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イタリア・コモ湖―いつも心に「ヴィラ・デステ」のムードを【今、真に贅沢な旅とは? vol.6】

  • 2026.8.30
Hearst Owned

子どもの教育のためロンドンで生活を送り、旅をライフワークの一つとして世界各国を巡っている久住あゆみさん。インスタグラムやブログでは、その洗練されたライフスタイルが注目されています。今回は、コモ湖のほとりに佇む「ヴィラ・デステ」でのひとときと、そこでの体験が思い出させてくれた、多忙な日々の中でも大切にしたい「やわらかで自由なムード」について語っていただきました。

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<Profile>
久住あゆみ(くすみあゆみ)/エッセイスト
大阪府出身。モデルとして活躍後に結婚、2児の母に。子どもの教育のため2023年にロンドンへ移住。旅をライフワークの一つとし、世界各国を巡っている。旅先や日常での出来事を映し出したエッセイと写真をインスタグラムやブログで発表、注目を集めている。
Instagram/@ayumikusum

夢と現実のあわいで、心に豊かな余白を取り戻す

白ワインとカメラ。ここでずっと「Ladyfingers」を聴いていた。 Ayumi Kusumi

日常の雑事に追われていると、本来心の中にあるべき余白が少しずつ削られていきます。本当はもっとやわらかく自由に生きていたいのに、日々の現実に追われるうちに心がだんだん渇いていく。

最近、ロンドンで新しい家に引っ越しました。イギリスの運転免許の取得、車の購入、子どもたちの転校。短い時間の中でたくさんの変化が重なり、気づけば心も感受性も少しずつ渇いていました。私の場合、忙しさが続くと感受性が分かりやすく閉じていきます。本来なら心を動かされるはずの出来事にまで反応できなくなり、人生でいちばん大切にしたい、やわらかで自由なムードからだんだん遠ざかっていくのです。

「ヴィラ・デステ」の部屋。旅先でいつもそうするようにゆっくり日記を書く時間。 Ayumi Kusumi

だからある日、自分の中にいつでも駆け込める「ムードの聖地」を持とうと決めました。目を閉じて、自分にとって心地よい場所を思い浮かべるとき、すぐに浮かんだのはコモ湖にある「ヴィラ・デステ」でした。去年その場所を訪れたとき、何をするでもなく、テラスから静かな湖畔を眺めたり、色彩に溢れた庭園を散歩しながら、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスの「Ladyfingers」という曲を何度も繰り返し聴いていました。そうして過ごしているうちに、現実と夢の輪郭が少しずつ曖昧になっていき、甘やかで自由な気持ちになったのです。そして私はその感覚をとても好きだと感じました。「このムードの中にずっといたい」と。そこにいる時間そのものに恋に落ちていたのだと思います。

親族の結婚式へ。イタリアにいると青や白、淡い黄色を纏いたくなる。 Ayumi Kusumi

「ヴィラ・デステ」がなぜそこまで心地よいのかと聞かれると、うまく説明できない部分があります。けれどあの場所にはシネマティックな華やかさと、自然体のまま気品をまとっているような不思議なムードが流れているのです。積み重なった時間や誰かの記憶、儚さや陰影までも抱き込んだような美しさ。そこには、どこか甘やかな退廃の気配も漂っています。フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』のような、夢と現実のあわいにいる感覚。そんな要素がこの場所と恋愛関係を持っているような気持ちにさせるのかもしれません。

「ヴィラ・デステ」だけではなく、私が惹かれるホテルにはある共通点があります。それは、唯一無二であることへの強い信念が感じられること。誰かに似せようとせず、時代に迎合しすぎず、その場所だけの美意識を守り続けていること。その揺るぎなさが、「自分もそうありたい」という指針と、「そうあっていい」という安心感を与えてくれるのです。

ホテル内のレストラン。古き良きイタリアの余裕ある美しさ。 Ayumi Kusumi

忙しい日々を過ごしていてもそこへ思いを向ければ、本来自分が人生で大切にしたいムードを思い出せる場所。私の場合、それは自由で、甘くて、やわらかい気持ちを思い出させてくれる場所のこと。そんな「ムードの聖地」を内側に持つことは、忙しい私にとって、小さな救いになるのかもしれません。

湖のクルーズは、空気がきりりと澄んでいて純度が高い気がする。 Ayumi Kusumi

少し夢見がちでしょうか。そうかもしれません。けれど、どれだけ世界が速くなっても、忙しくなっても、いや、だからこそ、自分の内側にはそんな夢のムードを持ち続けていたいと思うのです。

初出:リシェスNo.56 2026年6月26日発売
EDITING:YUKO KAMIYAMA

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