1. トップ
  2. 写真家・高木由利子インタビュー「服はアイデンティティ、そして誇り」

写真家・高木由利子インタビュー「服はアイデンティティ、そして誇り」

  • 2026.2.28
《India, 2004》 © Yuriko Takagi

京都・二条城で開催した「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023」での展示や、クリスチャン・ディオールとの2024年のコラボレーションも記憶に新しい写真家・高木由利子さん。約40年にわたるキャリアのなかでも、とりわけ長期間に及ぶプロジェクトが〈Threads of Beauty〉です。

いまなお“日常的に”民族衣装をまとって暮らす人々を写し取ってきた30年の軌跡をたどる大規模な展覧会「SHIBUYA FASHION WEEK 2026 Spring × Bunkamura Threads of Beauty 1995 - 2025 ー時をまとい、風をまとう。」が、2026年3月10日(火)より29日(日))まで、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて開催されます。高木さんのクリエイションの源である南軽井沢の自宅兼アトリエを訪ね、展覧会の見どころや創作にかける思いを伺いました。

写真家・高木由利子さん。軽井沢のアトリエで愛猫の天子と。 @SHINNOSUKE MIYACHI

過酷な自然と生きる人の姿に真の「格好よさ」を感じた

━━高木さんのライフワークともいえるプロジェクト〈Threads of Beauty〉のコンセプトを教えてください。

これまで13カ国を旅しながら、大自然のなかの、それも僻地といわれるような過酷な場所で、日常的に民族衣装を着ている人たちを撮影してきました。とはいえ、私は民俗学や地理学といったことにはまったく関心がなく、ただ私が「格好いい!」と心がときめいた人たちを写し取ってきました。

私にとっての「格好よさ」とは何かというと、顔も、表情も、服も一体となって存在していること。服とその人が“オールインワン”であること。それこそが服と人間の関係の原点だと思うのです。

日常的に伝統的な衣服を着ている人というのは、必然性があってそれを着ています。私たち現代人のように、朝起きて今日は何を着ようかと考えたり迷ったりすることがない。彼らにとって服はアイデンティティであり、誇りであり、財産であり、喜び。「私はここにいる」という風情を身にまとっているから、佇まいがものすごく美しい。服に着られている感じがまったくないんです。

そうしたオールインワンの人々がまとっている風情や佇まい、いでたちや所作、そうしたものとの出会いを求めて旅を続けてきました。

━━服と人が一体化したオールインワンの人々とは、どのようにして出会うのでしょう?

けっこう些細なきっかけだったりします。本を読んでいて、たまたまページの片隅にある小さな写真に写っているおばさんが「格好いい」と思ったら、場所を調べてナミビアまで行ったり、映画で見たロケーションや人に惹かれて、そのロケ地まで足を運んだり。

プロジェクトが始まった当初はインターネットもなかったので、いま思うとどうやって調べていたんでしょうね。恐らく図書館に行ったり、本を買ったり、よく知っていそうな人に聞いたり。そうして探し当てるまでのプロセスが、私にとってはすごく重要なことでした。

私はプロジェクトを立てるのが好きで、その名前を考えるのも好きなんです。名前ってすごく大事で、言霊でもあると思っています。名前をつけてプロジェクトを進めていると、それに付随するエネルギーが向こうからやってきたり、こちらが引き寄せられたり、ふと気づいたりするのです。

例えば、日本から見れば地球の真裏にあるアルゼンチンに行きたいと思っていると、ちゃんとアルゼンチンの友人ができたりして、すべてはご縁です。

漠然とやっていても出会いはないし、ただ念じればいいというものでもない。でも、相当会いたいと思っていないと出会えません。今回も、ずっと以前から撮影したいと思っていた女性を本当にギリギリ最後に長野で撮影することができました。

世界中で伝統的な衣服を日常的に着ている人は本当に加速度的に減っていて、じつはこのプロジェクトでいちばん難しかったのが日本です。

《Japan, 2025》 © Yuriko Takagi

━━私たち日本人は、あっという間に着物の暮らしを捨ててしまいました。

いまも365日着物を着ていて、おまけに格好よくなくてはいけないわけですから。日本では、長野の彼女を入れて女性2人、男性3人を撮らせていただきましたが、みんな超格好いいですよ。なかでも男性の1人は、このプロジェクトのキーパーソンともいえる人物です。

私にとっての「格好よさ」のキーワードのひとつに、「ワイルド&エレガンス」というのがあって、お茶会や結婚式できちんと着ている着物も確かに美しいけれど、ワイルドではないですよね。

でも、そもそも着物に限らず民族衣装というものは、その土地の自然素材を使い、その土地の気候や暮らしに直結しているもので、野生をはらんでいるもの。野生って、裏を返せば優雅なんですよ。本当のエレガンスにはワイルドさがあると私は思っています。

日本でそんなキーパーソンに巡り合えたのも本当にご縁。私のプロジェクトを知っていた友人が、道を歩いている彼を見つけて、見ず知らずの人にもかかわらず声をかけてくれたのですから。

中国の山間、コロンビアの山岳、イランの砂漠。旅したのは人に会うのも奇跡の場所

━━そもそも、このプロジェクトを始めたきっかけは何だったのですか?

