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JECとは何か?オフロードレース運営者が語る課題と未来

  • 2026.5.2

オフロードバイクは趣味性が高いからこそ、こだわり続けたい技術がある。そんなジャンルで豊富な経験と高い技術、そしてプライドとスピリッツを持つ職人を訪ねる本企画。第60回は、全日本エンデューロ選手権(JEC)を主催するJECプロモーションで活動する町田剛氏にフォーカス。釘村忠と共に目指す日本のエンデューロ、その現実と理想を語っていただいた。

JECプロモーション 株式会社 / Grizzly 取締役

【町田 剛】

2024年よりJEC全日本エンデューロチャンピオン獲得経験豊富な釘村忠と共に、JECプロモーションとしてレース運営に携わる。IT業界からの転身、新鮮な目線で日本のエンデューロを主催としての立場で盛り上げている。

PHOTO&TEXT/D.Miyazaki 宮﨑大吾

他業界からオフロードの世界へ。「自分たちで運営してみよう」

株式会社Grizzlyのメンバーとして、釘村忠氏と共にエンデューロやオフロードイベントの主催・運営に携わる町田氏。ライダー経験豊富な釘村の構想を具体化する、舞台裏を支える立場から見た現在のオフロード業界について話を聞いた。

「オフロードバイクに乗り始めたのは2016年です。バイク歴そのものは18歳からと長く、もともとはハーレーで全国を旅するようなオンロードのツーリングライダーだったんです。オフロード転向の動機は、いわゆる『運動不足解消』でした。ただ、始めてみると一気にのめり込み、レース参戦だけでなく運営側にも関わるようになっていったのです。

それまでの職業はIT系で、20歳からずっとシステムのSEに携わっていました。いわゆるバイクショップなど業界出身ではなく別ジャンルからこの世界に入ったからこそ現場で感じたこともあり、それを実現していこうというのがスタンスです。

JECオンタイムエンデューロを象徴する光景がパルクフェルメ(車両保管)。現在は競技ライセンス不要のエンジョイクラスからIAまで、幅広いレベルのライダーが参加できるイベントとなっている
JECオンタイムエンデューロを象徴する光景がパルクフェルメ(車両保管)。現在は競技ライセンス不要のエンジョイクラスからIAまで、幅広いレベルのライダーが参加できるイベントとなっている

会社(株式会社Grizzly)を始めた直接のきっかけは、当時の仲間の存在(当初は3人で始めた)でした。その方と釘村と私の3人で『グリズリー』という形を作り、そこにスクールの要素も絡めて運営経験を積んできました。その前段階として、ゲレンデを会場としたフリーライドイベントを2年連続で開催した経験もあり、さらに『イベントをいろいろやっていこう』という手応えとなって、それが土台になっていました。」

転機になったのが、JEC(全日本選手権・オンタイムエンデューロ)の引き継ぎだ。それまで長年従事していた中西夫妻(現モトスポーツプロモーション)から引き継ぎ、主催運営の側に回る決断をしたのだという。現場で課題や改善点を感じ続けながら、その結果として、自分たちでやる方向へ踏み込んだのだった。

別業界から見た「オフロード界」のリアル

町田氏がオフロード業界の外から入ってまず感じたのは「コアすぎる世界」だということだった。ツーリングの世界で比べてもオンロードと比べると、オフロードは情報量も少ない。

「林道はツーリングマップにもすべて載る訳ではないですしGoogleマップにも出ないですよね。だから、私自身もオフロードに興味はあっても飛び込みにくかったんです。ですが友人ができたことをきっかけにオフロードバイクのショップへ行き、そこでレーサーを購入し、短期間でレースに出ることになり、そこから一気にドハマりしました。

現場に出てみると、この世界は濃密で世界が狭いと感じました。会場に行けば同じ顔ぶれに会い、誰かの知り合いはだいたい知り合い…。そんな距離感の近さも、オフロードならではの特徴だと感じたのです。

またJECの参加者層については『上品な方が多い』『穏やかな雰囲気』という印象も持ちました。どのマシンもきれいで整備も行き届き、トラブルも自分の責任として受け止める文化がある。バチバチの闘争心だけではなく、大人の競技として成立している側面が見えてきました。

そこからJECの運営に回って最初に強く感じた課題は、『シリーズの認知度の低さ』でした。オフロードバイクのレースに出ようとすると選択肢が限られがちで、そこにJECを選択肢として挙げたいという思いがありました。私自身も当初はオンタイムレースに興味がなく、好きでもありませんでした。それでも、スモールエンデューロ的なミニオンタイムレースを体験したことで、『1秒を削る難しさ』とハマる楽しさを実感したのです。だからこそ、その魅力を伝えるために、オンタイム体験会を軸として、まず知ってもらう動きを強めていきました。

実感としては、体験会の参加者がその後のシリーズを追いかけてエントリーしてくれる例が増えています。直近でいうと昨年の大阪では、体験会からの流入が当日エントリーにもつながっています。モトクロスやクロスカントリー界隈からも『JECって何?』という声が出始め、少しずつ波が広がっている感触があります。」

「エンジョイ強化」で間口を広げた、その先にある課題とは?

