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アフリカの大自然との親和性【サカナAI伊藤錬が案内する——AIをめぐる世界の旅 vol.2】

  • 2026.9.4
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人と社会と環境のサステナビリティが模索される今、AIは私たちに何をもたらし、どんな未来を拓(ひら)くのか。独創的なアプローチで急成長を遂げる東京発スタートアップ、サカナAI共同創業者・代表取締役社長の伊藤 錬さんが、世界の最前線で得た経験、見た景色とは? 今回は、一見懸け離れているようにも感じられる自然と密接に関わる、アフリカのAI事情についてお伝えします。

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<Profile>
伊藤 錬(いとうれん)/サカナAI共同創業者・代表取締役社長

2001年、東京大学法学部卒業後、外務省に入省。在米国日本国大使館勤務を経て、日米安保、日EU経済連携協定交渉に従事。’11年より世界銀行に出向。’15年、メルカリ執行役員に就任。’23年にサカナ AIを共同創業。ニューヨーク大学ロースクールとスタンフォード大学で学び、ニューヨーク州弁護士の資格を持つ。

アフリカの広大なサファリで活用されるAI

ケニアのアンボセリ国立公園では、映画『愛と哀しみの果て』の世界そのままの、息をのむような荘厳な風景を堪能。 Ren Ito

現在、ロンドンと東京の二拠点生活を送っています。ロンドンに居を構えて10年がたちますが、実感していることの一つが、アフリカの近さです。かつて外務省から世界銀行に出向していた際、東アフリカ担当として出張を重ねるうちに、この地に心引かれるようになりました。今はさらに距離が縮まり、公私を問わずたびたび足を運んでいます。

英国植民地時代の文化の面影を今にしのばせるムザイガ・カントリー・クラブ。『アフリカの日々』だけでなく、ヘミングウェイの短編『フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯』にも登場。 Ren Ito

中でもケニアは、愛着のある土地です。私が好きな映画に、英国の支配下にあった20世紀前半のケニアを舞台とする『愛と哀しみの果て』(1985年)があります。原作となったデンマークの女性作家カレン・ブリクセンの回想録『アフリカの日々』(1937年)も大変素晴らしい作品です。物語の鍵となる印象的なシーンに、1913年創業のムザイガ・カントリー・クラブが登場します。ここは今でも会員制の施設として存続しており、私もケニア滞在の折はここに宿泊しています。ナイロビ郊外の閑静な環境にたたずみ、格式あるゴルフコースを併設していることでも有名です。設備が整っており、とても居心地よく過ごせます。

先日、友人のキャロル・ワイナイナさんの招きで、ケニアに赴きました。グローバル企業の要職を経て、国連の人事担当事務次長補を務めたパワフルなアフリカ人女性です。現在、インフラ開発のための投資プラットフォーム「アフリカ50」のCEO特別顧問に就く傍ら、生物多様性の保護に取り組むケニア野生生物局(KWS)の活動にも携わっています。今回、キャロルが関わっているインパクト投資の団体のボードミーティングが開催されるとのことで、私を含むボードメンバーと共にアンボセリ国立公園に向かいました。

現地でパトロール用の黄色い小型機に乗り換え視察へ。 Ren Ito

キリマンジャロを背景に大平原が広がる光景は、まさに映画の世界そのもの。現地では、専用の黄色い小型飛行機に乗り換え、野生生物、特にゾウの密猟対策を視察しました。アフリカの大自然とAIは一見懸け離れているように感じられるかもしれませんが、実はこの活動にAIが活用されています。広大なサファリにおいて、パトロールの実効的なルート設定は極めて重要です。AIを用いて過去のデータから密猟者の出没地、ゾウの移動経路などを分析し、最適なルートを組んでいるのです。

視察の途中で、現地の若手起業家たちが、サファリでのピクニックを準備してくれました。先述の映画には、蓄音機を持参し雄大な風景の中で音楽を楽しむ場面があります。私たちのピクニックで流れたのは、蓄音機からのモーツァルトではなくiPadからのアリアナ・グランデの曲だった、というのはご愛嬌(あいきょう)としましょう。

Ren Ito
サファリのピクニックで映画のシーンを追体験し、心に残るひとときとなりました。 Ren Ito

野生生物の保護活動を含め、アフリカでは自然を対象にしたAI使用が探求されています。その中でも利用が期待されているのが、局所的に天気予報の精度を上げることで害虫の被害を防ぎ、作物の収穫量を上げられないかという試みです。アフリカの若い起業家たちはAI導入に積極的で、目をキラキラと輝かせながら「AIをこんなふうにして活用したい」と、未来像を語ってくれます。実装の進捗(しんちょく)はまだ道半ばではあるものの、何かやってやろうという機運が高まっているのは頼もしい変化です。

AI自体の利用はまだこれからというのが現状ですが、一方でアフリカはフィンテック(*)の領域では目覚ましい発展を遂げています。固定電話の普及を待たずに携帯電話およびスマートフォンが急速に普及したように、既存の技術段階を飛ばして最新技術を一気に導入・普及させる「リープフロッグ(カエル跳び)」型の飛躍的発展が期待されるところです。

ナイロビから国立公園までは空路で約30分。眼下には、雄大な風景の中をゆったりと歩むゾウの姿が。 Ren Ito

私は、AIによって暮らしや社会が良くなったと人々が実感できることが大切だと考えています。そのためにまず必要なのは、ユースケースを増やし、その可能性を広げていくことです。AIが先進国の金融業界に実装され変革をもたらしている一方で、新興国では農家の生活が改善されたり、ゾウが幸せに暮らせたりする。雄大な自然を体感し、現地の起業家たちの生き生きとした表情を目にして、アフリカという土地ならではの使われ方が実現できれば、と楽しみが広がるように感じました。

話題のサカナAIとは?

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伊藤錬氏、グーグル出身のデイビッド・ハ氏、ライオン・ジョーンズ氏の3人によって2023年7月に東京で設立。サステナビリティの観点から、より少ないリソースで高性能なモデルを構築するため、進化的アルゴリズムを用いて、異なる小さなAIを効果的に組み合わせ、膨大な集合知へと融合するという独自の方法論を開拓しています。今年1月、グーグルと戦略的パートナーシップを締結し出資を受けたことも話題に。

初出:リシェスNo.56 2026年6月26日発売

*金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語、FinTech(フィンテック)。金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指す。スマートフォンなどを使った送金もその一つ。

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