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井之脇 海、『バックルームズ』ケイン・パーソンズ監督と対談!自分があの部屋に行ったら何が表れる?ーCINEMA GREET vol.12

  • 2026.9.19
TAKU TSUTSUI[TRON]

俳優・井之脇海が世界の映画人と作品について掘り下げる不定期連載「CINEMA GREET」。12回目のゲストは絶賛公開中の『バックルームズ』を手がけたケイン・パーソンズ監督。16歳で発表したYouTube短編動画「The Backrooms(Found Footage)」がネットで話題になり、17歳で映画化を始動。19歳で撮影し、作品が全米公開されると、初週末に興収8100万ドル(約129億円)を突破。A24史上最大のヒット作となった。現在、21歳の監督は全米および世界興収ランキング1位の映画を生み出した“史上最年少監督”。もちろん、連載の対談相手としても最年少。

一人称の視点の映像をどう映画化するか、気になった――井之脇 海

井之脇海(以下、I) 日本公開、おめでとうございます。

ケイン・パーソンズ(以下、K)ありがとうございます。すごくワクワクしています。

I アメリカでの成功をはじめとした世界的な評判を聞いて、僕の周りの映画好きたちも皆、公開を待ちかねていました。アメリカでの手応え、高い評価をどのように受け止められていますか。

K もちろん、うれしいです。本当に思っていた以上と言いますか、こんなに成功するとは思ってもみなかったので、とにかく驚いています。いろんなメディアから取材を受けながら、いい意味で戸惑っています。なんとか状況を理解しようと頑張っているところです。

YouTubeの人気短編動画を待望の映画化。舞台は1990年。家具販売員のクラークは、ショールームの地下で不気味に輝く「異空間への入り口」を発見する。その先に広がっていたのは、見覚えのある部屋や廊下が無限に続く、巨大な迷宮だった――。 © 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

I YouTube動画は不特定多数の方が見ますが、映画は映画館に行かないと観られないですよね。規模が大きくなって、映画として作る上で、より意識したことはありますか。

K 『バックルームズ』は元々YouTube上で、何年もかけてバックボーンが作られていったのですが、とてもコンセプチュアルなものになっていきました。僕がYouTubeに発表した短編動画「The Backrooms(Found Footage)」は映像を追いかけるカメラの後ろにキャラクターがいる設定です。YouTubeを観ている大勢の人にはそのイメージが強く、慣れ親しんでいるといえます。

I 僕も観ました。カメラで捉えている一人称の視点の映像をどう映画にするのか、気になっていました。

K 違うメディア、つまり映画にすることになり、それまでの『バックルームズ』のアイデアをどうやって伝えたらいいか、考えました。まずはキャラクターを設定して、登場人物たちが観客の代わりに“代理人”として、いろいろ体験していく。その様子を通じて、観客も一緒に経験するような形にするといいかなと思ったんです。そうすることによってYouTubeで形成された映像と同じような感覚が得られると思いました。YouTube時にもあったストーリー的なものは、キャラクターを立てることで、長編映画にも通用すると考えました。

© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

I キャラクターが代理人というのは面白いですね。POV(主観)の一人称の視点から、カメラ自体が三人称の視点に引いていきますが、そういうことを意識されていたから、映画のフォーマットになっても観客が追体験できるんですね。オープニングのPOVは怖さもあるけれど、単なるホラーと違って、超自然SFでもあり、物語にぐいぐい引き込まれていきます。怖いのに、観ずにはいられません。役者さんがよき代理人になるために、どんな演出、ディスカッションをして人物像を作り上げていったのでしょうか。

K かなり自然だったと思います。キャラクターについて、できるだけ説明を尽くしましたし、ビジュアルで伝えたものもいっぱいありました。例えば、最初のシーンでクラークが自分の家具店の地下のソファーで寝ていますよね。あれは自分が最初に思い浮かんだアイデアです。最小限でありながら、十分な情報を与えることを考えました。映画のなかのキャラクターたちはすごく存在感がありますが、実は台詞はそれほど多くないんです。キャラクターが事情を知った案内人のように、バックルームズの中へ観客を連れて行く形にしたいと考えました。

I なるほど。俳優たちはガイドなんですね。主演のキウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェはさすがだと思いました。感じたままのセンスで、バランスが保たれています。僕が案内人になるとなったら、監督に質問しまくると思います(笑)。どれぐらいのレベルのフラットさが適切なのか、恐怖の度合いは? 何より、なぜ、これが具現化して表れているのか、どんなバックボーンがあるのか。なぜ、それを怖がっているのか。感じたままだけで動いていくと、お客さんを置いてきぼりにしちゃうような気がするので、緻密にやりたいです。

