1. トップ
  2. お仕事
  3. 井上芳雄さんと宮澤エマさんがナビゲート「世界最高峰のパフォーマンスを目撃する。トニー賞授賞式は舞台芸術のオリンピックです」

井上芳雄さんと宮澤エマさんがナビゲート「世界最高峰のパフォーマンスを目撃する。トニー賞授賞式は舞台芸術のオリンピックです」

  • 2025.6.9

ニューヨーク・ブロードウェイで上演されるミュージカルや演劇、その年間No.1が選ばれるアメリカ演劇界の祭典・トニー賞。今年で78回を数えるこの歴史と権威ある賞の授賞式を、今年もWOWOWが独占生中継。ナビゲーターを務める井上芳雄さんと宮澤エマさんに、今年度の注目作、そしてゴージャスな授賞式の楽しみ方についても伺いました。

演劇人として携われることが、ただただうれしい

1947年から続く歴史と名誉あるアワードであり、世界の舞台芸術のトレンドをリードするトニー賞は、華やかなパフォーマンスが繰り広げられる授賞式も毎年話題に。日本ではWOWOWで生中継が行われていますが、11年前から番組のスペシャル・サポーター、ナビゲーターとして中継に関わってきたのが、俳優の井上芳雄さん。舞台人として、また演劇ファンとしてトニー賞に関心を寄せてきたひとりです。
 
「ただただ好きで見ていたトニー賞授賞式にこうして長年携われているのは、僕にとってとてもうれしいこと。とくにこの5年間はコロナ禍の影響があったので、『今年もあるのかな?』『どんな形になるんだろう』と……。そんな中でもトニー賞が止まらずに続けてくれたこと、それをお伝えしてこられたことには、胸を張っていいんじゃないかと」
 
そして、4年前からはナビゲーターとして宮澤エマさんが参加。アメリカ在住経験があり、現地のエンターテインメントに長年触れてきた宮澤さんにとっても、やはり特別な体験だと言います。
 
「次もトニー賞の生中継に関われるのであれば、と思えばこそ、向こうで今どんな演目が上演されているのか見ておこうという意識も生まれます。こうして知識をつけながら、日本でトニー賞の紹介といえば芳雄さんと私!というように、ある種〝顔〟として位置づけていただき、日本の視聴者の皆さんによりトニー賞を近づける役割を果たせたらと思ってきました」

新作、リバイバル……今上演する意味を感じる傑作が続々

実は井上さんと宮澤さんは、昨年から今年にかけてそれぞれブロードウェイで舞台を鑑賞。そのなかでおふたりが注目したふたつの作品が、今回、ともにミュージカル作品賞をはじめとする複数の賞の候補に挙がりました。井上さんが推す『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、アメリカ人ギタリストのライ・クーダーがキューバのミュージシャンと出会い、音楽が生まれる様子を収めた1999年のドキュメンタリー映画をもとに制作された新作ミュージカルです。

「キューバのレジェンド・ミュージシャンたちの現在と若い頃をオーバーラップさせ、そこにラブストーリーを絡めた見事なミュージカル。音楽は実際に演奏されていて、歌も全編スペイン語での歌唱です。ミュージシャンであり出演者でもある人たちによる生の演奏や歌唱は圧巻だし、踊り出したらダンスもすごい。ブロードウェイの底力を感じさせる作品でした」

宮澤エマさんが今年の元旦に鑑賞したのは、『サンセット大通り』のリバイバル上演。こちらも1950年にアカデミー賞脚本賞などを受賞した名作映画を元にしたミュージカルですが、新演出版の斬新さにはノックアウトされたと語ります。

「ものすごいパッションを浴びた! という感覚でした。サイレント映画時代の大女優がトーキーの時代に復活を果たそうとして破滅していくんですが、今回の上演では舞台上にカメラマンがいて、その映像が俳優たちの後ろにあるスクリーンに映される。いわゆるメディアミックスの手法で、女優の顔のしわやシミまで、すべてをくっきりと映し出すんです。それによって彼女が何に固執し、何と戦っているのかが観客に伝わる、という……。古い時代を描いた物語ではありますが、スマホで日常的に画面越しに物事を見ている現代の私たちとのつながりを感じさせるという点で、今上演する意味を感じさせる、素晴らしい上演だったと思います」

アジアからの新風が、今後、世界のトレンドに?

さらにもう1作、井上さんが注目しているのが、韓国発のミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』。アジア諸国で制作されたミュージカルがブロードウェイで上演され、ミュージカル作品賞ほか複数の賞にノミネートされるのは初の快挙です。

「2020年に日本人キャスト版が上演された作品。僕は韓国の大学路(テハンノ)で観ましたが、200席くらいの小さな劇場で上演されていた作品がブロードウェイの大きな劇場で、マイケル・アーデン(俳優・演出家。井上さんも日本で『ガイズ&ドールズ』の演出を受けた経験あり)がセットも含めスケールアップして演出していました。今、勢いのある韓国のミュージカル界ですが、今回のノミネートでもしかしたら大きな節目を迎えるのかも……と予想しています」

