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「少年ジャンプ+」はなぜ王者なのか? ダブル編集長が語る「新人漫画家が無名であればあるほど嬉しい理由」【中路靖二郎・籾山悠太インタビュー】

  • 2026.3.18

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読者の投票によりノミネート作品を選定する「次にくるマンガ大賞」。2025年度のコミックス部門第1位は「週刊少年ジャンプ」連載の『魔男のイチ』(集英社)、Webマンガ部門1位は「少年ジャンプ+」連載の『サンキューピッチ』(集英社)と、ジャンプブランドの作品が独占した。

「少年ジャンプ+」は2014年にリリースされたマンガ誌アプリ。10年間で『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『ルックバック』『ダンダダン』といった人気作が多数誕生した。2025年5月には、その軌跡を追ったノンフィクション『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』(集英社)が発売され話題になった。

なぜマンガアプリとしては後発であった「少年ジャンプ+」が、大ヒット作を連発する圧倒的な存在になれたのか。その秘密に迫るべく、「少年ジャンプ+」の2人の編集長、中路靖二郎さん、籾山悠太さんにインタビューを実施。「少年ジャンプ+」の現在と未来、そして「王者たる所以」を聞いた。

編集長として「持続可能な体制」を築くために

――「少年ジャンプ+」は2024年6月からダブル編集長というかたちでお二人が就任されました。まずはそのあたりの経緯からお聞かせください。

中路:「少年ジャンプ+」の規模がどんどん大きくなり、一人の編集長が作品のクオリティコントロールを担いつつ、アプリ運営も統括するのは相当タフな作業になっていました。もう一段階大きくなるためには、編集長2人体制は理にかなっていると思いました。

籾山:中路が言うとおり、「少年ジャンプ+」の仕事は本当に多岐にわたるので、一定以上の責任を持って判断できる立場の人間が複数いることにメリットはあると思います。

――お二人の役割分担はどのようになっていますか?

籾山:それぞれ「統括編集長」「デジタル担当編集長」と役割はありますが、仕事の線引きは緩い感じです。中路さんがデジタルサービスについて意見を言うこともあれば、僕も連載の担当を持つこともあります。「週刊少年ジャンプ」もそうですが、「媒体があるから漫画があって、漫画があるから媒体がある」という相互関係なので、切り分けるものでもないのかなと。

――普段、お二人はどんなコミュニケーションを取って運営されているのでしょうか?

中路:細かいところというよりは、大きな指針について話す感じですね。「少年ジャンプ+」はこれからどこを目指していくのか。どんな媒体になりたいのか。そこについては密にコミュニケーションを取っています。

――「大きな指針」について、具体的にお話しできることがあればぜひ教えてください。

中路:現在は「紙の雑誌出身の編集者と漫画家が少年ジャンプ+に移籍してヒットを出す」というフェーズが終わりかけて「紙を知らないデジタル世代の編集者が、紙を知らない作家さんと組んでヒットを生み出す」というフェーズに入っています。この「デジタル世代」のヒット作が生まれ続ける、持続可能な体制を築くのが僕たちの仕事だと思っていて。

そのために、どこを整備すればいいのか、どんなルール作りをすればいいのか、どうやって新人さんを獲得していくのか。そんなことを日々話しながら仕事をしています。

『タコピーの原罪』がターニングポイント

――新人獲得について、もう少し詳しくお聞かせください。近年は『ふつうの軽音部』『サンキューピッチ』など、漫画投稿サービス「ジャンプルーキー!」出身の作家さんが「少年ジャンプ+」のヒット作を生み出しています。そもそも、なぜこのようなサービスをスタートしたのでしょうか?

籾山:創刊当初、「少年ジャンプ+」がオリジナル作品によって毎日更新されるメディアになるためには、圧倒的に作品が足りませんでした。そこで、何とかして作家さんとのつながりを増やしたいと考えたのがきっかけです。あとは、ほかの雑誌がやったことないようなチャレンジをしたいという思いもありました。

――ここまでの手ごたえはいかがでしょうか?

