」に来てからの記事は不発続き。ステータスも未婚子なしのままです。同じ分だけキャリアを重ねてきた女性なら、20年後のアンディにもっと別の期待を寄せてもおかしくありません。

ミランダやアンディの持っているプライドが好きだったのに、2ではそのプライドが見る影もなく引き裂かれている。会いたかったミランダやアンディはこれじゃないという、いわゆる「解釈違い」がネガティブな印象を引き起こしているように見えました。

『2』はファッション映画ではなく、労働賛歌

しかし面白いことに、ポジティブな印象を持った多くの人が、そのちょっとイケてないミランダやアンディに親近感を抱いているのです。

これはあくまで僕の肌感ですが、1は女性をメインターゲットとしたガールズムービーでした。しかし、今回はSNSのリアクションも、実際に映画館に来ている顔ぶれも、男性が一定数見られます。それは、『プラダを着た悪魔2』がファッション映画ではなく、変化の激しいこの時代で私たちはいかに生き抜くかを描いた、お仕事映画というフレーズも生ぬるい、地味で泥臭い「労働賛歌」だからでしょう。

20th Century Studios

だから、パワハラや経営体制の一新、コストカットに翻弄されるミランダに、同じ管理職として女性だけでなく男性も戦友感を抱いた。20年前は仰ぎ見ることしかできなかったミランダから認められたアンディに、上司と自分の関係性を重ねた。『プラダを着た悪魔2』に熱狂している人たちは、へし折られたプライドの先にあるものに面白さを見出しているのではないでしょうか。

実際、ミランダは「しないと決めたこと」をいくつも明け渡しているように見えます。でも、いちばん大切なことは決して譲っていない。それは、「ランウェイ」の世界を守ること。アンディも、ミランダの暴露本を書くという仕事に関しては、やらないと決めた。1でミランダからエミリー(エミリー・ブラント)を踏み台にしたと指摘されたときと同じ。アンディは、自分のキャリアのために誰かを食い物にすることを良しとはしなかった。彼女たちの根っこをつくっているプライドは、いくら時代が移り変わろうと変わらない。だから、20年後も二人はカッコいい。

2でも、シーンごとにさまざまな衣装で楽しませてくれていますが、かと言って1のときのようにオシャレが人を変えてくれるとか、洋服が勇気を与えてくれるとか、そういったメッセージングはありません。これもまた、20年前は装うことで人は自らのパーソナリティを誇示し、プライドを守ってきたけれど、今はどんな格好をしているかよりも、どんな生き方をしているかのほうが大事だという価値観の変化だと受け取りました。

理想や完璧を追い求める人は1に鼓舞され、不完全なところにいとおしさを感じる人は2に励まされる。『プラダを着た悪魔』は自分がどちらの人間かを写し出すリトマス試験紙でした。

『プラダを着た悪魔』を観ると、自分のプライドが刺激される

その上で、じゃあなぜ『プラダを着た悪魔2』を観て人はつい何かを語りたくなるのかというと、やっぱり自分のプライドが刺激されてしまうからではないでしょうか。

みんなそれぞれこの20年間、守ってきたものがある。そのために、いくつもの戦いを強いられてきた。『プラダを着た悪魔2』との再会は、長い人生における何度目かの中継地点。自分のラップタイムはどうなのか。フォームは狂っていないか。そもそも選んだルートに誤りはないのか。おのおのが答え合わせしたくなる。

20th Century Studios

だから、感想を口にするときも、つい自分と重ねて「仕事を一生懸命頑張ってきた人には刺さるものがある(仕事が二の次の人にこの映画の良さはわからないかもね)」みたいに若干のマウントが入ってしまったり、「もっとバリバリ仕事をしているアンディが見たかった(テレアポみたいな単調な仕事じゃ物足りない)」「もっと素敵な恋愛や結婚をしてほしかった(いくらキャリアがあってもシングルだと悲しい)」とつい不満が出てしまうのかなと。そこには自分のプライドを守りたいという、ある種の自己顕示欲が見え隠れします。映画を語ることは、自分がどういう人間かを語ることですが、とりわけ『プラダを着た悪魔2』はその傾向が顕著です。

そこも含めて、僕はいい映画だと思う。別々の場所でそれぞれ自分の人生を頑張ってきた人たちが、時を超えて集合する。いわば同窓会です。昔とイメージがちょっと違ったり、今の自分をアピールしたくて、ついいつもより言葉が強くなっても、それもまた20年ぶりの再会の醍醐味。

だから、できれば次も20年後と言わず、何年か後に『プラダを着た悪魔3』をやって、また「どうだった?」って答え合わせをしても面白いんじゃないでしょうか。そうやってミランダとアンディが私たちの人生に並走してくれるだけで、なんだか友達が増えたみたいな気持ちになる。だから、どうかメリル・ストリープにはいつまでも元気でいていただきたいところです。

なんだかんだでナイジェル様が最強。 20th Century Studios

そんな観る人の人間性をむき出しにさせる『プラダを着た悪魔2』。とりあえず言えることは、この映画でナイジェルにいちばん共感する人は、『タイタニック』で最後まで演奏を続けた音楽隊に泣くタイプだと思う。たぶん。絶対。

『プラダを着た悪魔2』
現在公開中。

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