最近、ソウルを訪問した際にも、現地での盛り上がりに触れ、大いに触発されたという井上さん。

「日本でもオリジナルミュージカルが作られつつありますが、韓国は資本参入も含めて、段階を踏みながらブロードウェイへの進出を達成している。いいなぁ、うらやましいなという思いもありますが、僕たちも焦らず、着実に行かなくちゃと思います」

日本発の作品も、2024年は『千と千尋の神隠し』がロンドン・ウエストエンドで上演され、さらにイギリスで新作として『となりのトトロ』が上演されるなど、コンテンツの世界的交流が進む昨今。日本人も含め、アジア系の躍進が世界で進んでいく未来に、宮澤さんも期待を寄せます。

「ハリウッドでもそうですが、ブロードウェイでアジアが題材になり、アジア系俳優がメインを張る演目が『ミス・サイゴン』のほかにいくつあるのか?というと、本当に数少ないのが現実。でも、今年のトニー賞では、アジア系演劇人たちの葛藤を描いた『イエロー・フェイス』が演劇部門のリバイバル作品賞ほか複数の賞の候補になるなどの動きもあって……。トニー賞は、アメリカの演劇界にこれだけのスキルと才能、努力が集まっているというすごみを感じさせるイベントでもあり、一方で、なかなか解決しない問題点や軋轢を突きつける作品も紹介され、それが世界情勢の理解へも繋がっていく。見終わっても余波の続くイベントだと感じています」

生中継も、ひとつのショーとして楽しんでほしい

さまざまな発見を与えるトニー賞ですが、授賞式は「掛け値なしに楽しい!」と声をそろえる井上さんと宮澤さん。今年は大ヒットしたミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』で悪い魔女・エルファバ役を務めた英国人俳優シンシア・エリヴォが司会を務め、ショーとしての盛り上がりにも期待が集まっています。
 
「俳優もそうですし、スタッフ、ミュージシャン含めて最高峰の人たちがワークショップと稽古を積み重ねて授賞式のステージに挑んでいる。言ってみれば、エンターテインメントのオリンピックのようなもので、披露されるパフォーマンスは理屈抜きに感動できると思います」(井上さん)
 
さらには、生中継する日本のスタジオでも出演者が華やかに登場します。ミュージカル『モーツァルト!』などで注目を集める京本大我さんがスペシャル・サポーターとして、昨年に引き続き2回目の出演、そして『メイビー、ハッピーエンディング』の日本人キャスト版で主演した俳優・浦井健治さんがゲストに登場するなど、期待が高まります。
 
「これまでにも、さまざまなミュージカル演目の出演者の方々がスタジオにやってきて、パフォーマンスを披露してくださったことがありましたよね。新たなゲストの登場など、準備が進んでいるようなので、ドキドキしながら待っています」(宮澤さん)
 
「ただ中継するだけでなく、日本のスタジオからお届けする番組自体がショーアップしたものでありたい。そして、今年の授賞式に登場した作品が、のちにミュージカル映画としてヒットしたり、日本で翻訳版として僕たちが演じさせていただいたりすることもあるかもしれません。決して遠い世界の話ではなく、日本とも地続きなエンタメとして、トニー賞授賞式を楽しんでいただけたらと思っています」(井上さん)


PROFILE
井上芳雄(いのうえ・よしお)
福岡県生まれ。東京藝術大学在学中の2000年にミュージカル『エリザベート』皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、数々のミュージカル、演劇作品に出演。近年は、WOWOWで好評放送・配信中の『生放送! 井上芳雄ミュージカルアワー「芳雄のミュー」』ほか、TBSラジオ『井上芳雄 by MYSELF』、バラエティや音楽番組でMCを務めるなど、活躍の場を広げている。現在、ミュージカル『二都物語』に出演中。

宮澤エマ(みやざわ・えま)
東京生まれ。2013年のミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング〜それでも僕らは前へ進む〜』で舞台デビュー。ミュージカル、演劇作品に出演するほか、テレビドラマ、映画にも多数出演。最近の出演作にドラマ『キャスター』、映画『国宝』など。また、WOWOWでは三谷幸喜脚本・監督による完全ワンシーンワンカットドラマ『ドラマW  おい、太宰』に出演。6月29日(日)午後10時より放送・配信される。


WOWOW『生中継! 第78回トニー賞授賞式』

今年は3年ぶりに舞台芸術の殿堂・ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで開催。ノミネート作品の紹介に加え、世界最高峰のパフォーマーによる歌唱、ダンス、ステージングを、日本時間6月9日(月)午前8時より独占生中継(放送・配信)で届ける。井上さんのブロードウェイ・リポート&宮澤さんによる現地記者へのインタビューを収録した『トニー賞への招待 2025』、ノミネート作品を一挙に紹介する『トニー賞がやってくる!』、そしてスペシャル・サポーターを務める京本大我さんのニューヨーク探訪レポ『京本大我 ハロー・トニー!in NY』もWOWOWオンデマンドで配信中。

撮影/天日恵美子 スタイリスト/吉田ナオキ(井上さん)、長谷川みのり(宮澤さん) ヘアメイク/山田久美子(井上さん)、タマゴ(宮澤さん) 取材・文/大谷道子

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

ファッション、美容、更年期対策など、50代女性の暮らしを豊かにする記事を毎日更新中!
※記事の画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる