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「放射線関連がん」死亡割合、503職種中でCAとパイロットが1位・2位(米調査)

  • 2026.8.23
Credit:OpenAI,ナゾロジー編集部

被爆するリスクがある職業と言われたとき、皆さんはどのような仕事を想像するでしょうか?

米国の新しい調査によると、このリスクが最も高い職業が、飛行機の客室乗務員とパイロットであるというのです。

意外に思う人もいるかもしれませんが、飛行機に乗ると、私たちは地上にいるときよりも多くの宇宙線にさらされます。

もちろんたまに旅行で利用する程度なら飛行時間は限られますが、パイロットや客室乗務員は何年にもわたり、高高度での勤務を繰り返します。

そのため航空乗務員は米国の職業集団の中でも放射線への年間曝露量が多い可能性が指摘されているのです。とはいえ、高高度の宇宙線などによる被爆が、健康にどの程度の影響を及ぼすかについてはまだよくわかっていません。

被爆によって起きる健康の問題として、もっとも懸念されるのがんです。

そこで米国のハーバード大学医学大学院(Harvard Medical School)のヴィシャル・R・パテル(Vishal R. Patel)氏らは、パイロットや客室乗務員が他の職業と比べて、放射線関連のがんで死亡する人が多いのかを調査しました。

その結果、調査された503種の職業の中で、放射線関連がんで亡くなった人の割合が、客室乗務員が1位、パイロットが2位だったというのです。

この研究の詳細は、2026年8月に科学誌『JAMA Internal Medicine』に掲載されています。

目次

  • 503職種中、客室乗務員とパイロットがトップだった
  • 最も放射線を浴びる職業なのに「被曝量の監視義務」がない

503職種中、客室乗務員とパイロットがトップだった

旅客機が飛ぶ高高度では、地上よりも宇宙線による電離放射線を多く受けます。

航空乗務員は米国の職業集団の中でも平均的な年間被曝量が多いことが以前から知られていましたが、それが実際に放射線と関連するがんによる死亡の増加として表れているかは、はっきりしていませんでした。

そこで研究チームは、米国のNational Vital Statistics System(米国の死亡診断書などを集計した公的データ)の2020~2024年の記録を使い、職業ごとのがん死亡を比較しました。

対象となったのは約1271万人の死亡記録で、503職種に分類され、この中にはパイロット1万4190人、客室乗務員7170人が含まれていました。

研究では、乳がん、中枢神経系のがん、多発性骨髄腫、白血病の一部、リンパ腫、甲状腺がん、前立腺がん、メラノーマなど、電離放射線との関連が知られているがんを「放射線関連がん」としてまとめました。

さらに職業ごとに年齢や性別、人種、民族、教育水準、婚姻状況などが異なる影響を統計的に調整し、放射線関連がんが死因となっていた割合を比較しています。

その結果、調査期間内に死亡した人の中で放射線関連がんが死因だった割合は、客室乗務員が6.9%、パイロットが6.7%となり、これは503職種の中でそれぞれ1位と2位という高い割合だったのです。

個別に見ると、パイロット・客室乗務員共に乳がん、中枢神経系のがん、前立腺がん、メラノーマによる死亡が有意に多く、パイロットは白血病で有意な増加が確認されました。

なお、仕事で放射線にさらされることが知られる核医学技師(放射線治療やX線を扱う職種)は503職種中12位でした。

また、放射線関連ではないがんについては、パイロットと客室乗務員が突出して高いという傾向は見られませんでした。

最も放射線を浴びる職業なのに「被曝量の監視義務」がない

今回の結果から浮かび上がるのは、航空乗務員が受ける宇宙線を、職業上の安全問題としてどこまで管理しているのかという疑問です。

米連邦航空局(FAA)は、パイロットや客室乗務員が飛行中に宇宙線による電離放射線にさらされることを職業上の問題として認識しており、飛行高度や航路などから被曝量を推定するシステムも開発しています。

ところが今回の論文によると、米国の航空乗務員には、他の放射線を扱う労働者に設けられているような連邦レベルの被曝線量の上限や、個人の被曝量を監視する義務がありません

この違いは、今回比較対象となった核医学技師を考えると分かりやすくなります。

米国では、原子力施設や核医学など放射線を扱う職場について、原子力規制委員会(NRC)が職業上の放射線曝露に年間50ミリシーベルトの上限を設けています。

また、一定以上の被曝が予想される作業者については、個人の被曝量を監視することも求められています。

つまり放射線を扱うことが明確な職場では、「どれだけ被曝したのかを把握し、限度を超えないよう管理する」という仕組みが存在するのです。

一方、米国で平均年間被曝量が最も多い職業集団とされる航空乗務員には、同等の連邦規制がありません。

しかも今回の503職種の比較では、客室乗務員が1位、パイロットが2位だったのに対し、放射線を扱う核医学技師は12位でした。

「放射線を扱う職業では線量管理が行われている一方、高い宇宙線曝露を受ける航空乗務員には同じ仕組みがない」という制度上の違いは、今回の結果を考える上で無視できない問題です。

実際、研究発表の約2カ月前に米国科学・工学・医学アカデミーが公表した報告書でも、航空乗務員の宇宙線曝露について、現在の監視や管理は不十分だと指摘されています。

同報告書はFAAに対し、航空会社に包括的な放射線安全プログラムを導入させ、乗務員ごとの累積被曝量を追跡できる仕組みを整えるよう勧告しています。

今回の研究者らも、得られた結果は航空乗務員が受ける曝露量に見合った職業上の放射線防護を検討する必要性を支持するとしています。

ただし、今後対策を考えるには、まだ埋めなければならない情報もあります。

今回の死亡記録からは、各人が何年間働き、どの航路を何時間飛び、累積でどれほどの宇宙線を浴びたのかまでは分かりません。

また調査対象となった「放射線関連がん」は、電離放射線との関連が知られている種類のがんをまとめたものではあるものの、今回の調査で電離放射線が原因で罹ったと因果関係を証明することはできません。

航空乗務員には時差や夜間勤務による体内時計の乱れなど、宇宙線以外の要因でも健康に関するリスクがあります。それらの方が問題だった可能性も否定できません。

そのためこの問題をもっときちんと議論するためには、今後は、乗務員一人ひとりの勤務歴と累積被曝量を記録し、それが実際の健康状態とどう結びつくのかを長期的に追う必要があります。

なお、これは米国の航空業界についての問題で、日本では状況が異なります。

日本では国が2006年に航空乗務員の宇宙線被ばくを管理する指針を設け、それを受けて国際線を運航する航空会社では、2007年から乗務員ごとの被ばく量を計算・記録する取り組みが続けられています。

2023年度の国際線3社の調査では、約1万7000人の乗務員について線量が管理され、最も高い人でも年間4.06mSvと、国が目安としている年間5mSvを下回っていました。

ただし、これは法律で強制されているわけではなく、現在も航空会社による自主的な管理という位置づけです。

参考文献

Pilots, Flight Attendants Have Greater Risk of Radiation-Related Cancer Death Than Other Professions
https://hms.harvard.edu/news/pilots-flight-attendants-have-greater-risk-radiation-related-cancer-death-other-professions

元論文

Cancer-Related Mortality Among US Pilots and Flight Attendants
http://dx.doi.org/10.1001/jamainternmed.2026.3635

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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