1. トップ
  2. どうぶつ
  3. 「犬」が「クマ対策」を変える?ベアドッグと解決したい3つの課題とは【北海道・札幌】

「犬」が「クマ対策」を変える?ベアドッグと解決したい3つの課題とは【北海道・札幌】

  • 2026.5.18

「自宅にクマの足跡のようなものがついている」
5月12日、札幌市内に住む人から警察に通報がありました。

しかし調査の結果、この跡はクマのものではないことがわかりました。

実はこうした通報が、ここ数年増えています。
通報を受けて調査すると、黒っぽい犬だったり、キツネだったり…かがんだ人を見間違えたと判断された事例もありました。

クマの出没が身近になる中で、「不安」から見間違い通報が増えてきます。
しかし、それがクマかどうかわからないままでは、必要以上に不安になったり、逆に本当にクマなのに判断を間違って正しい対策がとれなかったりするリスクがあります。

札幌には、正しい判断をするための調査や住民への普及啓発を、20年以上にわたって積み重ねてきた専門家組織があります。
今、新たな挑戦をするべく、クラウドファンディングを始めました。

Sitakke

クマとの“いい距離の保ち方”を考える連載「クマさん、ここまでよ」。
今回は、目に見えない「クマの気配」への不安を変えるために始まった、新たな挑戦をご紹介します。

クマ対策の心強いパートナーとして、「犬」を迎えようという取り組みです。

【この記事の内容】
・約20年の調査が、いまの暮らしを守っている
・より安心を目指すために、「犬」をパートナーに
・ベアドッグと解決したい、3つの課題

約20年の調査が、いまの暮らしを守っている

札幌のNPO法人「EnVision環境保全事務所」。市の業務委託を受けていて、市内でクマの出没情報が寄せられるたびに、現場調査を担っています。

実はこの調査の積み重ねが、いまの私たちの暮らしを守っているんです。

調査をすると、分析ができ、対策ができる

この連載の中で、5月頭にお届けした「クマ予報2026」。
札幌市と専門家への取材に基づき、市内でことしクマの出没が予想され、特に対策を意識してほしいエリアについて解説しました。

Sitakke
2026年4月時点でのクマ予報マップ。桃色のエリアが出没確率30~40%。クママークのエリアは50%

その中で、特に対策を意識してほしいとしていた「豊平区羊ケ丘」周辺では、実際に5月3日と7日、13日、14日と、相次いでクマの出没が確認されています。

Sitakke
5月14日午後8時半ごろ、羊ケ丘で札幌市が設置した自動撮影カメラで撮影されたクマ(画像提供:札幌市)

なぜこうした「予報」ができるのか。
それは札幌市とEnVision環境保全事務所が、20年近くにわたって「クマの情報」を蓄積してきたからです。

Sitakke
5月15日、羊ケ丘での現地調査で発見されたクマの足跡(画像提供:札幌市)

出没を受けての現地調査では、足跡やフンなど痕跡がないかを探し、本当にクマかどうか、クマであればどんなクマかを分析します。
ときにはフンや体毛からクマのDNAがとれることもあり、そのデータを蓄積して、同じクマが何度も来ている/何が原因になっている、などの具体的な分析に生かしてきました。

Sitakke
家庭菜園のリンゴを食べるクマ(2019年・札幌市南区)

人が管理しなくなった畑にある「放棄果樹」が、クマが人の作物の味を覚えて住宅地に近づく原因になっていることを突き止め、放棄果樹を撤去するボランティア活動につなげた事例もあります。

この対策をした地域では出没数が大きく減っていて、効果が見られています。

Sitakke
放棄果樹撤去のボランティア(2020年・札幌市南区)

調査をすると、分析ができ、対策ができます。
その積み重ねが、安心と安全につながります。

しかし今、EnVision環境保全事務所は、「人の力だけでは追いつけないほど事態が深刻化している」と感じています。
そこで考えたのが、パートナーとして「犬」を迎えること…「ベアドッグ」の導入です。

「ベアドッグ」とは

Sitakke
画像提供:Wind River Bear Institute

ベアドッグとは、クマ対策のため特別な訓練を受けた犬のことです。
アメリカにはWind River Bear Institute(WRBI)という育成機関があり、実際にベアドッグが対策の現場で活躍しているといいます。日本でも、長野県軽井沢町で導入実績があります。

「カレリアン・ベア・ドッグ」という犬種で、勇気と高い知性を持ちながら、人に対してはフレンドリーなのが特徴だといいます。

Sitakke
25年前、アメリカのWRBI訪問時の様子(画像提供:Envision環境保全事務所)

EnVision環境保全事務所は、25年前にWRBIを訪れ、ベアドッグの可能性に注目しました。
当時は十分な資金や体制が整っておらず、導入を断念しましたが、これまで連絡を取り続けてきました。