リアル空間で、俳優自身が囚われていく

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K 僕としては、それぞれのキャラクターが観客に全部の種を明かすことなく、それでいて、ある程度の情報は与えてほしいんです。その役割のために役者さんがいます。俳優の方々は熟練の人たちですから、私がいろいろ言わなくても、直感的にわかってくださる方が多かったです。そのためにセットはリアルなものを作りました。実際、組み立てたのですが、3万平方フィート(約2787平方メートル、テニスコート約11面分)あります。

I 3万!? どれぐらいの大きさなのでしょうか。とてつもなくて、想像ができません(笑)。まず見たことのないようなものだろうということだけはわかります。

K 本当にリアルなセットなので、そこに実際にいると、直感的な反応が出てしまうと思います。セットに立ってもらったらわかりますが、360度あたりを見回しても、ブルースクリーンなど、一切ありません。映画の中にいる感じ、あのままです。すごく特別な空間の実物を作ったんです。

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I 入り込んでみたいですね。グリーンバック、ブルーバックの前で撮影するとなると、俳優はどうしても想像しなければいけない部分が出てきてしまいます。その場に全部、あってくれると、芝居をする上での制限がなくなる。没入を妨げるものがない、実にいい環境だと思います。役者側も演じつつも、本人自身がそこに囚われて、どこか半狂乱に、おかしくなっていく様は役者さんの演じている境がなくなっているようです。観ている側も自分を投影できるのは、そういう風に作られていたからなんですね。

K 本気でとことん怖がらせようといったやり方ではなく、そういう状況を作って、じわじわ来るような、より繊細なアプローチをしています。もっとふわっとした形で怖さが来るようなやり方をしているので、それがうまく機能したのだと思います。

怖いけど触って確かめたくなる。それが人間らしい――ケイン・パーソンズ監督

I 不気味な部屋や埋まっている椅子や家具に主人公たちが物理的に触れていくじゃないですか。そこがまた面白いと思いました。不気味なものって触れたくなる。怖いけど触って確かめたくなる。それが人間らしいと思ったし、そんな些細なことにドラマがある気がしました。監督は怖がらせるポイントが演出として、絶妙ですよね。いわゆる、見える、見えないの見せ方のライン。見ていて怖いし、見えないからこそ想像してしまうものがたくさんあります。一番大事にしていたことはどんなことですか。

K 僕がYouTubeでショートビデオを手がける以前から、バックルームズはすごく広い場所なんだっていう、みんなの認識があったんです。とんでもなく広大だから、いろんなことが起こり得る、何が起こってもおかしくないと思われていました。それでいて、あの場所は一見すると、日常によくある、味気ないくらい、なんの面白みもない空間でもあるわけです。そういう空間を目的もなく、5分ぐらい歩いていくと、見慣れた景色が繰り返されるだけで、どこにどう繋がっているか、わからなくなります。だけど、ホラー好きな人たちには「そろそろ、何か起こるんじゃないかな」って脳がトレーニングされているようなところがありますよね(笑)。僕としては、バックルームズを自然なシステム、例えば、森林みたいなものだと思って、扱っています。何かあるかもしれないけれど、必ずしも怖いものじゃないかも知れない。もちろん、怖いものかもしれない。ただの鳥かも知れないし、そうじゃない場合もあるでしょう。変わらないような場所をどんどん歩いていると、体のテンポは落ち着いてきます。「そこを曲がったら、何か出てくる!」という刺激が収まった時にこそ、「後ろで、何か起こるかも」と常に頭は危険に備えていなければなりません。

TAKU TSUTSUI[TRON]

バックルームズは、自分自身の心の中に落ちていくような場所――井之脇 海

I 僕はよく山に登るんですが、僕にとって、山はどこか精神世界に近いようなところがあります。歩いていると、自分の心の奥にどんどん入っていく感覚があるんです。逆に山で起こったことがもしかしたら、表の世界、現実に影響を与えているかも知れない。今のお話を聞いて、バックルームズって本当にあるのかどうかはともかく、自分自身の心の中に落ちていくような場所なのかも知れないって、腑に落ちました。だからこそ、主人公たちのコンプレックス、トラウマのようなものが具現化されて現れていたりするんでしょうね。

K まさにその通りなんです。バックルームズはある種、真っ白なキャンバスみたいなものだと思っているんですよ。感覚を遮断されて、真っ白な何もない部屋にぽんと入れられてしまうとどうでしょう。人間は普段から何かしらのノイズや信号、いろんな刺激を受け入れたり、遮断したりということを無意識にやっているものですから、そういう外的刺激が一切、削除されてしまうと、自分の中にあるものを探求し始める。そのうち、幻覚が出てくるんです。内的なプロセスを外在化しようとする心理です。つまりバックルームズでは夢のようなことが覚醒状態で起こっているのだといえます。

© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

I 監督自身、バックルームズに行ったら、どんなものが現れそうですか。

K 僕が入ったら、どうなるかは全く思いもよらないですね。予期できないと思います。もしかしたら8歳の時にちょっとだけ見た小屋みたいなものが80回ぐらい出てくるかも知れない(笑)。自分の脳の中で、普段使っていない部分、自分の意識として大事とも思ってないもの。ランダムではないと思うんですけど、記憶の中を探っていったら、何が出てくるかはわかりません。

I 今、ぱっと思い浮かんだんですけど、僕のバックルームズには岩がいっぱい出てくるんじゃないかと思いました。山を登っていて、岩で怪我をしたこともあります。好きだけど、苦しい、怖いものでもある。あるいは、ひたすら台本がいっぱい置いてある部屋が出てくるかもしれない。想像しただけで、なんて恐ろしい部屋なんだと思います(笑)。

バックルームズは社会的なレベルでも起こりうる――ケイン・パーソンズ監督

K 現在は社会的なレベルで同じようなことが起こっているのではないでしょうか。個別化が進んで、周りとの繋がりが少なくなり、遮断された情報の中でパターンを見つけようとするから、陰謀論が生まれたりするのだと思うんですよね。

I すごく若いのに、いろいろな視点で深く考えていらっしゃるんですね。映像は怖いし、SF作品だし、お会いするまではどんな方かと思っていたんです。落ち着いていて、柔らかな印象で、映画に対する造詣も深く、本当に素敵です。今回、長編映画を撮ってみて、実感があったと思うのですが、今後も引き続き『バックルームズ』の世界を広げていくのでしょうか。あるいは別のジャンルの映画を手がけてみたいなど、考えていらっしゃることはありますか。

終始和気あいあいとした対談。最後はお互いに肩を組んで意気投合した。 TAKU TSUTSUI[TRON]

K 『バックルームズ』のプロジェクトは既にもういくつか、動きだしています。それをやりつつ、オリジナルの長編映画でやりたいことがあります。テレビシリーズにも興味がありますし、自分のチャンネルがありますから、YouTubeの投稿も相変わらず続けています。音楽もやっています。一つの分野に限らず、忙しく、いろんなフィールドを行ったり来たりしています。もしかしたら、ビデオゲーム分野に進出するのもありですね。

I ぜひ日本でも何か作品を撮ってほしいです。場所はどこかわからないですけれど、精神世界的なものに触れて、自分を知っていくみたいな作品を監督とぜひ、やってみたいです。

K 日本を舞台とした何かできるといいですね。実際、やりたいと考えています。英語はできますか。

I 自信はありませんが、撮影までに間に合わせます。

K 僕も第二外国語を何か学びたいと思っているんです。ネイティブじゃない言葉での撮影に興味があります。ぜひ、一緒にやりましょう。ご連絡します。

『バックルームズ』大ヒット公開中

配給:パピネットファントム・スタジオ

井之脇 海/1995年11月24日、神奈川県横須賀生まれ。9歳から子役として活躍、日本大学芸術学部では映画を学ぶ。2008年、映画『トウキョウソナタ』で複数の新人男優賞を受賞。近年の出演作として、第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品『ONODA 一万夜を越えて』、『almost people』、『バジーノイズ』、主演ドラマ『晩餐ブルース』(配信中)、Netflix「今際の国のアリス シーズン2」(配信中)ほか、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』出演。2026年は主演映画『君は映画』、舞台「レディエント・バーミン Radiant Vermin」などに出演。9月21日から東京芸術劇場にて森新太郎演出の舞台「リア王 -King Lear-」エドガー役を控える。
Instagram: @kai_inowaki

ケイン・パーソンズ (Kane Parsons/2005年6月18日生まれ。カリフォルニア州出身。独学で映像制作を学び、卓越したVFX技術を身につけた新世代の映像作家。2022年に公開したYouTube短編『The Backrooms』で一躍注目を集めた。同作は不気味な空気感と没入感のある世界観、心理的な恐怖を巧みに描き、瞬く間に話題に。長編映画『バックルームズ』(2026)で、A24史上最年少の長編監督デビュー。

Photo : TAKU TSUTSUI[TRON] Styling: SHINICHI SAKAGAMI(ShirayamaOffice) Hair & Makeup: TOSHIHIKO SHINGU(vrai management)Text : AKI TAKAYAMA

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