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「描きたかったのは挫折からの再生」『京都寺町三条のホームズ』著者・望月麻衣が、元芸能人の女性たちを通して描いた、夢を諦めた先にある可能性《インタビュー》

  • 2026.10.6

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『京都寺町三条のホームズ』『わが家は祇園の拝み屋さん』『満月珈琲店の星詠み』など、人気シリーズ作品を多数手掛ける望月麻衣さんが、2023年11月に初めての単行本作品として発表した『京都東山邸の小鳥遊先生』(ポプラ社)。京都を舞台に、悩める脚本家と駆け出しの俳優がスターへの階段を駆け上がっていく物語に胸を熱くさせる読者も多かっただろう。そんな支持を受け、待望の続編が登場した。それが『京都北山館の魔女たち』(同)だ。

本作の舞台になるのは、京都北山エリアにある洋館レストラン「ソルシエール」。そこにはミステリアスな雰囲気を漂わせる伊月眞白をはじめとする女性たち――“魔女たち”が働いていた。彼女たちはなにを抱えているのか。少しずつその過去が明らかになったとき、読者の心には温かな灯りがともる。そうして確信するだろう。本シリーズは望月さんの新たな代表作だ、と。

そんな新作を発表した望月さんに、作品に込めた思いをうかがった。

新作は「好きなものを詰め込んだ」一冊

(右から)『京都東山邸の小鳥遊先生』(ポプラ文庫)、『京都北山館の魔女たち』(ポプラ社)、2冊同時に購入すると当たる書影キーホルダー(裏表に2冊の書影)
(右から)『京都東山邸の小鳥遊先生』(ポプラ文庫)、『京都北山館の魔女たち』(ポプラ社)、2冊同時に購入すると当たる書影キーホルダー(裏表に2冊の書影)

――洋館レストラン、美味しそうな料理とワイン、タロット占いなど、本作には魅力的なモチーフが鏤められています。

望月麻衣さん(以下、望月):私、ワインが大好きなんですよ。それもあって、いつかレストランを舞台にした物語を書いてみたいと思っていました。さまざまな料理とそれにペアリングさせるワインなどを登場させてみたいな、と。

それから、実は以前からタロット占いも勉強していまして。というのも、「満月珈琲店の星詠み」シリーズで占星術を描いているんですが、占星術を突き詰めていくとタロットと結びついてくるんです。なので、勉強する必然性があった。で、せっかく勉強して詳しくなったんだし、いつかはタロット占いについても書いてみたいなと思っていたんです。

――舞台となる「ソルシエール」で働く伊月眞白、雨宮翠、山田茉莉花の3人はそれぞれが「元芸能人」という過去を持ちます。その設定は、前作『京都東山邸の小鳥遊先生』とのつながりを感じさせますね。

望月:まったく異なる話でありながら、ちょっとだけつながっている世界観の物語にしたいと思ったんです。だから実は、『京都東山邸の小鳥遊先生』に登場したキャラクターをリンクさせています。

それと、私は女性の俳優さんが大好きなんです。昨年、『京都寺町三条のホームズ』を舞台化していただいたんですが、引き受けてくれたのが女性だけで運営している劇団でした。その際、目の当たりにした女性俳優さんのリアルな姿に衝撃を受けてしまって。彼女たちは美しいのはもちろんですが、それ以上にストイックな努力を重ねている。ただ容姿が優れているからステージに立てているわけではなくて、見えない努力を徹底的にしているわけです。その反面、悩みや葛藤も抱いていて、そこは一般の人とも変わりないんですよね。だから、いつか女性俳優さんのことも書くぞ、と思ったんです。つまり今回の『京都北山館の魔女たち』は、私の好きなものを詰め込んだ作品といえるかもしれません。

――「好きなものを詰め込んだ作品」ときくと、ほんわかした印象を持つ人もいるかもしれません。が、本作には非常にシビアな現実も描かれています。たとえば、元アイドルだった茉莉花は「スクールカースト」のなかで常に抑圧されてきました。

望月:アイドルになれるくらい可愛い茉莉花のような子が、スクールカーストのトップに立てるかというと、決してそうではありません。むしろ排除されてしまうことも少なくない。私の学生時代を振り返ってみても、とても可愛い子が何故かいじめられがちでした。当時はそれがうまく言語化できていませんでしたが、大人になってみて、わかったんです。彼女は容姿が優れていたからこそ、声の大きな女子たちから排除されていたんだな、と。しかも、茉莉花はひとり親家庭で育っているので、そうじゃない子たちからはそこを突かれてしまう。

自分自身を幸せにしてあげられるのは、自分だけ

――茉莉花だけではなく、元子役として活動していた眞白や翠にも傷があります。特に「親の期待を背負い過ぎてしまい、親子関係が捻れていく」描写はつらかったです。

望月:そのあたりも完全な想像ではなくて、私が過去に見聞きしたことを反映させました。うちの長女が幼い頃、少しだけ芸能活動をしていたことがあるんです。とにかく好奇心旺盛な子で、本人自ら「テレビに出る人になりたい」と言い出したので、親としては楽しみながら付き添っていました。そうすると、同じように芸能界を目指す他の親子の姿も目に入ってくるようになるんですが、なかにはお子さん以上に頑張られている親御さんもいらっしゃいました。親子二人三脚でやっていける、そういう環境にいる子が成功するのかなぁと当時、印象的に思っていたんです。