今、クマ対策の必要性と緊急度が増す中で、ついにベアドッグの子犬の譲渡の話が進んでいます。

ベアドッグと解決したい、3つの課題

ベアドッグを迎えることで向き合いたい課題は、主に3つあります。

課題①クマかどうかわからない

近年「クマかもしれない」という不確かな情報が増えていて、現地調査をしても痕跡が残されておらず、迅速な判断ができないケースがあるといいます。

Sitakke
クマの体毛。木や柵に引っかかって数本残されていることもあるが、まったくないことも多い(画像提供:札幌市)

そこで、現地調査にベアドッグの嗅覚と聴覚の力を借りたいといいます。
微かな痕跡を察知して、人だけよりも速く正確に調査し、より確かな結果を出せるようにしたい考えです。

Sitakke
現地調査の様子。フンや体毛からDNAをとり分析する(画像提供:札幌市)
Sitakke
現地調査の様子。体毛1本まで見つけ出して調べる(画像提供:札幌市)

課題②現地調査・対応の安全性

Sitakke
視界の悪い環境で調査することも。ベアドッグが事前に気配を察すると安全につながる(画像提供:札幌市)

現地調査は、草が生い茂った場所など視界が悪い環境で行うこともあり、まだ近くにクマがいる危険性もあります。
そういったときにも、ベアドッグと一緒に行動することで、嗅覚と聴覚を生かして人よりも早くクマの存在を察知してもらい、安全確保につなげます。

Sitakke
茂みに潜むクマの気配を察したベアドッグたち(画像提供:Wind River Bear Institute)

また、通学路や登山道など、出没情報があった場所を巡回するときにもベアドッグと行動することで、「市民の目に見える安心」につなげたいといいます。

課題③クマについての知識・理解の不足

クマについてよく知らなかったり、誤解していたりすると、必要以上に怯えたり、間違った行動をとってリスクを上げてしまったりします。

Sitakke
小中学校での授業(画像提供:札幌市)

EnVision環境保全事務所では、小中学校での授業や、痕跡の見分け方講座などの屋外イベントなど、市民にクマについて正しく知ってもらうための活動も行ってきました。

Sitakke
クマの痕跡の見分け方講座(画像提供:Envision環境保全事務所)

ここでも、ベアドッグの「親しみやすさ」が武器になると考えています。
ベアドッグを通してより身近にクマ対策を考えてもらい、安心・安全を広げていくことを目指しています。

「追い払い」は目的にしない

ほかのエリアでは、ベアドッグがクマの追い払いも担っているケースがあります。
ただ、札幌ではベアドッグの導入にあたって、今のところ「追い払い」は目的にしません。

北海道に生息しているのはツキノワグマよりも非常に大きいヒグマです。
また、札幌の人口の多さや密集度から考えても、「追い払い」は多くのリスクがともないます。そのため「追い払い」については今後の課題として検討しています。

ベアドッグ導入実現に向けて

ベアドッグが活躍するためには、特別な訓練が必要です。
子犬を迎え入れ、育成していくための資金を募るクラウドファンディングが始まっています。

ことしはアメリカのWRBIと連携しながら、検疫など譲渡のための手続きや、アメリカでの基礎訓練を行います。ベアドッグが来日した後は、ベアドッグハンドラー(犬の訓練・育成を担い犬と一緒に働く人のこと)の協力を得て育成していきます。
本格的にベアドッグが現場で活躍していくのは、2028年春からを目標にしています。

Sitakke
画像提供:Wind River Bear Institute

EnVision環境保全事務所は、「私たちの目標は、ベアドッグというパートナーを通じ、『人は人、クマはクマの領域を守る』という、これまでは当たり前だった境界線を取り戻すことです」と話します。
札幌を起点に、北海道全体へと対策を広げ、「みんなが安心して暮らせる社会」を目指したいといいます。

20年以上にわたって札幌のクマ対策を支えてきた専門家組織が、新たなパートナーを迎え、より対策を加速させようとする取り組み。
クラウドファンディングは、2026年6月30日午後11時までの期間で募集されています。

連載「クマさん、ここまでよ」

連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

取材協力・画像提供:NPO法人EnVision環境保全事務所

文:Sitakke編集部IKU
ドキュメンタリー映画『劇場版 クマと民主主義』監督。2018年にHBCに入社し、報道記者として取材した島牧村をきっかけに、人にできるクマ対策はたくさんの選択肢があることを知る。「Sitakke」や「クマここ」の運営、放送やイベントなどを通じて取材・発信に取り組んでいる。

※掲載の情報は取材時(2026年5月)の情報に基づきます。最新の情報はクラウドファンディングのページ等でご確認ください。

元記事で読む
の記事をもっとみる