このプロジェクトの前に私がやっていたのは真逆のことでした。1992年ごろ、スーパーモデルが大流行したのですが、本来の人間と服との関係が無視されているように感じて、私なりのスーパーモデルを探す旅を始めたんです。

イッセイミヤケのPLEATS PLEASEや、ひびのこづえさんのコスチューム作品をお借りして世界中を巡り、そこで出会った人たちに着てもらって撮影していました。彼らは本当に美しくて格好よかったけれど、彼らがもともと着ている服の姿を撮ることはまったく念頭にありませんでした。

そんなある日、アルゼンチンの写真家の友人が、この世界から日々消えつつある民族衣装を日常的に着ている人たちを記録するべきだ、それはあなたにしかできないと言い出したのです。私はもともとフォトドキュメンタリーという分野にはまったく興味がなかったのですが、もうひとつの別のプロジェクトの撮影をしていたとき、思いがけずその機会が訪れました。

━━別のプロジェクトとは、どんなものだったのでしょう?

「旅茶」です。私はお茶が大好きで、いまもお茶にまつわる旅の撮影をずっと続けているのですが、中国の黒イ族を撮影しようと山間を車で走っていたら、裾にフリンジがついた黒くて長いケープを着たおじいちゃんが、細長いパイプをくわえて道に座っていたんです。思わず急ブレーキを踏んで声をかけたら、「うちにおいでよ」と誘われたので、お茶の撮影ができると思って、いそいそとついていきました。

山道を散々歩かされ、ようやく家にたどり着いたと思ったら、どぶろくのような自家製の強いお酒が出てきてがっかりでしたよ。私はそんなにお酒が強くないのに、一気に飲んだらいい気分になっちゃって、目の前にいる彼がすごく格好よかったことに気づいたんです。まさに“オールインワン”の人でした。

そこで、以前アルゼンチンの友人に言われたことがふとよみがえり、私、もしかして撮るのかもと。すぐに気持ちを切り替え、彼を撮影したことから〈Threads of Beauty〉のプロジェクトが始まりました。

“友人は言った。世界から消えつつある民族衣装をあなたは記録するべきだ”
《China, 2002》 © Yuriko Takagi

━━友人の言葉が頭の片隅にあったからこそ、目の前の人と結びつく。すべてが巡り合わせ、奇跡のような出会いだと思いますが、特に印象に残っている出来事はありますか?

コロンビアでの撮影はすごい体験でした。たまたま日本で「dosa*」の展示会に行ったとき、数あるアイテムのなかで、なぜだか白いカバンだけが目に飛び込んできたんです。それを作っているのは白い衣服しか着ないコロンビアの部族だと聞いて、どうしても会いに行きたくなりました。*世界の手仕事を扱うL.A.発のブランド

彼らは自分たちの文化を守るために、外からの訪問者は受け入れないのですが、「dosa」の方がいろいろ工面してくださって、なんとか許可を得て会いに行くことができたのです。でも写真はNGで、まずは話し合いからだと。集会所のようなところに村中の女性たちを集め、周囲から男性たちが見守るなか、通訳を交えたやり取りが3~4時間続きました。フォトジェニック過ぎて、早く撮影したくてたまらなかったけれど、とてもそういう雰囲気ではありませんでした。最終的に撮影できることになったときは、もう涙が止まらなかったですね。ずっと泣きながら撮影していました。

そもそも白って聖なる色です。男性も女性も子どもも全員が白い服を着ているのですが、スピリチュアルリーダーは誰よりも真っ白。彼らは自分たちが地球の中心にいるという意識があって、そのプライドがそのまま服に、佇まいに表れていましたね。

“コロンビアでは、すべてがフォトジェニックで撮りたい気持ちが高まっている中、やっと撮影の許可が降りた瞬間に有り難さと嬉しさで涙があふれた”
《Colombia, 2016》 © Yuriko Takagi

「羊飼い」の格好よさに痺れ、ノマドの住まいの美しさに感嘆する

━━ノマドの民族も多く撮影しています。移動生活をしている彼らとはどのようにして出会うのでしょうか?

