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ART OSAKA 2026|大阪・うめきた&北加賀屋から発信する現代アート最前線と24年の軌跡

  • 2026.7.19
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大阪の街から日本の現代美術のマーケットとクリエイティビティを牽引し続けてきたアートフェア「ART OSAKA」。国内のアートフェアのなかでは最も長い歴史を持ち、24回目を迎えた2026年は5月29日(金)~31日(日)に開催されました。

開催地は2025年にオープンしたうめきたエリアの「Galleries Section」、そして、大阪市の南に位置する北加賀屋の「Expanded Section」。2拠点から大阪の街に新たな芸術の息吹を吹き込みました。

「Galleries Section」は、多くの人の憩いの場となっている芝生広場に隣接した「グラングリーン大阪」で開催された。 写真提供=ART OSAKA

本記事では「ART OSAKA」の軌跡を振り返りながら、2026年の模様をレポート。コ・ディレクター(共同ディレクター)を務める櫻岡聡さんのインタビューや展示風景とともに、大阪のカルチャーシーンの熱気をお届けします。

ギャラリーの有志たちが創り上げた、手作りのアートフェア

世界のアートフェアの多くは、大企業やアート専門の運営会社が母体となり、オーガナイズされているケースがほとんどです。しかし、「ART OSAKA」はその成り立ちからして、ほかとは一線を画するユニークな歴史を持っています。

24年前の2002年、大阪港エリアの「海岸通ギャラリー・CASO(カソ)」から、このフェアは「ART in CASO」として産声を上げました。当時、「ギャラリーヤマグチ クンストバウ」を主宰していた山口孝さんをはじめとする、現代美術を愛する10軒ほどのギャラリーの代表たちが、「自分たちの手で現代美術を集め、人々に見せ、そして販売する場所を作ろう」と立ち上がったのが始まりです。

「当時はいまに比べると、コンテンポラリーアートのマーケットは非常に小さく、一般の方々にはまだ馴染みの薄いものでした。だからこそ、啓蒙という意味も含めて、アートの面白さや素晴らしさを広めるために、ギャラリー同士が協力しあって、事務局が始まりました」

こう話すのは「ART OSAKA」コ・ディレクターの櫻岡聡さん。有志による運営というスタイルは、数年前に現職に就いた櫻岡さんをはじめ、多くの人が力を合わせて24年ものあいだ引き継がれてきたのです。

ドアを開けてアートに出合う─ホテル時代からの変遷

「ART OSAKA」の歴史を語る上で、熱心なアートコレクターたちの記憶に刻まれているのが、長年続いた「ホテルフェア」の時代です。

ART OSAKA 2019 会場風景 撮影=待夜由衣子
ART OSAKA 2019 会場風景 撮影=待夜由衣子

かつて、「ART OSAKA」といえば、「ホテルグランヴィア大阪」や「堂島ホテル」などをフロアごと貸し切り、客室という限られた空間にアート作品を展示するスタイルが定着していました。

ホテルの客室のドアを開けるたびに、さまざまな世界観を持つアーティストの空間が現れる──まるで贈り物を開けるようなわくわくする鑑賞体験は、「自宅に飾ったときのサイズ感や雰囲気が想像しやすい」と、当時の顧客層から絶大な支持を集めていました。

しかし、現代美術の表現は時代とともに多様化し、巨大な彫刻や空間全体を使ったインスタレーション、映像作品などが主流となるにつれ、ホテルの客室という“壁やサイズの制約”に悩むギャラリーが増えていきました。

さらに、2020年からのコロナ禍による影響が決定打となり、密を避けるためにも、フェアは従来のホテル客室型から、より開放的な空間での開催へと舵を切ることになったのです。

2021~25年は中之島にある国の重要文化財、大阪市中央公会堂にて開催。歴史的建造物での開催を経て、2026年、舞台はついに大阪の最先端再開発エリアへと移ってきました。

うめきた×北加賀屋の2拠点から放つ最新現代アート

「ART OSAKA 2026」は、大阪の都市としての幅広い魅力を体感できる「うめきた(梅田)」と「北加賀屋」という異なる2つのエリアに会場を分散させた形式で実施されました。

【うめきた】Galleries Section/コングレスクエア グラングリーン大阪

商業・ビジネスの新たな中心地として目覚ましい発展を遂げる「グラングリーン大阪」内に位置する最新のコンベンション施設が新たな舞台です。

大阪はもちろん東京、韓国、フィリピンなど、国内外から厳選された52軒のギャラリーが一堂に会し、絵画や彫刻、工芸など多種多様な現代美術がブースを彩りました。

大阪を代表するギャラリーのひとつ「アートコートギャラリー」。わずか27歳の若さでこの世を去った伝説的な陶芸家・西田潤の陶芸作品(中央)が出品され、訪れたアートコレクターが驚く一幕も。 ART OSAKA 2026 Galleriesセクション 撮影=待夜由衣子
東京・西村画廊は彫刻家・舟越桂(ふなこしかつら)の彫刻や素描を出品。世界的な芸術家の作品を間近で見るべく絶えず人が訪れた。 ART OSAKA 2026 Galleriesセクション 撮影=待夜由衣子

ギャラリーブース以外にも、アーティスト自らが立つ個展形式のブースや映像作品をメインとしたコーナー、社会的に不遇の時代でもあった1990年代の貴重な作品を集めた企画展など趣向を凝らした展示があり、会場は新たなアートを求める人々で溢れました。

「第4回PATinKyoto京都版画トリエンナーレ 2025」で大賞を受賞した注目の若手作家・上田佳奈による《Particle_0010》。18人分の肖像写真をドットに切り抜き、そこから新たな一人の顔を浮かび上がらせている。 写真提供=ART OSAKA
大阪を拠点に活動する田中秀介による絵画作品。日本の何気ない日常を写し取った作品群に、海外のメディアからも注目が集まった。 ART OSAKA 2026 Galleriesセクション 撮影=待夜由衣子

前回の中之島会場と比べるとブース間のスペースが広く、ベビーカーや車いすの方がよりゆっくりと鑑賞しやすくなったとの声も。アクセスのよさも功を奏して、現代アートに触れる機会が少なかった一般来場者も気軽に足を踏み入れられるオープンな空間となりました。

現代美術作家・ヤノベケンジによる彫刻作品《SHIP’S CAT (Cosmo Red)》(2025)、《SHIP’S CAT (Little Cosmo Red)》(2026年)がグラングリーン大阪前に登場。初めて“親子”2体が揃う機会となった。 撮影=KENJI YANOBE Archive Project

【北加賀屋】Expanded Section/クリエイティブセンター大阪

こちらは既存のアートフェアの「ブース」という枠組みには収まりきらない、大型の彫刻や、空間を丸ごと使ったインスタレーションに特化したセクションです。

造船所の名残を残すクリエイティブセンター大阪では、2004年より芸術の“実験場”として、さまざまなイベントが開催されている。 写真提供=ART OSAKA

元造船所跡地である広大なオルタナティブ・スペースを使用し、稲穂の香りが広がる相良育弥さんのインスタレーション《名付けられる前の風景》や、塗り重ねた絵の具を彫刻した鈴木敦夫さんの《彫る絵画》など、注目アーティストたちのスケールの大きな表現が展開されました。

稲穂の香りに惹かれ、フロアでまず目に飛び込んでくる相良育弥の《名付けられる前の風景》。 ART OSAKA 2026 Expandedセクション 撮影=田浦ボン
躍動感あふれる鮭の頭は、ミシン糸で制作された宮田彩加の《千鮭万来》。ミシンでの制作中にあえてエラーを起こし、偶然の表現を追求している。 ART OSAKA 2026 Expandedセクション 撮影=田浦ボン
台湾出身のライ・コーウェイによる《プラスチックの陶》。使い捨てられるプラスチックを陶磁へ転換し、その価値と消費の関係について問いかけた作品。 ART OSAKA 2026 Expandedセクション 撮影=田浦ボン

