1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「親を殺す」と決めた少女は、どんな未来をたどるのか 打ちのめされ、力をくれる映画『未来』【映画感想】

「親を殺す」と決めた少女は、どんな未来をたどるのか 打ちのめされ、力をくれる映画『未来』【映画感想】

  • 2026.5.8

子どもをめぐる悲しいニュースを耳にするたびに、なぜ事前に気づけなかったのか、防げなかったのか、暗澹とした気持ちになります。

世界中の子どもたち全員を一度に救える魔法のような解決策はないのかもしれないけれど、それでも、できることがあるのかもしれない…
映画『未来』は、そんな希望の光を見せてくれる作品であり、かつ、きれいごとではない作品でした。

Sitakke

HBCアナウンサーとSitakke編集部で作る「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」から、Sitakke編集部IKUが、映画を見た感想を3つのポイントにまとめてレポートします。

映画『未来』(PG-12)

2026年5月8日(金)公開。

ストーリー

複雑な家庭環境で育ちながらも、祖母の期待に応えて教師になるという夢を叶えた真唯子。

彼女の教え子・章子のもとにある日、一通の手紙が届く。
差出人は――「20年後のわたし」。

半信半疑のまま返事を書くことで、父を亡くした悲しみや、心を閉ざした母との孤独な日々に耐えていた章子だが、母の新しい恋人からの暴力、壮絶ないじめ、そして信じがたい事実が彼女を容赦なく追い詰めていく。
深い絶望の中、章子は唯一心を通わせる友人・亜里沙と「親を殺す」という禁断の計画を立てるのだった。

そんな章子を救おうと真唯子は、残酷な現実と社会の理不尽さに押しつぶされそうになりながら、それでも手を差し伸べようとするが――。

誰もが過酷な運命に吞み込まれようとする中で、「未来のわたし」からの手紙が導くのは、希望か。
それとも、さらなる絶望か――。

「未来」に裏切られ続けた人々が、見つける「愛のかたち」とはーー

この記事の内容

・①ミステリー作品としての魅力
・②人間心理の明と暗をあぶり出す
・③打ちのめされ、力をくれる

①言葉を超えた演技が、新たな謎を生む

よくできたミステリー小説は、映画化できないものだと思っていました。
小説だから、文字だけの世界だからこそ仕掛けられる謎と解き明かし方が、ミステリー小説の魅力だと思うからです。

湊かなえさんの原作小説『未来』は、「手紙」をキーにして物語が進んでいきます。
まさしく文字の世界だからこそできる構成なので、これをどう映像化するのか、ハードルは高いように思うのですが…。

映画『未来』は、映像だからこそできるミステリー作品を作り上げたのだ、と感じました。

それを支えるのが、「言葉を超えた演技」の力です。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

過酷な状況に身を置かれる少女を演じる、山﨑七海さん(佐伯章子役)、野澤しおりさん(須山亜里沙役)。
セリフがないシーンでも、山﨑さんの瞳や表情、仕草ひとつから恐怖や不安が伝わります。野澤さんはとてもかわいらしい満面の笑みを見せるのに、同時に悲しさや強さや衝動をにじませます。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

章子の両親を演じた松坂桃李さん、北川景子さんの演技には息をのみます。
親としての愛情や優しさ、突然ふいにスイッチが切れたように覗く影。セリフに頼らない表現力に、それぞれが「秘密」を抱えていることが伝わってきます。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

そして、章子の通う学校の教師である真唯子を演じた、黒島結菜さん。
何かを見抜いているような強いまなざしや、章子の声にならないSOSに気づいて迷わず駆け出していく行動力はどこから来るのか、多くを語らない真唯子自身の謎にもひきつけられていきます。

章子に「未来のわたし」から手紙が来る、というのが、物語を通しての最も大きなミステリーなのですが、キャストたちの演技によって、「なぜこんな表情をしているのか/なぜこんな行動をとるのか」「どんな秘密を抱えているのか」「それがどう物語の展開に影響していくのか」と、登場人物それぞれに対して、どんどん新たな謎が生まれていきます。

何人もの人生が折り重なっていく、巧みなストーリー展開。
積み重ねられた疑問がつながり、ラストで謎が明かされるミステリー作品としてのおもしろさがあります。

「未来のわたし」の手紙の正体がわかったとき、その文章の内容を反芻すると、そこに隠されていた想いの強さも、一気に胸に迫ります。

②人間心理の明と暗

ミステリー作品としての魅力もありながら、フィクションを通して「現実」を描いているように感じました。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

映画ではさまざまな形の暴力が描かれますが、わかりやすく暴力をふるう悪と、救う善とに分かれているわけではありません。登場人物それぞれがあまりに人間らしいことに、よりリアルな残酷さがありました。

一人の人間の中に「被害者」と「加害者」の両面があり、「加害者」にも弱さがあり、抑圧されてきた「被害者」の感情が噴き出す瞬間があり…。
誰かを救う側であろうとするのに、自分自身が負った傷に揺り戻され、完ぺきではいられない…。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

被害者心理・加害者心理の複雑さや、暴力を受け入れてしまう恐ろしさ、声をあげる選択肢も持てない境遇…すべて現実にある課題が、ありありと描かれていました。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

苦しい現実が迫りながらも、その合間に楽しい、心から笑い合うシーンも多く描かれているのが印象的です。壊れたはずの心が動く瞬間があり、だからこそ切なく胸に迫ります。

単純な善悪や、誰か一人の物語では描けない、人と人が交わり合って変わっていく展開に、苦しさも、救いも見えてきます。

③打ちのめされ、力をくれる

残酷な現実が描かれ、苦しい映画なのですが、未来への希望も感じられるのが不思議でした。
つらい境遇を生きのびてきた人たちが持つ、強さと優しさに、救いの光が見えます。

映画の中にも必死に誰かを救おうとする人たちがいますが、制作したスタッフやキャストのみなさんは、その先に現実の誰かを救う力も映画に込めたのではないかと感じました。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

今、現実につらい境遇にいる子どもたち、子ども時代に傷つけられた記憶に苦しんでいる大人たちに、未来への光を届け、優しく寄り添おうとする映画ではないでしょうか。
同時に、未来への希望を持って耐え抜かなくても、今すぐに救い出せる力があったらいいのにと、自分の無力感を突きつけられます。

逃げ場のない境遇からの、声にならないSOSに気づける大人でありたい、行動できる大人でありたいと思わされました。打ちのめされるからこそ、そんな現実を変えたいと思う力をくれる映画でもあります。

純粋にミステリー作品としておもしろいから。
キャストの演技に圧倒されるから。
フィクションを越え、現実に心を揺さぶられるから。

さまざまな理由で、一人でも多くの方に見てほしいと思う映画でした。

映画『未来』(PG-12)

2026年5月8日(金)公開。

Sitakke
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社

出演:
黒島結菜
山﨑七海 坂東龍汰 細田佳央太 近藤華
松坂桃李 北川景子

原作:湊かなえ『未来』(双葉文庫)

監督:瀬々敬久
脚本:加藤良太

製作幹事:東京テアトル U-NEXT
配給:東京テアトル
企画・制作プロダクション:松竹撮影所

上映劇場など、詳細は公式サイトからご確認ください。

文:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は記事執筆時(2026年5月)の内容に基づきます

元記事で読む
の記事をもっとみる