友人でもある素晴らしいガイドの方に出会って、彼はノマドの人たちの動きを熟知しているんです。「今週中に、あるノマドの部族がこの山道を通るかもしれない」と。おかげで普通では出会えない旅をイランでは経験しました。

山の中を車で走っていたら、羊の群れを連れた移動中の羊飼いのノマドに会いました。「ご家族は何人ですか?」と聞いたら「410人です」と。つまり、羊たちもすべて自分の家族。動物とともに生きる彼らは、まさに自然の一部。だからなのか、羊飼いや牛飼いって、世界中みんなハンサムで格好いい。

イランの羊飼いは着こなしがオリジナルでとにかくおしゃれ。ある人なんて、片足ずつはいているものが違うから、どうなってるのかしらと思ったら、二枚重ねばきをしていて、暑いから片方だけまくり上げているんです。女性がスカートを何枚も重ねているのも、持ち運べるものには限界があるから、着られるものは全部着てしまう。彼らの着こなしに“なんとなく”はなく、すべてに理由があるんです。

“ハンサムな羊飼い。二重にはいたズボンの片脚を暑くてまくっているだけなのに格好いい”

《Iran, 2007》 © Yuriko Takagi

━━非常に合理的ですね。

すべてにおいて合理的です。ラクダの背中に乗せられる量しかものを持たないので、ノマドの人たちが持っているのは、一つ一つが選び抜かれた必要なもの。すべて自分が好きなものです。だから彼らは堂々として、誇らしげで、満たされた顔をしている。私は「ミニマリスト」や「断捨離」という言葉があまり好きではありませんが、真のミニマリストとは、彼らのように好きなものだけに囲まれて暮らしている人のことをいうのだと思います。

━━Less is more。豊かですね。そして皆さん、すごく着飾っています。

民族衣装はある意味制服ですが、みんな自分なりの工夫をしています。着飾るということもテーマのひとつで、私たちは着飾らなくなりましたよね。おしゃれを怠けているともいえます。

一方の彼らはといえば、私たちが突然訪れても着飾った姿で、家の中も本当に清潔できれいです。ノマドなので、家といってもテントの中ですが、掃除は行き届いているし、お鍋も磨かれていてピカピカ。そもそもゴミの出ない生活をしていることもありますが、彼らは誰のためでもなく、自分のためにおしゃれをしたり、家族のために家を清潔に整えたりしている。あとは神のためというのもあるかもしれません。〈Threads of Beauty〉のシリーズは、まさにおしゃれのバイブルだと思います。

渋谷に忽然と現れた着飾った若い“部族”にもレンズを向けた

━━今回は、渋谷の若者たちを撮影した未発表写真を映像で展示されるそうですね?

2016年に渋谷のクロッシングを歩いている若者たちを撮影したものを、スチールムービーという10分くらいの映像にして流します。もともとイギリス人の詩人との「百人一首」というプロジェクトで撮影していたものですが、今回の会場が渋谷ということで、ふと思い出したのです。

一時期はやったガングロのヤマンバたちは全員女の子で、みんな似た格好をしていましたが、2016年当時の渋谷の若者たちは、女の子も男の子もみんな違っていてオリジナリティがありました。家を出るまで相当時間をかけているのだろうというくらい着飾っていて、とても面白くて、まさしく一つの民族でした。私は「渋谷族」と呼んでいるのですが、「渋谷族」の写真をカラーで、〈Threads of Beauty〉のモノクロの写真をそれぞれ対比させて「同時多発的服飾」と題した映像作品に仕上げました。最初は「渋谷族」が世界の民族に負けてしまうかなと思ったのですが、まったく負けていないんです。

━━この時期だけに現れた渋谷族も、イランのノマドも、いまとなっては貴重な写真ですね。

当時はその時期だけとは思っていなかったのですが、いま思うと本当にそうですね。あのころの渋谷クロッシングは本当に面白かった。いまは着飾っている人も、面白い格好をしている人もあまりいませんし、観光客が大半を占めてしまっていますから……。

イランには、情勢的にも体力的にももう行けないので、行けるときに行っておいてよかったと思います。砂漠とテントと車が一緒に写っている絵なんて、あのときにしか撮れなかった。写っている車は私たち撮影隊のものではなく、ノマドの人たちの車なんです。イランはガソリンが安くて、ラクダの餌代のほうが高いので、彼らはレンタカーで移動していたんです。最初はがっかりしたけれど、フューチャリスティックな感じもしてきてだんだん気に入ってきました。

“ノマドがラクダから徐々にレンタカーに移行している。撮影してみたら新たな風景が見えた”
《Iran, 2006》 © Yuriko Takagi

着飾るは生きるに直結。だからおざなりにしてはいけない

━━今回の展示は、「ファッションとは何か?」という問いをあらためて見つめ直す試みとのことですが、ファッションとは何なのでしょうか?

