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2026年9月公開の注目映画|6歳の少女の切実な叫び、90代の祖母の思いに耳を傾けて

  • 2026.8.2

映画評論家、エッセイストの秦 早穗子(はたさほこ)さんが担当する『婦人画報』の映画コーナー「世界への窓」。今回は「あの人の声を聴く」をテーマに、2026年9月に公開される注目の新作映画に加え、併せて観たい映画をご紹介します。

今回ご紹介する映画はこちら

『ヒンド・ラジャブの声』

©MIME FILMS — TANIT FILMS 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

2026年9月4日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

『リサ・ラーソンがいた時間』

© 2025 Kamlert Film AB, Film i Skåne AB, Sveriges Television AB 配給:ミモザフィルムズ

2026年9月18日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

6歳の少女の切実な叫び、90代の祖母の思いに耳を傾けて

『ヒンド・ラジャブの声』

2026年の夏も、沖縄から始まって、戦争について、いろいろな人の声を聴いた。いまやその多くの方は、戦後生まれ。戦争のわずかな生き残りの私にしても、沖縄や原爆の恐ろしさは、じかに体験していない。2度の罹災、強制立ち退き、飢えを体験しただけだ。狂気じみた大人たちの言動。さまざまな記憶は、いまも心の底にもっている。

『ヒンド・ラジャブの声』は、過去の話ではない。2024年1月29日に起きた実話である。パレスチナ・ガザ地区で、6歳の女の子が助けを求めている。少女の電話を受信したのは、"赤新月社(せきしんげっしゃ)"。国際赤十字と連携する世界最大級の人道支援団体。イスラム教徒が多数の国では、赤新月社として活動する。

ヒンド・ラジャブと名乗る少女の必死の音声を土台に、それを電話で繫ぎとめようとする赤新月社の人たち。この部分は俳優が演じる、ドキュメンタリーフィクション89分の全容だ。

イスラエル軍の攻撃を受け、7人の市民が乗る車が攻撃された。ひとり生き残った6歳のヒンドが電話の向こうから、「迎えにきて」と訴える。だが、こちら側はもろもろの事情で、すぐに対応できない。「戦車が前から迫ってくるの。早く来て」。少女の最後の声だった。

監督はチュニジアのカウテール・ベン・ハニア。残された少女の声を聴き、彼女は映画化を決意。映像としては緊急センターを舞台にしているだけなのだが、見ているほうは画面から目が離せない。「助けて」の声に、誰も助けられなかった。そして、戦争はいまも続く。

『リサ・ラーソンがいた時間』

リサ・ラーソンは北欧スウェーデンの陶芸家(1931~2024)で、日本でも知られた存在だ。このドキュメンタリー・フィルムを監督・撮影したのは、孫のエミリア・エクマン(1994~)。

本作の見所は、言葉にできない、語る勇気もないことを、芸術作品を通して表現する姿。家族のひとりとして、女として、葛藤し、言い得なかったこと。そんな女の一生を見つめる。孫娘もカメラをまわすことで、祖母の存在を再発見し、認めていく。『ヒンド・ラジャブの声』とは、正反対の場にいる女たちの声である。

90歳を超えても、粘土を叩きつけ、まだ思った作品が創れないリサ。夫で画家のグンナルに出会ったのは、1950年。彼はリサの最大の理解者だった。しかし、夫の死を切っ掛けに、孫のカメラに向かって、一生を語り出す。貴重な記録だ。小さいときから手を動かすのが好きだったリサは、絵画の道から、陶磁器の会社へ勤める。そこで、デザインした作品が大当たり。商業的には成功しても、芸術としては認められず、給料も少なかった。それでも続けてきた道。2歳で母を亡くし、自分が親になっても、仕事を捨てられなかった祖母の悔いを、孫の、エミリアはしっかと受け止める。ある時代を生きた女の、いまも続く女の記憶である。

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『火垂るの墓』

© 野坂昭如/新潮社,1988

野坂昭如原作、高畑勲監督の『火垂るの墓』。かつて、一度、この場で紹介したアニメ作品だが、上記のカウテール・ベン・ハニア監督も推奨しているので、もう一度。野坂の半自伝的小説と言われた一作だ。

1945(昭和20)年、父は出征中。母は死に、家を焼かれた14歳の少年と4歳の妹。親戚の家を追われ、防空壕の生活が始まるが、飢えで妹は死んでしまった。この作品について、いろいろ言う人もいるようだが、現実は野坂昭如が書いた通りと、同世代の私は断言する。

はたさほこ●1931年東京都生まれ。映画評論家、エッセイスト。58年フランスに渡り『勝手にしやがれ』『太陽がいっぱい』などの映画輸入に携わる。映画評論、エッセイ、翻訳を手掛け、シャネルなどのファッションも紹介。現在も映画紹介に努め、執筆活動を行う。

文=秦 早穗子 編集=須田秀子(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年9月号より

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