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【インタビュー】アリシア・クワデ「私たちが現実だと思っているもの」Pace 東京で10/29から個展が開催

  • 2026.10.26
アリシア・クワデ PHOTO: DORO ZINN

大理石の球体の数々が細いステンレススチールの構造体に挟まれている。太陽系の惑星がこつぜんと地球に不時着したかと思わせる異質な存在だ。ポーランド出身のアーティスト、アリシア・クワデはこうした巨大な石とスチールフレームを組み合わせた彫刻作品を世界各地に設置してきた。

「見慣れたモノや存在を、その認識からずれた環境や状態に置くことで、私を含め人の認識がどう変わるのかに興味があります」とクワデは言う。巨大な石の球体が宙に浮遊した状態を見て、その非現実性を人はどう解釈するか、それが重要なので、構造上必要な支持体のステンレススチールはできるだけ存在を感じさせないように細くされている。2019年、ニューヨークのメトロポリタン美術館の屋上に設置した作品《ParaPivot》も同様に、いくつかの軸から扇状(ピボット)に配置されたスチールフレームのなかに、9つの球体がはめ込まれたタワーのような彫刻だった。ノルウェーをはじめ、ブラジルなど9カ国から採石された石は地球の歴史の縮図のようでもある。

《ParaPivot II》(2019) 粉体塗装スチールと石(オーデンヴァルト・クオーツ、ローザ・ポルトガロ、ワンダーグレイ、マシ)、400×301.4×626.5㎝。2019年、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)での「ルーフガーデン・コミッション:アリシア・クワデ」展示風景より。 COURTESY OF THE ARTIST; 303 GALLERY, NEW YORK; KÖNIG GALERIE, BERLIN; AND KAMEL MENNOUR, PARIS/LONDON. PHOTO: ROMAN MÄRZ, © THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART

「メトロポリタン美術館は数千年におよぶ人類の英知を収蔵したモノの館です。その屋上に、何億年もの時が生んだ世界各地の石を王冠のように載せてみようと思ったんです」と彼女は話す。「同時に、人間の野望の塊ともいえるニューヨークという街の摩天楼に、自然でできたモニュメントを対峙させてみたかった」と続ける。

クワデは幼少期を社会主義政権下のポーランドで過ごした。そして8歳の時に資本主義の西ドイツに家族と移住した。社会体制の異なる2カ国で子ども時代を過ごしたことは、世界の捉え方が一辺倒ではないことを彼女に感じさせることになった。

「周りの社会がなぜこのような仕組みなのか、何が真実なのか? 今日とは、明日とは、何なのか? なぜ地に足がついているのか? 生来、疑い深い性格なんです。子ども心にいつもどうして?と思っていました」

こうした好奇心の強さが彼女を探求活動へと向かわせてきた。

「物質自体にはいろんな側面があり、私たちはその時々でひとつの側面を認識しているだけだと思うんです。別の状況に置かれると同じ物質でも違って見えます。そうした人間の認識のあやうさに興味があります。モノの状態によってその見え方は変わりますが、顕微鏡を覗くようにモノを拡大し、解像度を上げてその中核に近づけば近づくほど、すべてが原子、さらに素粒子、無に行き着き、そうなるとどれも違いがなくなってしまう(笑)」

《Stella Sella》(2023) パティネ仕上げのブロンズ石 123.5×59×128㎝。パリのチュイルリー庭園でのインスタレーション風景から。 PHOTO: ARCHIVES KAMEL MENNOUR

“見慣れたモノや存在を、その認識からずれた環境や状態に置くことで、私を含め人の認識がどう変わるのかに興味があります”

彼女の作品のなかにロッキングチェアと思われるモノと巨岩(ロック)が融合した作品《Stella Sella》がある。ロッキングチェアの座面が剝がされ、剝がされた隙間に石が抱かれているモノだ。パリで多くの人たちが訪れ、ベンチでくつろぐ姿を見かけるチュイルリー公園に置かれたこのオブジェに“座っている”のは、人間ではなく、巨岩だ。突飛な組み合わせに目を奪われるが、巨岩がどこか人格を持っているようで愛嬌がある。

「木の椅子はどんなデザインのものでも、製材された木材からできていて、その木材はどれも樹木からできています。椅子の細部に顕微鏡を当てて拡大してみると樹皮の表面を覗き込むことになります。つまるところ、木なのに、人は木のどの状態で椅子と認識するのか、という問いかけです」

