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「フルーツ、何かいる?」重いお盆を前に動けなくなった女の子と気づかない父。だが、宿の人の自然な対応に心温まった

  • 2026.9.15

台に滑らせていたお盆が、そこで止まった

秋の終わりに家族で泊まった宿の、夕食の広間でのことだった。

ビュッフェの台は家族連れや友達同士でにぎわっていて、私は取り皿を持って列の後ろについていた。

前に並んでいたのは、赤ちゃんを抱いた母親と、その後ろを歩く女の子だった。

年のころは、小学校に上がる前くらいに見えた。

女の子はお盆を台の上に滑らせながら、母親のあとをついていた。

ところが、ご飯と汁物のコーナーでは途中で台が途切れていて、そこから先は自分でお盆を持たなければならなかった。

母親は赤ちゃんを抱いたまま、少し先まで進んでいた。女の子は両手でお盆の縁をつかみ、持ち上げようとする。

けれど腕がふるえて、すぐに台の端へ戻した。

「大丈夫?ちょっと急げる?」

母親が振り返って声をかけた。

女の子はもう一度持ち上げたが、今度は汁物の椀が少し揺れた。

「あ、気をつけて。落とさないようにね」

後ろには少しずつ人が並びはじめていた。母親もそれが気になるのか、女の子と列の後ろを交互に見ていた。

「持てそう?無理しないでね」

女の子は答えず、お盆を見つめたまま指をかけ直した。赤ちゃんを抱いている母親も、すぐには代わって持てない様子だった。

そのとき、少し離れた甘味のコーナーから、父親らしい男性が声をかけた。

「フルーツ、何かいる?」

女の子は顔だけをそちらへ向けた。

「…いちご」

「あったら持ってくるね」

男性は女の子がお盆を持てずに止まっていることには気づかなかったようで、そのまま甘味のコーナーへ向かった。

補充に来た人が、お盆の片側に手を添えた

お盆はまだ台の端に置かれたままだった。

そこへ料理の補充に来た宿の人が、ワゴンを脇へ寄せて女の子のそばに来た。

「重いよね。これ、一緒に持とうか?」

女の子は少し迷ってから、小さくうなずいた。

「…うん」

「じゃあ、こっちは持つね。ゆっくり行こう」

宿の人がお盆の向こう側にそっと手を添え、女の子と一緒に持ち上げた。皿は動かず、汁物もこぼれなかった。

「そうそう、そのまま。上手に持ててるよ」

女の子はお盆を見下ろし、少しだけ表情を緩めた。

「こぼれてない」

「ほんとだ。大丈夫だったね」

席まで運び終えると、母親がほっとしたように頭を下げた。

「すみません、ありがとうございます。私も抱っこしてて、手が出せなくて…」

「大丈夫ですよ。こういうときは声をかけてくださいね。お手伝いしますから」

「ありがとうございます。助かりました」

そこへ先ほどの男性が、フルーツを載せた皿を持って戻ってきた。

「あれ、早いね」

母親が女の子を見ながら答えた。

「うん。重くて、途中で持てなくなってたの」

男性は女の子を見てから、宿の人へ頭を下げた。

「気づかなくて…すみません。ありがとうございます」

「いえいえ。必要なときは呼んでくださいね」

私が席へ戻ると、夫が「どうしたの?」と聞いてきた。

「前にいた小さい子、お盆が重くて動けなくなってたの。宿の人が気づいて、一緒に運んでくれてた」

「そうだったんだ。あれは子どもには重そうだね」

それから私たちも食事を続けた。

しばらくして食事を終えるころ、あの女の子が空になったお盆を両手で抱え、私たちの席の近くを通って返しに行くのが見えた。

今度は足取りも軽かった。

「これなら一人で持てる」

すぐそばを歩いていた母親が笑った。

「ほんとだ。今度は軽いもんね」

女の子も笑って、そのままお盆を運んでいった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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