1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 「驚くと瞳孔が開くのはなぜ?」科学的しくみが明らかに

「驚くと瞳孔が開くのはなぜ?」科学的しくみが明らかに

  • 2026.8.24
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

私たちは暗い場所に入ると、より多くの光を取り込むために瞳孔が開きます。

しかし、瞳孔が開くのは暗い場所にいるときだけではありません。

突然大きな音がしたり、予想外の出来事に驚いたりしたときにも、瞳孔は一瞬大きくなります。

では、光の量とは関係のない「驚き」で、なぜ瞳孔が開くのでしょうか。

米ブラウン大学(Brown University)の研究チームは、この反応が単なる驚きの副産物ではなく、脳が「これまでの予測をいったん見直し、新しい状況に対応する」ための切り替えと関係している可能性を示しました。

研究の詳細は2026年8月5日付で学術誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。

目次

  • 驚いた瞬間、脳は「世界が変わった」と判断する?
  • 瞳孔の拡大は、脳の「リフレッシュ」のサインだった

驚いた瞬間、脳は「世界が変わった」と判断する?

人間の脳は、目の前の出来事を毎回ゼロから処理しているわけではありません。

「次はこうなるだろう」という予測を作り、その予測を利用しながら周囲を効率よく認識しています。

ところが、予測と大きく食い違う出来事が起きると、それまでの前提を見直さなければなりません。

そこで研究チームは、驚いたときに生じる覚醒反応が、この切り替えにどのような役割を持つのかを調べました。

実験には健康な成人63人が参加。

参加者は画面に一瞬表示された色を記憶し、その後、色の選択肢から『さっき見た色』を選んで答えました。

その間、チームは「瞳孔の大きさ」と「脳波(EEG)」を測定しています。

最終的に、瞳孔については60人分、EEGについては57人分のデータが分析に利用されました。

実験では、予想外の色に2種類の意味を持たせました。

1つは、赤系の色が続いていたところに突然青系が現れ、その後も青系が続くような「流れそのものが変わった」ケースです。

もう1つは、赤系が続く途中で青が1回だけ現れ、その後すぐ赤系に戻る「単発の例外」です。

その結果、予想外の色が現れると瞳孔が拡大し、「P3a」と呼ばれる特定の脳波も強くなりました。

P3aは、新奇な刺激や予想外の刺激、注意の切り替えに関係するとされる脳波成分です。

つまり驚いた瞬間には、身体だけでなく脳の情報処理にも明確な変化が起きていたのです。

では、この変化によって、参加者のその後の予測や学習はどのように変わったのでしょうか。

瞳孔の拡大は、脳の「リフレッシュ」のサインだった

さらに重要だったのは、驚いたあとの学習の仕方です。

予想外の出来事が「世界のルールが変わった」ことを意味する場合、覚醒反応が強かった参加者ほど、そこで得た情報を使って次の予測を大きく修正しました。

一方、それが単なる一時的な例外であれば、反対にその出来事をあまり学習へ取り込まず、以前の予測を保つ傾向が見られました。

つまり、驚きによる覚醒反応は、単純に「新しい情報をたくさん覚えさせる」働きではありませんでした。

むしろ脳は、「これは今後も続く変化なのか、それとも無視してよい例外なのか」に応じて、学習量そのものを調整していたのです。

また、通常の参加者は自分の予測に知覚が引っ張られる傾向を示しました。

たとえば「次も赤っぽい色だろう」と思っていると、実際に見た色の記憶も少し赤側へ偏ります。

こうした予測は普段なら知覚を効率化する助けになりますが、状況そのものが変わったときには、古い思い込みとして邪魔になる可能性があります。

実際、予想外の出来事が起きた試行では、この予測による偏りが弱くなり、特に瞳孔拡大やP3a(脳波)が大きいほど、その傾向がはっきりしていました。

チームは、こうした反応を脳の「リフレッシュ」や「リセット」に近い仕組みとして説明しています。

脳は普段、「いまはこういう状況だ」という内部の文脈を保っています。

しかし予想外の出来事が起きると、その古い文脈への依存を弱め、「状況が変わったかもしれない」と新しい情報を取り込める状態へ切り替わるのです。

瞳孔の拡大は、その内部切り替えが起きていることを外から確認できるサインの1つだと考えられます。

こうした覚醒反応には、脳幹にある「青斑核(せいはんかく)」と、そこから放出されるノルアドレナリンの働きが関係すると考えられています。

青斑核は予想外の出来事に反応して活動し、瞳孔の変化とも密接に関連することが知られています。

ただし今回の研究では、青斑核の活動やノルアドレナリンを直接測定したわけではなく、瞳孔とEEGを覚醒反応の指標として調べています。

驚いて瞳孔が大きくなるのは、単に「びっくりした」という身体反応だけではないのかもしれません。

その瞬間、脳は古い思い込みを少し脇に置き、「世界が変わった可能性」に備えて情報処理を組み直しているのです。

参考文献

Scientists Reveal The Strange Neurological Reason Your Pupils Dilate When You’re Surprised
https://www.sciencealert.com/scientists-reveal-the-strange-neurological-reason-your-pupils-dilate-when-youre-surprised

Why do people’s pupils dilate when they’re surprised? Brown researchers explain
https://www.brown.edu/news/2026-08-05/pupil-dilation-surprise

元論文

Fluctuations in arousal reflect latent state transitions that facilitate behavioural optimization
https://doi.org/10.1038/s41562-026-02533-1

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