1. トップ
  2. エピソード
  3. 「あの人、5000円しか包まなかったんだって」香典の金額を聞いて回る親戚に、私が最後まで答えなかった理由

「あの人、5000円しか包まなかったんだって」香典の金額を聞いて回る親戚に、私が最後まで答えなかった理由

  • 2026.9.15

通夜の翌朝、食卓ではじまった話

通夜が明けた朝、泊まった親族が広間の食卓に集まっていた。

前の晩に受付や片づけを手伝った人たちも残っていて、眠そうな顔で湯呑みを手にしていた。

私と夫は、家で相談して決めた額を包んでいた。目安を調べ、夫の親にも一度確かめたうえで用意したものだった。

味噌汁が行き渡ったころ、向かいに座っていた親戚が湯呑みを置き、少しだけ声を落とした。

「ねえ、あの人、5000円しか包まなかったんだって」

箸を止めたのは私だけではなかった。名前を出されなくても、誰のことを言っているのか分かってしまった。

私は気になって聞いた。

「そういう金額って、分かるものなんですか?」

「昨日、受付のあとに香典の整理も手伝ったのよ」

それなら金額を知っていること自体は不思議ではない。それでも、みんなが食事をしているところで話すことには少し抵抗があった。

「でも、本人がいないところで金額の話をするのは、ちょっと……」

私がそう言うと、親戚は少し目を丸くした。

「あら、悪く言うつもりじゃないのよ。ちょっと意外だっただけ」

話はそこで途切れたものの、その朝のうちに私も金額を聞かれた。

台所で布巾を絞っていると、その親戚が近づいてきた。

「そういえば、あなたたちはいくらにしたの?」

「うちは夫と相談して決めました」

「うん、それで、いくらくらい?」

「すみません。金額まではちょっと…」

私が苦笑いすると、相手は「ああ、そう」と言って、それ以上は聞かなかった。

ところが帰る支度をして玄関で靴を履いていると、また後ろから声がした。

「さっきの、本当に内緒?」

半分冗談のような口調だった。

「はい。そこは夫婦だけの話にしておきます」

そう答えると、相手も今度は「分かった、分かった」と笑って引き下がった。

次の法事では、その話に加わらなかった

帰りの車に乗ってしばらくすると、夫が口を開いた。

「朝から、あの話はちょっときつかったな」

「うん。金額って、それぞれ事情も関係も違うしね」

「うちは今までどおり、その都度二人で相談して決めよう」

「それがいいと思う」

誰かがいくら包んだかを聞いて、それに合わせる必要はない。夫婦でそう確認して、その話は終わった。

半年後の法事でも、同じ親戚と顔を合わせた。

お茶を配っていると、近くの席から声が聞こえてきた。

「今回も、家によって結構違ったみたいよ。来なかったところもあるでしょう?」

すると、隣にいた親族が困ったように笑った。

「まあ、みんなそれぞれ事情があるからね」

「そうなんだけどね。でも、こういうときって」

親戚はまだ話したそうだったが、私はそのまま隣の卓へお茶を運んだ。

ほかの人も「そうねえ」「いろいろあるよね」と短く返すだけで、前のように話が広がることはなかった。

やがて台所のほうから声がした。

「そろそろお膳にしましょうか」

「はーい」

何人かが返事をして、座敷にいた人たちが立ち上がった。その親戚も話を切り上げ、みんなと一緒に隣の間へ向かった。

誰かに強く注意されたわけではない。それでも、香典の金額を話題にしても会話が広がらないと分かれば、それで十分なのかもしれない。

私は湯呑みを片づけながら、少しだけほっとしていた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