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「同じマンションだったんだ」住む場所を知られてから、朝の電車まで気になるようになった

  • 2026.9.17

同じマンションだと、知られた日

高校二年の秋、塾から帰った夜のことです。マンションのエレベーターに乗ると、あとから担当の先生が入ってきました。

板書の字がきれいで、話し方も穏やかな先生でした。今思えば、大学生くらいのアルバイトだったのだと思います。

扉が閉まると、先生が私の顔を見て驚きました。

「あれ?もしかして、ここに住んでるの?」

「はい。先生もですか?」

「うん。びっくりした。全然知らなかった」

私も「私もです」と笑って返しました。

四階に着くと、先生は「じゃあ、また塾で」と手を上げて降りていきました。私はそのまま八階まで上がりました。

その日は家でも、「塾の先生、同じマンションだった」と母に話したくらいです。

ところが、その週から少し様子が変わりました。

それまでも授業時間の変更などで連絡が来ることはありましたが、先生から授業とは関係のない内容が届いたのは初めてでした。

「この前旅行に行ったんだけど、お土産を渡したいから、次の授業のあと少し待っててもらっていい?」

少し戸惑いましたが、深く考えずに返しました。

「ありがとうございます。塾でお願いします」

その日は授業のあとにうまくタイミングが合わず、受け取らないまま帰りました。

数日後、また連絡が来ました。

「この前渡せなかったね。次こそ渡すから」

さらに、そのあとにも。

「今日こそ持ってきてるよ。帰る前に声かけて」

お土産を渡したいという連絡は、結局三度続きました。

三度目の画面を見たとき、すぐには返事ができませんでした。

嫌なことを書かれたわけではありません。二人で会おうと誘われたわけでもありません。

ただ、それまで教室でしか接点のなかった先生が、急に自分の生活の近くまで入ってきたような感じがして、少し落ち着かなかったのです。

朝のホームでも、顔を合わせるようになった

年が明けてからは、朝の電車でも先生を見かけるようになりました。

私はいつも七時十二分の電車に乗っていました。ある朝、同じ車両に入ってきた先生が私に気づきました。

「あ、おはよう。朝もこの電車なんだ」

「……おはようございます」

「学校、こっちのほうなんだね」

「はい」

それだけの会話でした。

同じマンションに住んでいて、出かける時間も近いのなら、同じ電車になること自体は不思議ではありません。

それでも翌朝も先生の姿を見かけると、私は無意識に少し離れた場所へ移動していました。

何日かして、一本早い電車に乗った朝にも、ホームの離れた場所に先生がいることに気づきました。

「たまたまだよね」

心の中ではそう思いました。

先生が私に合わせている証拠などありません。それでも、その日は先生から見えにくい別の車両に乗りました。

それから私は、ホームに着くと先に周りを見るようになりました。

家でも同じでした。

エレベーターの扉が開く直前、中に誰がいるのか気になるようになりました。階数表示が四階で止まっているのを見ると、先生が乗っているかもしれないと思い、そのまま階段で八階まで上がったこともあります。

母には言えませんでした。

話せば、「そんなに気になるなら、塾を変える?」と言われる気がしました。でも塾を変えたところで、同じマンションに住んでいることは変わりません。

友だちには、一度だけ話しました。

「最近、塾の先生と朝もよく会うんだよね」

「この前言ってた、同じマンションの先生?」

「うん」

「でも、その先生って優しい人なんでしょ?」

「うん。別に、何かされたわけじゃないんだけど…」

少し黙っていると、友だちが聞きました。

「じゃあ、なんでそんなに気になるの?」

「分かんない。でも、会うとちょっと嫌なんだよね」

それが、そのとき言える精いっぱいでした。

先生が悪いことをした、と言い切れるような出来事はありません。

ただ、家を知られ、朝の電車でも顔を合わせるようになって、それまで塾の中だけにいた人が自分の日常の中にもいることが、私には怖く感じられたのです。

高校を卒業したあと、私はあのマンションを出ました。

今は別の街で働いていて、あの先生がどこで何をしているのかも知りません。

それでも今でも、エレベーターの扉が開く直前、ほんの一瞬だけ中に誰がいるのか気になることがあります。

あのころ身についた癖だけが、まだ残っています。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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