「近年は『エンジョイクラス(参加ハードルを下げた承認クラス枠)』を強化し、参加人数を増やす施策も進めてきました。会場でトップライダーのレースを観戦したり、自身もハードルを下げたレースに参加できる、楽しい雰囲気を作りました。2シーズン開催してきた中で、会場の空気が明るくなり、参加者も増え、シリーズの印象も変わってきたという評価を得られたと思います。

一方で、間口を広げたことで『上級の公認クラス側との歪みができている』という問題も出てきました。難易度が下がりすぎると上級ライダーから『全日本エンデューロのレベルじゃない』と言われるのです。一方でエンジョイクラスや下位クラスのライダーが走れない難易度だと、こちらからも不満も出る。様々な意見のすべてを聞いているとキリがありません。だからこそ、明確な方針を打ち出し、『今はこっちに向かっているので我慢してね。将来こうなるからね』と示す必要があるのですが、まだそれを十分にできていないです。これが課題ですね。」

これからJECが目指すのは、選手権としての核をもう一段引き上げることだと町田氏は話す。

MFJのエンジョイライセンスのみで参加可能なエンジョイクラスの新設が、現JECプロモーションの特徴的な施策だ。ゼッケンステッカーも配布されたり、太田晴美選手(ハルミ企画)との連携でピットサービスなど手厚くサポート
MFJのエンジョイライセンスのみで参加可能なエンジョイクラスの新設が、現JECプロモーションの特徴的な施策だ。ゼッケンステッカーも配布されたり、太田晴美選手(ハルミ企画)との連携でピットサービスなど手厚くサポート

「今後の方向性は明確です。エンジョイの入口を残しつつ、選手権としての核(公認クラス/上位層)のレベルを、もう一段・二段引き上げたいと思います。日本一を決めるエンデューロの大会で、モトクロス経験者がポッと出て優勝してしまうのは、少し違う気もするんです。オンタイムレースならではの技術が必要で、IAライダーはもっとIAのレベルであってほしい。技術がなければ上のクラスに上がれない。そういう『格』を作りたいという意思があります。

その具体策として構想に挙がっているのが、11月開催を目標としている長野県大町での『ハードオンタイムエンデューロ』的なチャレンジ要素を多くしたレースです。設定の基準として『釘村選手が回れるタイム』とします。『簡単だと言うなら、釘村を超えてから言ってください』という、競技性を立て直すための強いメッセージにもなるかと思います。」

ライダー釘村の構想を実現可能か2人で精査する

JECはレースだけでなく、初心者歓迎型のイベントも開催している。いなべモータースポーツランドで開催した「オフロード感謝祭」も2年目を迎えた。

「JECエンデューロを主催しているだけだと、トレールバイクユーザーとの接点がほぼないんです。だからこそ敷居を下げ、『JECって何?』と思ってもらえるように、『JEC』という単語から覚えてもらうことが必要です。オフロード感謝祭はその入口として毎年やりたいですね。今年の参加者は昨年より増え、当日を含めて230台弱。トレールバイクでの自走参加者や、若い層(20代)も増えてきました。手厚いウェルカム体制、コースのアテンドツアー、スクール中心の構成、そしてホスピタリティを重視しています。加えて、コースがマンネリ化しないよう会場側の変更もあり、『久しぶりに来ると全然違うね』という楽しさも後押しになっています。

イベント内ではトップライダーのデモランも行い、ショータイムとして圧巻の走りを見せる。『あんなライダーになりたい』という憧れが生まれれば、次の世代の導線になります。競技人口が限られているからこそ、入口と憧れを同時に作る。それがイベントの狙いです。」

全日本モトクロスワークスライダー、過去4度の全日本エンデューロIAタイトルを獲得。また日本人唯一のISDEゴールドメダリストでもある釘村忠氏が代表を務めるJECプロモーション。彼の構想力と町田氏の実行力が活動の基盤だ
全日本モトクロスワークスライダー、過去4度の全日本エンデューロIAタイトルを獲得。また日本人唯一のISDEゴールドメダリストでもある釘村忠氏が代表を務めるJECプロモーション。彼の構想力と町田氏の実行力が活動の基盤だ

これまでのJECの変化を語るうえで欠かせない存在として、釘村氏の存在も大きいと町田氏は話す。

「彼は何事にも丁寧で、ユーザーを大事にし、細かいところまで気が回る。その人柄が全体に伝わり、シリーズの印象を変えていると思います。運営側から見た最大の強みは釘村の存在でもありますね。一方で、彼はトップライダーゆえに、構想を次々出してくるんです。それを実現可能かどうか、2人で精査して現場に落とし込む。発想だけでは形にならないからこそ、私は現場担当として支えたいと思っています。」

最後にJECを体験してみたい、気になっている方に向けて。

「オンタイムエンデューロってめんどくさそう、が一番多く聞こえる声です。でもそんなことないです。ぜひ体験会に来てください。本番ではない遊びの場なら、遅着だろうが早着だろうが関係ありません。食わず嫌いはもったいないです。刺さる人には絶対刺さる。だからまずは入口で体験してほしいですね。トレールバイクの方にもイベントを通じてこのJECという団体が何をしているかを知っていただき、釘村という存在を知ってもらいたいです。『レースはやらなくて結構』という人がいてもいいんです。それでも『オンタイム遊び』という選択肢があることを伝え、認知を上げていきます。」

間口を広げ、選手権の核を強くするという二段構えが、今後のJECプロモーションの骨格になっていくことだろう。

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