もともと、北加賀屋エリアは現代アートの発信地として親しまれ、クリエイティブセンター大阪の周辺には多数のアートスポットが点在しています。

ヤノベケンジさんら現代美術作家の大型作品の収蔵庫「MASK」や、美術家・森村泰昌さんによる「モリムラ@ミュージアム」、これから羽ばたく若手作家たちのシェアスタジオ「Super Studio Kitakagaya」など、大御所から新進気鋭の作家まで幅広い芸術に触れることができ、周辺一帯で大阪のアートカルチャーの最先端を体現する重要な役割を果たしています。

ヤノベケンジ、名和晃平などの大型作品を保管している「MASK」。「ART OSAKA 2026」にあわせて、特別に一般開放された。 撮影=婦人画報編集部

東アジアの「ハブ」としてコミュニティをつなぐ

大阪という都市は、古くから独自の芸能や大衆文化、音楽、ファッションが雑多に、かつエネルギー高く交ざり合って発展してきました。

櫻岡さんは、この「ART OSAKA」を「アジアのアートコミュニティをつなぐプラットフォーム」へと進化させたいと語ります。

西本剛己による《ノア:復活の製図室》。帆布を用いた作品は、元は設計室だったという造船所の最上階に展示された。 ART OSAKA 2026 Expandedセクション 撮影=田浦ボン

「大阪という都市が持つ魅力は、海外、特にアジア圏の方々にとって非常に強力です。私たちはこのフェアを通じて、東アジア、ひいてはグローバルなアートシーンとのコネクションを築いていきたいと思っています。2025年のレポートでも、売上は平年並みの1億円規模を維持しつつ推移していますが、大阪の経済規模を考えれば、まだまだこんなものではない。大いに伸びる余地があります」

その言葉通り、今年の会場には韓国やフィリピンなど海外からの有力ギャラリーの参加に加え、多くの海外メディアやコレクターが来場。真剣な眼差しで作品を選定している姿が目立ちました。

「実は、日本のアートマーケットの全体の市場規模(約3,000億〜6,000億円とも言われる規模)のうち、およそ半分を占めているのがデパートの美術画廊なんです。これは世界的に見てもかなり特徴的な構造です」と櫻岡さん。

かつては日本画の巨匠やピカソといった古典的なマスターピースが中心だった百貨店の美術催事ですが、近年では草間彌生さんやバンクシーといったコンテンポラリーアートの取り扱いが主流となってきています。

ギャラリー、ホテルフェアを経て現在の形となった「ART OSAKA」は、百貨店でアートに触れた人々がさらに一歩踏み込んで現代アートを体験するための貴重な“受け皿”としても機能してきたのでしょう。

25周年に向けて―進化を続ける大阪で出合う現代美術

24回目の開催となった「ART OSAKA 2026」は、「うめきた」というロケーションを得たことで、富裕層のコレクターから、ふらりと訪れた一般の市民まで、より広く多くの人に現代美術の魅力を伝えるイベントとして大成功を収めました。来年2027年は、記念すべき「25周年」を迎えます。

「毎年、このフェアをやりながら、来てくださるお客様やギャラリーの生の声を吸い上げています。来年もきっと、この大阪の地で、皆様の期待を超えるような新しいプレゼンテーションをお見せできるはずです」

櫻岡さんがそう締めくくったように、大阪のアートシーンの進化はここからさらに加速していくことでしょう。

身近な植物を吹きガラスやバーナーワークで繊細に表現するガラス作家 深川瑞恵の《つぎあう記憶》 ART OSAKA 2026 Expandedセクション 撮影=田浦ボン

現代アートは、私たちの固定観念を揺さぶり、日常に新しい視点と豊かなインスピレーションをもたらしてくれます。新進気鋭のアーティストや、時代を超える名作との出合いを求めて──。四半世紀の節目を迎える来年の「ART OSAKA」への期待が高まります。

編集・文=井本茜(婦人画報編集部)

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