籾山:仰っていただいた『ふつうの軽音部』『サンキューピッチ』、ほかにも『ラーメン赤猫』『幼稚園WARS』など、「ジャンプルーキー!」出身作家さんの連載は確実に増えてきています。

なかでもターニングポイントとなったのは『タコピーの原罪』です。「少年ジャンプ+編集部生え抜きの編集者がジャンプ+で作家さんと出会って大ヒット」というのは本作が初めてのことでした。このときは「ジャンプルーキー!」を作った意義を果たしてくれたなと思いましたね。

――「ジャンプルーキー!」からヒット作が生まれることで、さらに投稿作品が増えたのではないでしょうか?

籾山:それは大いにあります。「少年ジャンプ+」からのデビューを意識して投稿してくださる作家さんは増えました。でも一方で、商業誌での連載を意識せず「漫画が描けたから投稿してみる」といった感覚の作家さんもたくさんいらっしゃいます。この気軽さのおかげでたくさんの作品が集まるようになったのかな、という気がしています。

――「ジャンプルーキー!」は、「少年ジャンプ+」の編集者にとってメインの新人発掘の場になっているのでしょうか?

中路:そこは編集者任せなので、なんとも言えないですね。編集者の仕事は「才能」という金脈を自分で掘り当てることなので。日本各地の専門学校を回っている者もいれば、出張編集部などのイベントに出展している者もいます。数ある選択肢のひとつとして「ジャンプルーキー!」があるという感じです。

なぜ「少年ジャンプ+」は王者なのか?

――書籍『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』(集英社)の中に「ジャンプの最大の価値は新しい作品を作り出すこと」という一節がありました。新人発掘を重視している理由を、改めて教えてください。

中路:単純に商売だけを考えれば、いくつかヒットが出たら、それの二次利用でやっていくこともできるのかもしれません。ただ、「少年ジャンプ」のDNAは「新人の雑誌」なんです。新しい才能を発掘して、新しい価値を提供して、それによって常に新しい読者を開拓する。「少年ジャンプ+」も、そのDNAを受け継いでいるんですよね。新人発掘を重視しているというか、それ以外のやり方をあまり考えたことがない、というのが答えかもしれません。

籾山:「新人作家のSNSのフォロワー数は少なければ少ないほうがうれしい」とジャンプの編集者が話していたことがあります。既に才能が世の中に発見されている作家さんの作品を発表することも大切ですが、まだ見つかっていない才能と読者の間に編集者が入る。そうしておもしろい作品が世に出ることに編集者の意義と価値があると思っています。

――編集者の意義と価値。

籾山:読者にとって、今まで見たことがない才能と突然出会ったときの衝撃と熱量って、ものすごいものであるはずなんです。そこを目指して実現してきたのが、ジャンプの新人主義の本質なんじゃないかと。

――ただ、「新人発掘」はジャンプに限らず、多くの漫画編集部が力を入れていると思います。そのなかでも、「週刊少年ジャンプ」、「少年ジャンプ+」から新人作家のヒット作がたくさん生まれる理由はどこにあると思いますか?

籾山:そうですね…他の編集部のことはわからないので、比較ではないという前提で言うと。「ジャンプ+」で「これをやったらもっと儲かる」「もっとユーザー数が増える」というアイデアはたくさんあるのですが、それよりも、新しい作品をどんどん生み出すことを重要視する。それがジャンプらしさの一因になっていると思います。

――中路さんはいかがですか?

中路:籾山が言ったとおり、マーケティング的な視点でみんな創っていないんですよ。「今までに見たことないものを創ろう」という思いがすごく強くて。

この前、とある作家さんが「ジャンプには、ジャンルそのものを拡張するぐらいのパワーがある」という話をしていて。例えば『ONE PIECE』って「海賊モノ」と呼ぶには、あんな海賊いなかったよねっていう。