――親子であくまでも楽しみながらチャレンジできるならいいことですね。

望月:そうなんです。子どもの主体性を大事にしながらのチャレンジであれば、親子のコミュニケーションだったり、社会性が身についたり、自己肯定感が育ったりと、良い面もたくさんあると思います。ただ、芸能活動に限らず、さまざまな場面で子どもに親の願望を押し付けてしまうことがある。これは私にも身に覚えがあることなんですが、自分が叶えたかった夢を子どもに叶えてもらおうと、子どもに頑張らせてしまうというケースは珍しくない。

――そういったさまざまな過去から、一度は挫折してしまったのが眞白、翠、茉莉花の3人ですね。でも、彼女たちは「ソルシエール」という新しい居場所を見つけ、再スタートを切っています。そこに込めた思いを聞かせてください。

望月:挫折からの再生、を描いてみたかったんです。目標にしていたものがダメになったとしても、絶対に笑顔で輝けることがあるはず。

私自身はどうしても作家になりたくて、何度落選しても諦めずにしぶとくやり続けてきました。結果、こうして作家として仕事ができるようになりましたけど、でも、もしも諦めていたとしても、きっと違う道を見つけて、そこで楽しんでいたんじゃないかなとも思うんです。だから、眞白たちがソルシエールでの仕事を楽しんでいる姿を通して、人生にはいろんな道や可能性がある、ということを感じ取ってもらえたらいいなと。

――そこで鍵になるのが、本作に登場するセリフ「黒魔女の心を救うのは、他の誰でもなく自分自身」ですね。

望月:これは他の作品でもよく書いていることなんですが、結局、自分を幸せにするのも不幸にするのも自分自身なんですよね。自分の運命を決めるのは、結局自分にしかできないことなんです。これはSNSなどで少し前に流行った「自己責任論」とは違います。自分を幸せにするのも、不幸にするのも自分にしかできないこと。それならば、自分のことを幸せにしてあげよう、ということです。

楽しみにしてくださる方がいてくれている限り書き続けていきたい

――眞白たち3人の他にも、本作には悩みを抱えたキャラクターが何人も登場しますが、「ソルシエール」の料理とワインによって、心が解されていきます。そのときの描写が目に浮かぶようで、お腹が空きますね。

望月:そう感じてくれると嬉しいです。レストランを舞台にすると決めたときに、五感に訴えかけるような描写を意識しようと思って。だから、この作品を読んで、美味しい料理とワインを楽しみたいなと思っていただけると本当に嬉しい。

ちなみに、それぞれの料理にペアリングさせているワインも徹底的にこだわり抜きました。そもそも、私自身が普段からペアリングについてすごく考えながらご飯を食べているんです。このお皿は白身魚だから白ワインで、次にお肉が来るから赤ワインで、とか。

――しかも、作中ではワインにまつわる逸話も登場して、それがキャラクターの悩みや置かれている状況とリンクしているのも憎い演出でした。

望月:ワインって、ドラマを背負っているんです。たとえば、本作でも書いた「ヴーヴ・クリコ」には未亡人にまつわる逸話がある。それを知った上で飲むと、味が変わるんです。より深みが感じられて、美味しくなる。だから、この本を通してそんな体験もしてもらえたらいいな、と思います。

――シビアな現実も描かれていますが、ラストには全員が前を向けるような清々しさが漂っていました。本作を書き上げたとき、どんなお気持ちでしたか?

望月:やはり、作者としてもとてもスッキリしましたね。みんな前を向いてくれた……というか、「自分を知って、歩き出した」と感じました。眞白たちはこの先ずっと「ソルシエール」で働いていくのかわかりません。でも、少なくとも現在の彼女たちにとってベストな答えが、そこで働くことなんだと思います。だから、これからも年齢や時代が変わったときにベストな答えを探して、楽しんでいってほしいなと。

――眞白たちがそんなふうに生きられるようになったのは、「自分を知った」から。

望月:幸せを掴むためには、まずは自分を知ることが大事なんだと思います。茉莉花のように「スターになりたい」と思っていたとして、それはどうして? と自分自身に問いかけてみる。そうすると、「みんなに羨ましがられたかった」「馬鹿にされたくなかった」というような本音が見えてくる。そうしたら、それを解消するためにはなにをすればいいのかがわかるし、一歩踏み出せると思います。

――自分自身がわからなくて行き詰まっているような人たちに、ぜひ本作を読んでもらいたいですね。では最後に、望月さんの作品をずっと追いかけてきているファンに向けてメッセージをいただけますか?

望月:2014年にデビュー作を出して、もう12年が経ちます。これまで80作近く世に送り出してきましたが、実は50作目くらいで満足してしまったんです。書きたいものを書き尽くして、満たされた気持ちになってしまったんです。それまでの私はどこか自分の欲求のために書いていたんですよね。なので、50作書いて満足した瞬間から、私にとって小説を書くことが本当の意味での「お仕事」になりました。それはつまり、嫌々書いているということではなくて、自分のためだけではなく、「誰かのために書くことを意識するようになった」ということです。その「誰か」とは、もちろん読者さんたち。「続きを楽しみにしています」「新刊を待っています」といった声があるから、頑張っていこう、恩返ししていこうと思えています。もちろん、それには、今回の作品のように私自身の好きなものをたくさん詰め込んだ作品をこれからもお送りしていきたいと思っていますので、これからも楽しんでいただけると嬉しいです。

取材・文=イガラシダイ 撮影=島本絵梨佳

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