1. トップ
  2. エピソード
  3. 「おはようございます」と送り始めた俺が、彼女に言えなかった祖母との最後の約束

「おはようございます」と送り始めた俺が、彼女に言えなかった祖母との最後の約束

  • 2026.5.8
ハウコレ

祖母が亡くなって2週間。毎朝、彼女に送る「おはよう」の一言を、俺は「おはようございます」と打ち直してから送信していました。その理由を、どうしても彼女に話すことができませんでした。

祖母が残した一冊のノート

祖母が亡くなる少し前、入院先で一冊の古いノートを渡されました。中には、若かりし頃の祖父が祖母に宛てて書いた手紙が挟まれていました。仕事で離れて暮らしていた数年間、毎朝欠かさず書いていた手紙だそうです。どれもすべて、丁寧な言葉遣いで綴られていました。

「大切な人には、言葉の一つひとつを丁寧に選びなさい」。祖母が何度も繰り返した言葉です。俺は頷くだけで、その意味を深く考えたことはありませんでした。病室のベッドの上で、祖母は穏やかに笑っていました。

「おはようございます」と打った朝

葬儀を終えた翌週の月曜日、いつものように「おはよう」と打ちかけたところで指が止まりました。祖母の声が耳の奥でよみがえって、気づいたら「おはようございます」と打っていたのです。

送信ボタンを押した瞬間、自分でも驚きました。彼女から返ってきたのは、絵文字ひとつ。戸惑わせてしまったとわかりました。それでも、普段の「おはよう」に戻す気にはなれません。祖母の言葉を守ることが、今の自分にできる唯一の弔いのような気がしたのです。

「なんとなく」としか言えなかった理由

「なんで敬語なの?」と彼女に聞かれたとき、本当はちゃんと話すつもりでした。祖母のこと、手紙のこと、約束のこと。でも、口を開けば祖母の穏やかな笑顔が浮かんできて、声が詰まりそうになります。

結局、俺は「なんとなくだよ」と答えました。情けない返事でした。彼女の傷ついた顔を想像し、胃の奥がきゅっとなりました。伝えたい気持ちと、伝えたら崩れてしまう気持ちが、喉の奥でぶつかり合っていたのだと思います。

そして…

週末、部屋を訪ねてきた彼女が、祖母の写真に気づきました。そこで初めて、俺はたどたどしく全部を話しました。話しながら、自分でもわからないうちに目頭が熱くなりました。

彼女は何も言わずに、そっと手を握ってくれました。翌朝、彼女から届いた「おはようございます」の文字を見て、胸の奥が温かくなりました。丁寧な言葉の向こう側に、ちゃんと気持ちが届いている。祖母が伝えたかったのは、こういうことだったのかもしれません。これからも、少しぎこちなくても、この挨拶を続けていこうと思います。

(20代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる