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俳優・安蘭けいさんインタビュー|尽きない挑戦の心。「後悔する人生でいいと思っているんです」

  • 2026.3.8
撮影=セドリック・ディラドリアン


大変な役を、ロックに演じる⁉

―2026年3月に上演されるミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』。1983年にイギリスで初演され、日本でも1991年以来何度も上演されてきました。舞台はリヴァプール、子だくさんのジョンストン家に双子が生まれます。貧困から、母のミセス・ジョンストン(安蘭さん)は片方の子を裕福なミセス・ライオンズ(瀬奈じゅんさん)に託します。貧しい家と豊かな家に分かれて育った双子が偶然にめぐり逢い……。階級社会や人間の運命という、重く、普遍的なテーマを扱う名作です。数々の難役を自身のものにしてきた安蘭さん。今回の作品はかなり苦しいところのあるお役です。

「あまりその大変さを背負いすぎない方がよいのかなと思っています。私の役はやりようによっては暗くなりすぎてしまうので。貧しくて、子どもをたくさん産んで、夫は逃げて、シングルマザーになって……。大変な状況ではありますが、それがすごく特別な境遇だったわけではなくて、周りを見たらそういうたくましい家庭もあったのではないかと。どこかあっけらかんと “関西のおばちゃん”や“ロックなお母さん”のような役作りをしたほうがよいのかなと思っています。

私の演じる役は、かつてロック歌手の方が演じたことがあります。その時にリンダ役で出演していた友人の熊谷真実さんとお話ししたときに、『安蘭さんには“ロック”があるからぴったりだよ!』と言っていただいて、自分が思っていたよりロックな雰囲気にシフトしようとしているところです」

―百戦錬磨の舞台人の安蘭さんですが、今回の作品で一番の挑戦になりそうなことは何でしょうか?

「やはり“悲惨に伝えすぎないこと”でしょうか。役に入り込みすぎると、お客様を置いて行ってしまう気もしますし、どこか冷静な目で見て演じたいと思っています。そのためには曲があることが救いでもあるのかなと思っています。その歌に関しては、譜面通りではなく、自由に歌うという挑戦です。ロック歌手も演じたことを考えると、ミュージカルばかりやっている私の歌い方では四角四面になってしまうかもしれない。一方で意識し過ぎると歌謡曲や演歌のように聞こえてしまうかも……。でも、もしかしてその方向も良いのかしら?と思っているところです」

撮影=セドリック・ディラドリアン

本当の失敗はない

―新しい挑戦をするときはどんなお気持ちなのでしょう?

「新しいことが大好きなんですよ。常に新作に挑戦したいくらい。再演は再演で、もう1回役をブラッシュアップできるという面白みがあるけれど、私は常に新しいものを生みたいなと思っていて。好奇心がある性格なのかなと思います」

―怖くはないですか? 年齢やキャリアを重ねたら、安全なところにいたくなってしまいます。

「怖い、怖い。怖いですよ。前作からこの作品まで、少し間が開いただけで、ちょっと怖かったです。でも、始まったらワクワクしますし、怖さすらも楽しくなるはず、と思い込んでとりかかります。それには、いままでの蓄積もあるのかな……。色々な現場で戦ってきているわけで、たとえ失敗しても、ここまでは行けるだろうという確信が自分の中にあります。

よく“後悔しない人生”にしたいなんて言うけれど、私は“後悔する人生”でいいのではないかなと思っていて。 “本当の失敗”というのはなくて、失敗が絶対にプラスになると信じています。家に帰って猛烈に反省することはありますよ。でも結果としてそれは失敗ではなく経験だったのかなと。そして、私は完璧主義なところがあるけれど、決して人は完璧を求めていなかったりしますよね。悩んだり迷ったりすることもあるけれど、それでも敢えて挑戦していこうというパワーが、自分にはあると思っています」

決められた宿命でも、そこでどう生きるか

―「運命」がひとつのキーワードになった作品です。運命を動かしていくことで、宿命を変えていくことができるか、そんなことを考えていると制作会見でお話しされていました。運命を自分で切り開き、宿命を変えてきた、そんな風に思いますか?

