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中前結花「35歳以降は消化試合…そんなことは全然ない!」デビュー作を出したあと目標を失って落ち込んだことも。最新エッセイ集で日々の尊さを振り返る【インタビュー】

  • 2026.10.23

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日々の心の動きや、自身を形作る過去の優しい記憶を丁寧に綴り、広く共感を集めているエッセイスト・中前結花さん。4冊目となる書籍『日々のお星さま。』(文藝春秋)は、5年分の日記がつけられる「5年手帳」をベースに、小さな星屑を拾い上げるように現在と過去の出来事を描いたエッセイ集だ。新刊刊行を機に、本作でのチャレンジや、専業エッセイストとなって約1年を迎えた今の思い、作家としての関心事まで、幅広く話してもらった。

『日々のお星さま。』 (中前結花/文藝春秋)
『日々のお星さま。』 (中前結花/文藝春秋)

5年手帳から始まった、日々の星屑を拾い上げるエッセイ

■――5年手帳をベースにしたエッセイをまとめた本書の刊行までの経緯を教えてください。

中前結花さん(以下、中前):私は小さい頃から日記を書いていて、2024年から「5年手帳」で日記をつけるようになって。5年分を1ページに書くので、1日について書くのは、ほんの140文字程度なんですけど、写真やチケットとかいろいろなものを貼りつけているので、まだ残り2年ちょっとあるのに、かなりの厚さになっているんです(笑)。そのパンパンな手帳を、ほぼ日の手帳チームの方が面白がってくださって、ほぼ日で、5年手帳をベースにしたエッセイの連載が始まりました。

私は昔のことをよく覚えているから、おそらく人より記憶力がいいんだと思うんですけど、日記を書くことでより記憶が定着しているのかなと思っていて。いつか、日記について書きたいという思いもあったので、こういう形で書籍にできて良かったです。

毎日写真を貼ってパンパンに膨らんだ5年手帳
毎日写真を貼ってパンパンに膨らんだ5年手帳

――日記をベースにエッセイを書くことは、今までのエッセイとは違うアプローチが必要だったり、難しさを感じたりしましたか?

中前:内容や分量がこれまでと特別、違うかというとそういうことはないんですけど、今回は何倍も大変でした。今までは、書きたいことを書きたい時に、自由に書いてきたんです。でも今回は、日記をつけた2024年から2026年の春までの出来事に必ず着地するというルールの中で書かなければいけなかったので、書いている途中で、「今までにやったことのないことをやっているな」と気付きました(笑)。

それに、私はこの時期――特に2025年の10月からは専業作家になったので、絶え間なくずっと書いていたんですね。振り返ると、エッセイで取り上げるような出来事が起こりづらかった時期で、そういった意味でも苦労しました。だから今回、教訓になったのは――書く仕事とはいえ、ずっと家にこもって自分の世界にいるのではなくて、もっと外の世界に出ていって、人と会って何かを一緒に深めたり、新しいことにチャレンジしたりして、心を耕す作業を怠らないようにしないとな、と強く思いましたね。

エッセイを通して読者に伝えたい「心強さ」

――1冊の本として形にするにあたって、大切にしたことは何ですか?

中前:これまでもずっと私は、強くて優しい文章を書くことと、読んでくださった方が、同じ体験をしたわけじゃないのに自分の体験を思い出したり、懐かしく感じたりする、そんな読後感を生む文章を書くことを大切にしてきて。でも今回はより強く、読んでくださった人が昔の出来事や大事な人のことを思い出して、心強く感じてもらいたいと思って書きました。

日々って面倒で、どうしようもないこともあるけれど、探せば絶対に、嬉しかったことや、誰かに支えてもらったことはたくさんあって、そこに目を向ければ、「自分の人生、捨てたもんじゃないな」と思えるので。読んだ人が「自分も大丈夫だ」と思えたり、「大人になるって怖いことじゃないな」って、心強く思ってもらえる作品にすることを強く意識しました。やっぱり大人って、楽しいけど、さみしいじゃないですか。そういう気持ちでいる人にも寄り添える1冊になれば嬉しいですね。

――中前さん自身も、そういうエッセイを書くことで力を得られるということはありますか?

