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坂東新悟さんインタビュー「どんな芝居も熱量をもってお客様にお届けしたい。一所懸命やる、それに尽きます」

  • 2026.2.4
撮影=荒木大甫

2026年は初春から歌舞伎座で四役を演じて大健闘、そのひとつ『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』では松本幸四郎さんの相手役として、臨場感溢れる刹那の心情と歌舞伎の様式美を融合させた演技で魅了した坂東新悟さん。昨年は野田秀樹さんや三谷幸喜さん作・演出の作品や坂東玉三郎さん演出の新作でも評価を得て、多方面から注目を集めています。

「身に余る大役ばかりでありがたく思います。息つく暇も振り返る余裕もない、というのが正直な実感です。とにかく無心で勤めるしかありません」

そんな新悟さんが「猿若祭二月大歌舞伎」で演じるのは『一谷嫩軍記 陣門 組打(いちのたにふたばぐんき じんもん くみうち)』の玉織姫。玉織姫は平敦盛の許婚で敦盛の身を案じて須磨の戦場へとやって来ます。その出で立ちは戦場には似つかわしくない雅な姿。

「リアルに考えたらあり得ないことだと思いますが、それゆえに敦盛のことを一心に思う純粋さや健気さが表れているのではないでしょうか」

当の敦盛は平家劣勢のなか、源氏の武将・熊谷次郎直実との一騎討ちに臨むことに。11年ぶりの上演となるこの物語は、しばしば上演される『熊谷陣屋』の伏線となっているのです。新悟さんは過去に敦盛の母・藤の方や熊谷の妻・相模を演じた経験があります。

「それが今回にどう生きるかというのは、正直わからないです。あの時代に懸命に生きた人々のひたむきな思いや運命に巻き込まれていくはかなさを感じていただけたらと思います」

戦いに翻弄される女性たちの悲痛な思いは、残念なことに世界を見渡せば途絶えることがないのが現状です。

「一見現代では有り得なくとも、人間の根底を描いている。そうした普遍性が長い年月の間、お客様の気持ちに刺さり、古典というものが受け継がれてきたのだと思います」

玉織姫はまっすぐな女性、だからこそ難しさを感じるそうです。

「例えば三谷さんの『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)』で演じたのは、女性が男性のふりをして歌舞伎の舞台に立とうとする役でした。舞台上の出来事を追うだけで目まぐるしく、複雑で遊び心ある場面や役でしたが、玉織姫はすごくシンプル。背景をお客様に想像していただかなくてはならず、役者としての力が試されます」

こうした古典の作品に向き合うたびに実感するのは、経験を重ねるほどに増幅していく「奥深さ」だそうです。

「先輩方がさらりとなさっていらっしゃることが、じつはこんなに大変だったのかと気づかされます。技術はもちろんですが、何より難しいのは“らしく”見えること。これはもうやっていくうちに板についていくものでしかないのかな、と思います。だから日々勉強して自分なりに理解を深め、先輩方に教えていただいたことをフル活用して自分の糧にしていくしかありません」

そうした日々の積み重ねが実を結ぶのが舞台。臨む際に心掛けているのはどのようなことでしょうか。

「どんな芝居であれ、熱量をもってお客様にお届けしたいということです。毎日やっているとどうしても慣れが出てしまうこともありますし、技術が必要だとそこに頼ってしまいがちです。そうではなくその日を一所懸命やる、それに尽きます。すごく初歩的なことですが、自分の限界ギリギリまで頑張ってそれを貫いていきたいと思います」

ばんどうしんご○1990年生まれ。95年、7月に坂東新悟を名のり初舞台。女形を中心に立役としても活躍。スラリとした容姿や凜とした風情で魅了しつつも、明るく弾けた役などもコミカルに演じて自在なところを見せている。父・彌十郎と親子の役を演じた『修禅寺物語』の桂などが印象深い。

坂東新悟さんインスタグラム

[今月の見どころ]

歌舞伎座が江戸の芝居小屋に。立役、女形が賑やかに勢揃い

初世猿若(中村)勘三郎が江戸で初めて歌舞伎の興行を行ったことを記念する公演として十七世中村勘三郎さんを中心に始まったのが「猿若祭」。

昼の部で上演の『弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい)』は、江戸の芝居小屋・猿若座の雰囲気を歌舞伎座によみがえらせた華やかな一幕です。「十八代目中村勘三郎襲名」でも上演された演目でした。立役、女形がズラリと勢揃いし、十七代目の孫である勘九郎さんが猿若勘三郎として登場します。

芝居に対する熱い心とエネルギーで突出した存在だったのが十八代目中村勘三郎さんで、多大な影響を受けた人は数知れず。新悟さんは紛れもなくそのひとりです。勘三郎さんの心を受け継いで舞台に臨む新悟さんは、女伊達として出演します。

[今月のおすすめ]

【歌舞伎座】猿若祭二月大歌舞伎

『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』は時代物、『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』は映画『国宝』にも登場した古典の大作舞踊、『お江戸みやげ』『梅ごよみ』は言葉が平易で初心者にもわかりやすい作品。

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2026年2月1日(日)~26日(木)(昼の部11時~、夜の部 16時30分~)※9日、18日は休演。

演目/
【昼の部】『お江戸みやげ』『鳶奴』『弥栄芝居賑』
『積恋雪関扉』
【夜の部】『一谷嫩軍記』『雨乞狐』『梅ごよみ』

出演/片岡仁左衛門、中村鴈治郎、中村芝翫、
尾上松緑、八代目尾上菊五郎、中村勘九郎、
中村七之助、坂東新悟ほか

料金/5,000円~20,000円

問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)
公演詳細はこちら

撮影=荒木大甫 ヘア&メイク=北野恵利(JOUER) 取材・文=清水まり 構成=新居典子 協力=松竹 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年3月号より

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