――なるほど。海賊王って言葉も浸透しましたけど『ONE PIECE』以前にはそんな言葉はなかった。

中路:そうですね。『ONE PIECE』が「海賊」っていうイメージを拡張したのだと思うんです。『NARUTO』の「忍者」もそうですよね。

既存のジャンルにとらわれると、ある程度部数は読めるのかもしれませんが、読者は驚きをそこまで得られないかもしれない。そういう意味で、手堅くわかりやすいおもしろさを提示するよりも、作家さんの才能を一番高いところで出せる方法を模索するというのがジャンプの特徴なのかなと思います。

ターゲットは「インターネットを使うすべての人」

――ジャンプの特徴といえば、「友情・努力・勝利」という一般に言われる「ジャンプの王道」を表す言葉もありますよね。

中路:そういった言葉は確かにあったのですが、僕らは特にそれを基準に作れと言われた記憶はありません。僕たちが最高におもしろいと思っているものを出して、それを認めてくれた読者によって、その時代その時代の「ジャンプらしさ」を作ってきたんです。

老若男女が読める、特に少年読者が中心に読んでいる娯楽雑誌であるということ以外は、実はそんなに定義されているものはないのではと思っています。

――そのあたりは「少年ジャンプ+」も「週刊少年ジャンプ」に通じるものがあるのでしょうか?

籾山:「ジャンプ+」で言えば読者層が紙の雑誌ほど固まっていなくて。「インターネットを使っている人」全員が読者になり得る、といった感じでしょうか。

――先ほどマーケティングしない、みたいな話もありましたよね。

籾山:そうですね。個人が注目される時代に逆行しているかもしれませんが、世界中のみんなにおもしろいと思って集まってもらえるマスのメディアを目指したいんです。かつての「週刊少年ジャンプ」では『DRAGON BALL』や『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』など回し読みも含めると1000万、2000万人が連載を追ってくれていたと思います。クラスのみんなが話題にして、次の展開を心待ちにしているという時代があったんですよね。そういったものが生まれにくい今だからこそ、そこをチャレンジしていきたいと考えています。

「少年ジャンプ+」は、まだまだ道半ば

――最後に、「少年ジャンプ+」の今後についてお聞きしたいです。編集長として1年やってこられて、現在の手ごたえを教えてください。

中路:編集者が育ってきたなと。「どうやって出会ったの!?」と聞きたくなるような作家さんと組んで、いきなりヒットを出してしまう編集者も出てきて。それって雑誌で編集をやってきた自分にはまったく想像できない作り方だったりもするので、見ていて本当におもしろいですし、頼もしいなと思っています。

――籾山さんはいかがでしょうか?

籾山:「まだまだ頑張らないといけない」という感じです。編集者と作品がとても成長しやすい環境が、僕が以前所属していた「週刊少年ジャンプ」にはもっとあったように感じているんですよね。「少年ジャンプ+」も、それに負けない環境を作るためにやるべきことが、もっともっとたくさんあると思っています。

――本日お伺いしていて、新しい感覚を持った編集者が育ち、ヒット作もたくさん生まれて非常に順調だと思いました。それでもやっぱり、やるべきことがたくさんあると。

籾山:そうですね。まだまだ道半ばです。

中路:本当に道半ばです。やらなければいけないことが山ほどあって。でも、だからこそ刺激があるというか、すごくいい経験をさせてもらえるなと思っています。電子市場の黎明期、拡大期を見させてもらい、「世界にどう受け入れられていくのか」というフェーズに入っていくと思うので、僕たちもこれからがすごく楽しみなんです。

――世界を視野に。

籾山:「MANGA Plus by SHUEISHA」という、全世界で「週刊少年ジャンプ」「少年ジャンプ+」などの連載を同時に多言語で読めるプラットフォームをスタートさせていて、既に一定の手ごたえはあるんです。海外では、昔はアニメがヒットしてから漫画も人気が出るという流れが多かったのですが、『SPY×FAMILY』『怪獣8号』など、漫画の1話目から世界中で話題になる作品が生まれていて。これからも、そういった流れがどんどん生まれるように仕掛けていきたいなと思います。

――これからの少年ジャンプ+の展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

中路・籾山:ありがとうございました!

取材・文=金沢俊吾、撮影=川口宗道

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