「どうでしょう……。動かしてきたのかな、と思いますが、もしかしたらそれすらもお釈迦様の手のひらの上、宿命だったのかもしれませんよね。その手のひらの上で、敷かれたレールの上を歩いているだけ、到達する場所は同じかもしれないけれど、そこでいかに自分を動かすかというのが運命なのではないかと思っています。

私がすごく好きな本に『蒼穹の昴』があって、そのなかに占い師の予言を信じて成功する男の子が登場します。でも実はその予言は嘘だったのですが、宿命に負けず、運命を切り開いた話がすごく好きで。私自身も占いは好きですが、言われたことをポジティブに思い込むことで力にしているところがあります」

―この考え方は、安蘭さんがトップスター就任時に語った「夢を叶えるために努力する道のりが、私は夢だと思っています」という言葉に通じるように感じます。それから20年、尽きないパワーで常に自分を更新し続ける安蘭さんが立ち止まることはあるのでしょうか?

「年齢を重ねるとともに、動きが鈍くなっていることを感じます。更年期のホルモンの仕業なのか、意欲がわかないときもあります。でも、そういう時は、これはホルモンのせいで、その時期を抜けたら絶対できるはず、と思うようにしています。そうでないと、自分が後退しているような気がしてしまうので」

撮影=セドリック・ディラドリアン

手放すこと、新しい風を入れること

―長いキャリアの中で壁にぶつかったときは、どんな風に乗り越えてきたのでしょう?

「手放すことが大切なのかなと思っています。すごく昔、宝塚時代の話になりますが、なかなかトップになれなかった時期のこと。トップスターを目指して入ったので、その気持ちを手放すのが難しかったんです。たぶん周りが見えていなかったんでしょうね。あるとき、ずっと執着していた気持ちを手放して、『トップになれなくてもいい、何か一つ成果を上げて潔く辞めよう』と決めたら、トップスター就任のお話が来ました。そのときに、しがみつかないこと、新しい風を入れ続けることの大切さを感じました」

―どんどん選択して、どんどん決断して、運命を動かしているように見えます

「いや、じつは私は優柔不断なんです(笑)。直感で決めるとよいなんていうけれど、やっぱり揺れてしまって、結局最初の選択に戻ったりもします。決められる人、羨ましいですよね。でも、選ぶときは、少し大変でも自分が成長する方を選びたい、それは決めているんです」

撮影=セドリック・ディラドリアン

あらんけい●滋賀県出身。1991年宝塚歌劇団に入団。2006年星組トップスターに就任。2009年4月退団。退団後は舞台を中心に活躍。2008年『スカーレット・ピンパーネル』で第34回菊田一夫演劇賞演劇大賞、2021年『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(2020年)で読売演劇大賞優秀女優賞受賞。

ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』

写真提供=東宝

【キャスト】
ミッキー:小林亮太/渡邉蒼(Wキャスト)
エディ:山田健登/島太星(Wキャスト)
リンダ:小向なる
サミー:秋沢健太朗
ミスター・ライオンズ:戸井勝海
ナレーター:東山義久
ミセス・ライオンズ:瀬奈じゅん
ミセス・ジョンストン:安蘭けい ほか

【スタッフ】

脚本・音楽・歌詞:ウィリー・ラッセル
演出:日澤雄介

【公演日程】

2026年3月9日(月)~4月2日(木) 東京・シアタークリエ

2026年4月10日(金)~4月12日(日) 大阪・サンケイホールブリーゼ

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撮影=セドリック・ディラドリアン ヘアメイク=加藤峰子(吉野事務所) スタイリスト=早川和美 取材・文=本田リサ(婦人画報編集部)

ワンピース/198,000円(ykF/エフ)
リング/418,000円 バングル/1,386,000円 ピアス(片耳)/187,000円(すべてメレリオ/エヌジェー)

問い合わせ先:
ykF(エフ) tel.03-3403-6758
エヌジェーtel.03-5817-7550

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