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「クマ大量出没」の札幌、今年はどうなる?専門家らの分析から考える【クマ予報2026②】

  • 2026.5.7

専門家らへの取材に基づき、札幌のクマ出没情報を予想する「クマ予報2026」第2回です。

札幌では2025年、クマの出没情報が363件で、記録開始以降、過去最多の件数となりました。
ことし2026年も、また大量出没が起こるのでしょうか。どこに気を付けるべきなのでしょうか。

Sitakke

Sitakkeの連載「クマさん、ここまでよ」では、札幌市と、市の委託を受けて現場調査をしている専門家らに取材をし、気を付けるべき場所とポイントをまとめた「クマ予報2026」をお届けします。

「どこが危険なの?!」とすぐに知りたいかと思いますが、「クマ予報」は間違った見方をすると、逆効果になります。

「雨が降るという予報だったから、傘を持って行って助かった…」
天気予報はそのように暮らしを守るために活用することができますが、クマ予報も「予防」のためにあります。

これからお伝えする内容をみなさんが正しく受け止めて、暮らしと命を守るためにお使いいただけるように、シリーズで一歩ずつお伝えしていきます。

前回は、「何を根拠に予想しているのか」をご説明すべく、札幌市がクマの出没情報に日々どう対応しているのかの裏側をご紹介しました。

今回は、2026年のクマ予報のベースとして、「2025年の大量出没がなぜ起きたのか」をひも解いていきます。

例年とは違った傾向

Sitakke

札幌では近年、クマの出没件数は年100~200件ほどで推移していました。
しかし2025年は363件と急増しています。

数だけでなく、出没が増えた時期にも、例年とは違った傾向がありました。

クマの出没が増える季節

Sitakke

2021~24年の傾向を見ると、札幌市では5~8月にかけてクマの出没情報が増えています。

5~7月ごろはクマの繁殖期です。オスはメスを探して広い範囲を動き回ります。

クマのオスは子育てに参加しません。また、ずっとパートナーと寄り添うわけではありませ
ん。オスは自分の子どもを残すために、相手のメスが連れている子どもを殺してしまうことがあります。
なので子どもを連れた母グマは、オスを避けるうちに、住宅地に近づいてしまう場合があります。

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オスを避けてきたと見られる親子(画像提供:滝野すずらん丘陵公園)

また、親離れをしたばかりの若いオスも好奇心旺盛で、この時期に動き回るうちに住宅地に近づいてしまうことがあります。

主にこうした生態の理由から、「夏が多い」という出没傾向が続いていましたが、2024年は比較的、年間を通して出没が少ない年でした。

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一方で2025年は、5~8月も、月20~30件と例年通り多い出没件数だったのに加えて、9~11月にかけて、秋の出没が急増しています。

人身事故も発生

出没件数が71件にのぼった9月には、人身事故も発生してしまいました。

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札幌市西区・2025年9月

札幌市西区の住宅地にある公園で、午後8時ごろ、犬の散歩をしていた人がクマと遭遇しました。男性が身を守ろうと右腕を前に出したところ、クマに引っかかれ、とっさに抵抗すると、クマは逃げていったといいます。

札幌市は出没情報が入るたびに、業務委託している「NPO法人EnVision環境保全事務所」の専門家らと一緒に現地調査をしています。
そのほかに生息数の調査のため山の中にも「ヘアトラップ」(木に体をこすりつけるクマの習性を利用して、クマの毛を採取するもの)を設置しています。

こうした調査で、現場に残されたクマのDNAが取れることがあります。
20年近くにわたって集めたそのデータが、実際の分析や対策に結びついている事例を、前回の記事でご紹介しました。

西区の人身事故の現場ではクマのフンが残されていて、DNAが検出できました。
そのデータを、過去に蓄積していたデータと照らし合わせると、意外なことがわかりました。

人身事故を起こすクマは、何度も出没?

DNAの照合は、そのクマがどんなクマだったのか、なぜ出没したのかを調べる手掛かりになります。

人身事故を起こすクマは、何度も出没を繰り返していたのではと思うかもしれません。
実際はどうだったのか。

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札幌市環境共生担当課係長・清尾崇さんの発表より(札幌市中央区円山西町でのヒグマ勉強会・2026年1月)(スライド内、体長147センチメートルとありますが、正しくは144センチメートル)

公園で取れたDNAは、2015年に札幌市中央区砥石山のヘアトラップ調査でとれたDNAと一致しました。ほかには一致するものがありませんでした。

出没現場ではなく山の中のヘアトラップ調査、さらに10年前の1件のみ。

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清尾さん(札幌市中央区円山西町でのヒグマ勉強会・2026年1月)

札幌市環境共生担当課係長・清尾崇さんはこの結果について、「これまで出没に関与せずに奥山にいたクマが、市街地の公園まで出てきてしまうような変化が起こっていたのでは」と振り返ります。

後日このクマは捕獲され、推定14歳のメスだとわかっています。14歳になるまで捕獲されることなく、人から距離をとって暮らしていたのかもしれません。

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清尾さんの発表より(札幌市中央区円山西町でのヒグマ勉強会・2026年1月)

清尾さんは1月に開かれたヒグマ勉強会で、現場に残されたクマのフンが1カ所にまとまるのではなく点在していたことから、「専門家らは、クマも公園でゆっくり落ち着いてフンをしていたというより、人とばったり出会って驚いてフンをしてしまったのではと話していた」と紹介していました。