そもそも服というのはアイデンティティだったわけです。その土地にある素材を使って作られたものが代々伝わり、意識はしていなくても、それを着ることがアイデンティティになっていました。でも、私たち現代人はいま、それを見失ってしまっている。着るものだけでなく、食べるものも、住まいも、すべてがそうです。

グローバリゼーションといえば聞こえはいいですが、世界が一つになるのではなく、単なる西洋化です。それによって、そもそも自分は何者なのか、どう生きたいのか、何が幸せなのかが見失われてしまったのだと思います。そのすべてがいちばん表れやすいのが服ではないかと思うんですね。

でも、情報過多ないまの世の中は、チョイスがありすぎて、自分が本当に何を着たいのかを見極めることは、けっこう難しい。だからこそ、いろいろチャレンジすればよいと思います。自分の固定観念を外して、いろんなものを着てみる。おしゃれの努力は必要で、思う存分エンジョイすることが大事。

いまって、みんな無難な格好をしていますよね。私は「無難」という言葉がいちばん嫌いです。無難な人生なんて面白くないですね。渋谷族や民族とまではいかないまでも、もっとおしゃれをしましょう。着飾ることは自分にとってモチベーションになり、自分がどう生きるかに直結しています。だから、おざなりにしてはいけないのです。

━━〈Threads of Beauty〉のプロジェクトは今回の展示で、高木さんのなかで完結したことになるのでしょうか?

そうですね。私って、民族を撮ったり、ハイファッションを撮ったり、自然を撮ったりしていて、なんだか万屋(よろずや)のように思われるかもしれませんが、私のなかでは全部同一線上にあるんです。結局は人間も自然の一部で、宇宙全体のなかにいる自然も私たちも不思議な存在です。私たちはなぜここで生きているのか、何が幸せなのか。死ぬまで答えが出ないクエスチョンを問い続けています。

AIが生まれたいま、すべてをAIに奪われてしまうのではないかといわれていますが、AIを使うということは、プロセスの部分が不透明になりがちです。でも、私にとってはプロセスがすべてであり喜び。着飾る楽しさや、ファインダーを覗いてワクワクする喜びまでを、AIに渡したくないし、奪われたくない。AIに頼めば、似合う洋服を選んでくれるかもしれない、コンペで優勝するような写真を撮るかもしれない。でもあれこれ試して失敗して、そこからくる気づきもなければ、直接テクスチャーを感じることもできない。プロセスを味わう人間的喜びを、決して手放してはいけないのだと思います。

━━30年前にプロジェクトを始められたころから、ファッションを取り巻く環境も変わり、いま、この作品が渋谷で展示されることはすごく意味があることですね。

いまはみんながどうしていいのかわからない時代に入っています。混沌としたど真ん中に、単にファッションだけでなく、生き方、幸せについてのメッセージになっていると思うので、まさにいいタイミングだったと思っています。

《Bolivia, 2003》 © Yuriko Takagi

たかぎゆりこ〇東京生まれ。武蔵野美術大学にてグラフィックデザイン、イギリスのTrent Polytechnic にてファションデザインを学んだ後、写真家として独自の視点から衣服や人体を通して「人の存在」を撮り続ける。近年は自然現象の不可思議にも深い興味をもち、〈chaoscosmos〉というプロジェクトを映像を含め新たなアプローチに挑戦し続けている。

©︎ Shinnosuke Miyachi
Hearst Owned

■展覧会詳細
SHIBUYA FASHION WEEK 2026 Spring x Bunkamura
高木由利子 写真展 Threads of Beauty 1995‐2025 ― 時をまとい、風をまとう。
会 期 : 2026年3月10日(火)~3月29日(日)13:00~20:00(最終入場19:30まで)※会期中無休
会 場 : Bunkamuraザ・ミュージアム 東京都渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura B1F
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
入 場 料 : 無料
主 催 : 渋谷ファッションウィーク
共 催 : 東急株式会社、Bunkamura
企画制作 : Bunkamura
メディアパートナー : ARTnews JAPAN、J-WAVE
特別協力 : 東急グループ
協 力 : アワガミファクトリー、小松マテーレ株式会社
会場構成 : 田根剛、マキシム・セロン (ATTA)

展覧会公式サイト

■出版情報
本展に合わせ、青幻舎より〈Threads of Beauty〉の写真集が発刊されます。展覧会と合わせてお楽しみください。
タイトル : 『Threads of Beauty 1995-2025 ― 時をまとい、風をまとう。』
定 価 : 12,100円(税込)刊行予定: 2026年3月 ※展覧会会場にて先行発売

書籍公式サイト

取材・文=和田紀子 編集=内田理惠(婦人画報編集部)

〇選りすぐりの記事を毎週お届け。


元記事で読む
の記事をもっとみる