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【北村有起哉さんインタビュー】「時間とともに薄れても、初心は大切に持ち続けたい」

  • 2025.7.14

幅広いジャンルと役柄で、存在感を発揮してきた俳優の北村有起哉さん。最新作『逆火』では、“真実”を問う助監督役を通じて、作品づくりの葛藤や家族との関係に揺れる主人公を演じています。自身の子育てについても、率直に語ってくれました。

社会派の作品も娯楽大作も、どちらも選べることが、豊かなこと

多彩なキャラクターを演じ分け、観る人の心に強い印象を残してきた北村有起哉さん。映画『逆火』では、映画制作の現場で働く野島を演じています。彼は助監督として、ヤングケアラーの女性が綴った、自伝小説の映像化に携わることに。しかし、関係者に話を聞くうちに、美談として小説に書かれていた内容と、事実には食い違いがあることが明らかになっていきます。

このまま映画化していいのか……と葛藤する野島と、撮影を止めたくない監督やプロデューサー。ヤングケアラーに光を当てるという映画の社会的意義をとるべきか、真実を追究すべきか……。作品に込める思いの温度差は、現実の制作現場でもあるようです。

「できれば全員が同じ方向へ進んでいくのが理想ですけど、映画は3、4人で作れるものではないので。多くの人が関わるなかには、家庭がうまくいっていなかったり、経済的に困っていたり……と、事情を抱えている人もいるかもしれない。『とりあえず仕事になるなら、どんな映画でも構わない』というこだわりのない人もいるでしょうしね。でも、そういう人たちも、この業界に入った当初は、青臭い理想を絶対に持っていたはずなんです。そうじゃなければ、なぜわざわざこの世界に飛び込んできたの? って話になりますよね。初心は時間とともに薄れていくかもしれないけど、“これだけは”という気持ちは、大切にしまっておきたい。もちろん僕自身も含めてですけどね。たまに見返したら『あれ? こんなにちっちゃくなってる』と思うかもしれないけど」

劇中で制作されるような社会的なテーマを扱う作品と、エンタメ要素の強い娯楽大作。どちらにも触れられることが、俳優としても、観客としても、豊かな体験になると話します。

 「作品との出合いは巡り合わせ。『僕はこういう映画しか出ません』なんて考えはまったくないし、超大作にも出たい(笑)。両方の良さを知っているほうがきっと強いし、僕は節操なくいろんなことをやって、たくさんの人に見てもらいたいんです。観る側にとっても、そのときの気分に合わせて、幅広いジャンルから選べるのが理想な気がしますね。それは映画に限らず、音楽でもアートでもそう。わかりやすいものばかりが求められると、それでいいのかな? と少し不安も感じます」

息子たちには、どんな時代が来てもたくましく乗り越えてほしい

『逆火』では、思春期の娘との関係がうまくいかず、思い悩む野島の姿も描かれています。前職を辞めて映画監督を目指したことが、不和の一因と取れるような描写もありますが、それだけではないと北村さんは感じているそう。

「娘との間に、なぜあんなに溝ができてしまったのか……。はっきりとは描かれていないので、そこは僕なりに想像しました。野島は仕事人間で、家事や子育てにはほとんど参加してこなかった、今どき珍しいくらいの亭主関白だと思うんです。浮気やDVのような直接的な原因はないけど、僕のなかでは夫としても父親としてもだいぶ“ダメな人”。たとえば奥さんがビールを持ってきてくれても、無言で受け取る。それが常態化しているんでしょうね。ただ、これはあくまで僕の解釈。観た人に『なんでこんなに仲が悪いんだろう?』と思わせるのもひとつの正解だと思います。映画のラストについては、いろんな感想が生まれるだろうけど、それももちろん監督の狙いだと思うんです。夫婦や友人同士で観終わったあとに、とりあえず一杯飲みながら、『どうだった?』と話し合ってもらえたら、それだけで大成功なんですから」

子育て中、とくに思春期の子どもを持つ人であれば、こじれてしまった関係をどうすればいいのか……?と 親子関係の難しさも痛感するであろう本作。北村さん自身もふたりの息子を育てる父として、日々悩むこともあるそう。

「子どもの成長って本当に早くて、気づいたときには親の知らない交友関係ができていたりするから怖いですよね。今はネットからいろんな情報が入ってきて、バランスが崩れてしまう場合も多いでしょうし。だから、うちはしょっちゅう、夫婦でお互いの考えを伝えるようにしていますね。ちょうど昨日も、『100%、俺たちが思ったとおりに育ってくれるわけないよね』という話をしました。そういう開き直りも、ときには必要だと思うんです」

夫婦で決めている子育てのルールは、“ふたりで同時に怒らない”こと。

「と言っても、がまんできずについ口を出しちゃうことはありますけど。『ああ、いかんいかん』とぐっとこらえて。今は変化が速くて、20年後の世の中がどうなっているかはまるで想像がつかない。AIの影響で仕事が減るなんて話も聞きますしね。でも本当のところは、フタを開けてみないとわからない。けれど、親心としては、どんな時代になっても、その波をたくましく、したたかに乗り越えてくれたら、それでいいと思っています」

PROFILE

北村有起哉(きたむら・ゆきや)
1974年生まれ、東京都出身。1998年、『カンゾー先生』で映画デビュー。以降、多くの映画やドラマ、舞台に参加。近年の出演作に映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『キリエのうた』『愛にイナズマ』、ドラマ『たそがれ勇作』『舞妓さんちのまかないさん』『完全無罪』『いつか、ヒーロー』、NHK連続テレビ小説『おむすび』など。

北村有起哉さん出演映画『逆火』

『マッチング』『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が、現代社会の抱える問題や矛盾を炙り出すヒューマンサスペンス。映画監督を夢見る助監督の野島(北村有起哉)の次の仕事は、貧困のヤングケアラーでありながらも成功したARISA(円井わん)の自伝小説の映画化だった。ところが、話を聞くうちに彼女に “ある疑惑”が浮かび上がり——。

原案・監督:内田英治
脚本:まなべゆきこ
音楽:小林洋平
出演:北村有起哉 円井わん 岩崎う大(かもめんたる) 大山真絵子 中心愛/片岡礼子
岡谷瞳 辻凪子 小松遼太 金野美穂 島田桃依

2025年7月11日(金)テアトル新宿ほか全国順次公開
配給:KADOKAWA

©2025「逆火」製作委員会

撮影/神ノ川智早 スタイリング/吉⽥幸弘 ヘア&メイク/⼭内聖⼦ 取材・文/工藤花衣

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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