クマは子どもを連れている母親でした。母グマは子どもを守るために、ばったり出会った人を攻撃することがあります。

積極的に住宅地に来ようとしていたわけではなさそうなクマまで、なぜ出てきてしまったのでしょうか。
そこには、主に2つの要因が重なっていたようです。

秋に出没が増えた理由

清尾さんは、まず「山の実なり」が影響していると指摘します。

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クマは草食に近い雑食で、ドングリを多く食べます。2025年の札幌市は、ミズナラのドングリが凶作でした。

ただ、凶作だと必ずクマの出没が増える/豊作だと安心、というわけではありません。

クマは冬の間に、冬眠穴の中で出産・育児をします。

2024年はミズナラのドングリが豊作でした。年間を通して出没が少ない年でした。
クマの栄養状態がよく、冬の間に出産をすることができたと考えられます。

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札幌市南区・2025年10月。自動撮影カメラに映ったクマ(札幌市提供)

2025年の秋、市内の住宅地では親子の出没が目立ちました。
24年の豊作で子どもを出産した母グマが、25年の凶作で食べものに困り、住宅地に近づいてきた可能性が考えられます。

単純に凶作・豊作でその年の出没件数が決まるのではなく、前年からの影響もあることが伺えます。

山の豊凶だけでは決まらない

ただ、出没の増加は山の豊凶だけが原因ではありません。
過去には、凶作だったけれども出没が増えていない年もありました。

その差はどこにあるのでしょうか。

大量出没の理由、凶作に加えて…

Sitakke
撮影:札幌市

2022年3月、札幌市西区三角山で見つかったクマの冬眠穴です。

三角山は札幌の中心部からも近く、高さ311メートルの小さな山。手軽さから、地元の小学生の遠足やトレッキングのコースとして親しまれています。すぐ近くには、住宅街が広がる場所です。

巣穴があったのは山奥ではなく、住宅街からわずか500メートルの位置でした。
クマが出産し、子どもを育てる場所も、山奥から住宅地へと近づいているのです。

この冬眠穴が見つかった当時の取材で、酪農学園大学の佐藤喜和教授は「人里の近くに定着するようになったクマは、人との触れ合いが多いので人慣れをする」と指摘していました。

本来、人を恐れ距離をとって暮らすはずのクマが、近年は住宅地の近くに 「定着」 してしまうようになりました。
EnVision環境保全事務所の早稲田宏一さんは、この状態に 「凶作」 が組み合わさったことで、大量出没が起きたのではないかと見ています。

そこで札幌市では、住宅地の近くに定着しているクマの対策に着目しています。
そのためには、「クマの性別」がポイントになります。

クマの性別による違い

クマは性別によって、暮らすエリアの広さに違いが出てきます。

オスは時には数十キロに及ぶ、非常に広い範囲を移動します。
これまでに、札幌・小樽・江別など、自治体をまたいで移動した事例も確認されています。

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札幌市が設置したカメラに映ったクマ(2023年・札幌市提供)。DNAにより小樽市から札幌市西区、南区などを移動していたとみられている

早稲田さんは、天気予報になぞらえていえば、広い範囲を移動する若いオスは「台風」のようなものだと言います。

台風は生活に影響を及ぼしますが、何か月も続くものではなく一過性の現象です。ある程度の予想はできますが、急に進路を変えることもよくあります。

移動中のオスのクマも、その地域に長く定着しているわけではなく、いわば「通りすがり」のクマ。クマは緑地や川沿いを移動することが多いので、専門家らはある程度ルートを予測できることもありますが、台風と同様に、クマの個性や周囲の状況によって、ときに大きく方向を変えます。

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監視カメラに映った3頭子連れの母グマ(札幌市提供・2023年)

一方メスは、オスのように数十キロメートル移動するようなことはなく、たいていは5キロメートル四方くらいの、おおよそ同じエリアにとどまると言われています。
生まれ育った場所の近くで、自分も冬眠穴を作り、子どもを産み育てます。

そこで札幌市では、特に 住宅地近くに定着している「メスのクマ」 に対して、継続的に注意すべきだと考えています。

子どもは母グマの行動から生き方を学んでいくので、親子が繰り返し住宅地に来る状態を放置すると、その子どもたちも出没を繰り返すリスクがあります。
「メスのクマ」に注目するのは、対母グマだけでなく、次世代のクマたちへの対策も兼ねているのです。

2026年、気を付けるべきメスのクマはどのあたりにいるのか。
前回の記事でお伝えした根拠をもとに、いよいよ次回からの記事でお伝えします。

取材協力:札幌市環境共生担当課・坂田一人さん、清尾崇さん、NPO法人EnVision環境保全事務所・早稲田宏一さん、中村秀次さん

天気表現の監修協力:HBCウェザーセンター・近藤肇気象予報士

連載「クマさん、ここまでよ」
連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:Sitakke編集部IKU
ドキュメンタリー映画『劇場版 クマと民主主義』監督。2018年にHBCに入社し、報道記者として取材した島牧村をきっかけに、人にできるクマ対策はたくさんの選択肢があることを知る。「Sitakke」や「クマここ」の運営、放送やイベントなどを通じて取材・発信に取り組んでいる。

※掲載の内容は取材時(2026年3~4月)の情報に基づきます。

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