それを聞いて、私たちの暮らしに大きな影響を与えてきたミッドセンチュリーアメリカを代表するデザイナー、チャールズ&レイ・イームズ夫妻が1977年に発表した『Powers of Ten』という映像を思い出した。映像はカップルが公園で寝転がっているシーンを1メートル真上から捉えたショットで始まる。その後、カメラは鳥の目線のように視座を上昇させ、やがて地球の成層圏を超え、さらに銀河系から宇宙の果てへと何億光年も隔たれた時空へ視界を広げていく。その後は逆に、魚の目線のように銀河系から解像度を上げていき、地球に入り、さらに視野を狭めて、細胞から最後には10のマイナス16メートルの素粒子までクローズアップしていく。極端な話、物質はどれも素粒子に行き着くということになる。

《ParaPivot (sempiternal clouds)》(2020) 大理石と粉体塗装ステンレススチール 635×858.6×587.1㎝。2020年、カリフォルニア州コーチェラ・ヴァレーの砂漠地帯で開催された野外現代アート展「デザートX」の展示風景。 PHOTO: LANCE GERBER, COURTESY OF THE ARTIST AND DESERT X

このように知覚の緩急を探求するうえで、クワデにとって平面は事足りなかった。創作を始めた頃はドローイングやスケッチなど描くことで表現を試みてきたという。

「紙は身近にあるものですし、学生時代は素材を買う金銭的なゆとりもなかったから。しかし、私が考えていることは観念的なこと。例えばティーカップを見たら、多くの人はお茶を飲むための器と連想するでしょう。鏡を見れば、対象を映し出すものと連想するでしょう。こうしたモノに既にある属性、キャラクターに、別の役を演じさせて、見る人の認識を揺さぶるのが私のコンセプトです。なので、真っ白な紙に何かを描き出す絵は表現手段として向いていません。絵描きがするように色を与えるという概念も私にはピンとこないんです」

モノの役割を変える。先述の《Stella Sella》においても、公園で椅子に座る人の代わりに、椅子に座る岩にその役を与えた。「巨岩は、何億年もの年月が積層した自然の知の重み。知は人だけのものと思いがちですが、積み重なった知の人格を岩に与えたかったんです」

こうした既存のモノに別の目的を与えるクワデの活動は、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの思想を起点とすることが多い。アリストテレスは、自然界に存在するものには既に何かの目的(テロス)があり、その目的に向かって進化していくという目的論(テレオロジー)を唱えた。例えば、種子は成長し、成熟した木になるために存在する。この存在の目的にクワデは“悪戯(いたずら)”をしかける。

2025年、ペース・ギャラリー(ニューヨーク)での個展「Telos Tales」展示風景より。 photo: PETER CLOUGH, COURTESY OF THE ARTIST, PACE GALLERY, NEW YORK | LONDON | HONG KONG | PALO ALTO | GENEVA | SEOUL | EAST HAMPTON | PALM BEACH

2025年にニューヨークのペース・ギャラリーで開催した個展「Telos Tales」で、『不思議の国のアリス』の世界のように時間を物理的に引き延ばすことを試みた。土管ほどの大きさのスチール管に挟まれた時計は、時を刻むとともに秒針の音がチューブに反響する。チューブの中を覗き込むと永遠に反響し続ける秒針音に包まれ、時計の目的である“今”を示すよりも、時が引き延ばされてつながっている感覚になる。鏡面仕上げのスチール管の中で、時計そのものが歪んで幾重にも映り込むことで、さらに時間の感覚が揺さぶられる。

「時計の目的そのものに遊びを加えたかったんです。今という一瞬を示すのが時計の役割ですが、時は一瞬たりともとどまることなく、砂時計のように流れていきます。今は過去になり、未来は今にやってきます。すべてシークエンスになっていることをこの装置で伝えたかったんです」

私たちは今というよりも、常に過去と未来の“In between”に挟まれているのだ。

ALICJA KWADE
アリシア・クワデ: 1979年、ポーランド生まれ。1987年に当時の社会主義政権を逃れて西ドイツに移住。以来、ベルリンを拠点に活動する。ありふれたモノに異なるふるまいをさせることで人の知覚の拡張を促す。2019年の瀬戸内国際芸術祭では、伝統的日本家屋の中に残る柱や梁、畳を生かし、そこにステンレススチールのリングと巨石を組み合わせて惑星の軌道を連想させる彫刻を展示した。

10/29〜12/24、Pace 東京(東京都港区虎ノ門 5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザ A1 - 2階)
今回のために構想された大小さまざまな彫刻を配したインスタレーションに加え、紙の作品が展示される本展では、物と物との間や内側に存在する、普段は意識されない、目には見えない空間へと見る者を誘う。

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