中前:私、『好きよ、トウモロコシ。』というデビュー作を書き終えた後、いつか本を出したいという目標が叶って、天井が見えてしまったような閉塞感から、落ち込んでしまった時期があったんです。でも、たとえばイラストレーターの柴田ケイコさんや、クリエイターの方々の素晴らしい活躍に大きな刺激を受けて、作家として、より高みを目指すことを諦めたくないと思って、なんとか気力を取り戻して書き続けてきたんです。

よくSNSなどで、「35歳以降は消化試合」と言われたりしますよね(笑)。書き続けていて思うのは、そんなこと全然ない、ということ。大人になるのは楽しいし、毎日がさーっと過ぎていく中では気付かないかもしれないけど、日記を振り返ってみると、嬉しかったことや、もらった言葉とか、小さなお星さまのようなことはたくさんあって。それを思い出して心強くなれたり、その重なりが大きな喜びにつながることは、年齢関係なく人生にずっとあると思うので、この本でそれを伝えたいと思いました。

それを書くことで、私自身もそう思い知らされましたね。たとえば、「青いワンピースひらり」という本書の1篇を書いて、この体験は自分にとってすごく大きな意味があったと再確認できて。今回、私が伝えたかったメッセージを一番痛感したのは自分だろうなって思います。

実りの時期を経て、作家として新しい側面を見せたい

――このエッセイで書かれている2024年~2026年の春頃は、ご自身の人生やキャリアにとってどういう時期でしたか?

中前:書くことしかしていなかったように見えて、実は人生やキャリアという視点で考えると、大きな転機でした。ずっと願っていたことが叶ったり、今までやってきたことが実ったりする時期だったんですよね。デビュー作の『好きよ、トウモロコシ。』や、過去のお仕事がいろんな縁を運んできてくれて、専業エッセイストとしてやっていけるという自信を持つことができたし、頑張って続けていたら、見てくれている人っているんだなというのを改めて思いました。ご縁や、人と人のつながりで人生って動いていくんだなと体感した1、2年でしたね。

――専業作家になられてからのこの1年を振り返った実感と、エッセイストとしての今後をどう見据えているか、教えてください。

中前:ありがたいことに、嬉しいお仕事や、思ってもみなかったご依頼をいただいて、面白い体験がたくさん重なり、日々、前進していることを実感できています。それに私、推敲が好きなんですね。最初に書きあげてから、書き直して、書き直してという作業を、1編につき12日ぐらいするんです。やっぱり、推敲を重ねるごとに良くなっていくので、自分の成長を感じられるし、この1年でも大きく変化したと思います。今は、短編のエッセイを書くことに加えて新しいことにも複数チャレンジしているので、専業になって2年目からは、読者の方に、作家としての新しい側面を見てもらえたらいいなと思っています。

――書くだけでなく、登壇など、お仕事の幅も広がっていますが、おっしゃったような意外なオファーも受ける中で、依頼先からの期待やご自身に求められるものに、どう向き合っているのでしょうか。

中前:講師として呼んでいただいたりして、いろいろな場所で話をする機会も多いのですが、よく「いい文章を書く方法は?」とか「文章力を鍛えるにはどうしたらいいんですか?」と聞かれるんです。これは今もずっと向き合っているテーマなんですけど、私、書く時にあまり文体や構成について熟考してこなかったので、そういう質問にうまく答えられているか、自信がないんですね。でも、書き方を深く考えていないとはいっても、私の脳のどこかはピクピク動いているはずで(笑)。そこを掘り下げて、自分がどういうふうに考えて書いているのかを理解して、人に尋ねられた時に正確に伝えられるようにしたいというのは、最近、すごく思っています。就活以来の自己分析ですね(笑)。

取材・文=川辺美希、撮影=後藤利江

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