1. トップ
  2. エピソード
  3. 彼女に「お疲れさま」と返せなかった夜。打っては消した30分が、最後に長文として届いた話

彼女に「お疲れさま」と返せなかった夜。打っては消した30分が、最後に長文として届いた話

  • 2026.5.9
ハウコレ

仕事で大きなミスをした帰り道、彼女からのメッセージが届きました。いつもならすぐに返せる短い言葉が、その夜はどうしても打てなかったのです。

既読をつけた瞬間に固まった

その日、俺は自分のミスで取引先に迷惑をかけ、上司から長く詰められた帰り道でした。電車の窓に映る顔は、俺自身が見たくないほど疲れていたのを覚えています。改札を出たところで、彼女からメッセージが届きました。「お疲れさま。今日どうだった?」。

開いた瞬間、既読のマークだけがついて、指が止まりました。いつもなら「お疲れ。普通だったよ」と打ち返すだけのことなのに、その「普通」の文字がどうしても押せなかったのです。

打っては消し続けた画面

「お疲れ。今日もまあまあ」と打って、消しました。嘘になると思ったからです。「ちょっと疲れた」と打って消しました。心配させてしまう、と思ったからです。「大丈夫」と打って消しました。一番嘘になる、と気づいたからです。

返信できないまま20分が経ちました。俺は家に帰ってもベッドに座ったまま、スマホの画面に文字を打っては消し続けていたのです。彼女がこの30分をどう感じているかは、わかっていました。わかっていたのに、嘘の言葉を送るほうが、もっと彼女に失礼な気がして指が動かなかったのです。

問い詰められた先にあるもの

30分が過ぎた頃、彼女から短いメッセージが届きました。「なんで既読つけて30分も放置するの?」。画面を見て、ようやく覚悟が決まりました。

「返信考えてた」と先に送って、それから打ったのは飾らない言葉だけでした。

「ごめん、今日仕事で大きなミスして、ずっと頭の中ぐちゃぐちゃで」

「いつもみたいに『大丈夫』とか書こうとしたんだけど、嘘になりそうで打っては消してた」

「ちゃんと答えたかったから時間かかった。ごめん」

送信ボタンを押すたびに、肩の力が少しずつ抜けていきました。2年付き合ってきて、こういう本音を彼女に届けたのは、もしかしたら初めてかもしれない、と思ったのです。

そして…

しばらくして、彼女から返事が来ました。「先に言ってくれればよかったのに」。申し訳なさと小さな安堵が同時にやってきました。

正直、怒られても仕方がないと思っていたのです。けれど彼女が選んだのは、責める言葉ではなく、次への提案でした。先に「今ちょっと考えてる」と一言送るだけで、彼女を30分も待たせずに済んだはずです。次から不器用なまま黙ることはやめよう。そう思いながら、画面の彼女の名前を、しばらく眺めていました。

(20代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる