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瀧口修造と杉本博司|視覚・幾何学・文学……。 「現代アートの父」への共感

  • 2026.6.18
©︎ Kazuo Okazaki

瀧口修造、岡崎和郎《檢眼図》1977年、石橋財団アーティゾン美術館

小崎哲哉さん、山口桂さん、河内タカさんが交代で担当している『婦人画報』のアートコーナー「アートの杜 賢者の深掘り」では、開催中の注目の美術展をピックアップ。

『REALKYOTO FORUM』編集長の小崎哲哉さんが今回ご紹介するのは、『瀧口修造 書くことと描くこと』と、『杉本博司 絶滅写真』です。

瀧口修造がつないだデュシャンの思想

瀧口修造(1903〜1979)は、戦前戦後を通じて日本を代表する美術評論家です。詩人であり、キュレーションを行い、晩年には美術作品もつくりましたが、何よりもシュルレアリスムを日本にいち早く紹介した人物として知られています。

「現代アートの父」マルセル・デュシャンを、日本で初めて論じたのも瀧口です。世界初のデュシャン論は、シュルレアリスムの創始者アンドレ・ブルトンが1935年の初頭に発表しましたが、瀧口はこれを下敷きにして、1938年に持論を日本の美術雑誌に寄稿しました。未完に終わった代表作《花嫁は裸にされて 彼女の独身者たちによって、さえも》(通称《大ガラス》)を中心に書いていることが注目されます。

第2次大戦の後に、スペインにあるサルバドール・ダリの別荘でデュシャンと偶然出会い、以後ふたりは手紙のやり取りを始めます。瀧口が夢想した「架空のオブジェの店」に、デュシャンの女性別人格ローズ・セラヴィの名を付けてもらったり、お返しに『マルセル・デュシャン語録』という本を日本で刊行したり、と国境を越えた付き合いが続きました。

組み立て式の《檢眼図(けんがんず)》は、敬愛する「父」へのオマージュとして、やはりデュシャンに大きく影響されたアーティスト岡崎和郎とともにつくった限定複数製作品(マルチプル)。《大ガラス》に含まれるモチーフ「眼科医の証人」を3次元化したものです。「眼科医の証人」のコンセプトについては諸説ありますが、視覚に関わるものであることは確かでしょう。僕は、《大ガラス》は「世界の理」を探究する宇宙船だと考えているので、観測機器やナビゲーション・システムに見立てたものと解釈しています。

杉本博司 《観念の形 0003》 2004年 ゼラチン・シルバー・プリント 149.2×119.4cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

杉本博司も自他ともに認めるデュシャン主義者です。『婦人画報』2026年4月号で、連載「折々の花」に掲載された検眼鏡ケースの写真をご記憶の方もいるかもしれません。黒漆の輪島塗の上に「眼科医の証人」の形がきれいに箔押しされていました。このケースは『絶滅写真』展には出品されていないようですが、デュシャンの影響は多くの杉本作品に見て取れます。

デュシャンは視覚に、数学に、幾何学に、宇宙に、そして文学にも魅せられたアーティストでした。その思いが後進に受け継がれているのを見ると、うれしくなります。

瀧口修造 書くことと描くこと

「書く」から「描く」へと至る創作を、多様な実験的技法による瀧口作品と、パウル・クレーやマルセル・デュシャン、ジョアン・ミロら関連作家の作品とともに再考する展覧会。

会期/6月23日(火)~10月4日(日)
時間/10時~18時(金曜~20時)※入館は閉館の30分前まで
休館日/月曜(7月20日、9月21日は開館)、7月21日、9月24日
料金/一般1,200円ほか
tel.050-5541-8600
会場/アーティゾン美術館[東京・京橋]
Google mapで確認
東京都中央区京橋1-7-2

アーティゾン美術館 公式サイト

※京都の「ギャラリー点」では『瀧口修造「妖精の距離」と「スフィンクス」』が開催中。~7月26日(日)

杉本博司 絶滅写真

作家の原点である銀塩写真に焦点をあてた展覧会。初期3部作として知られる「ジオラマ」「劇場」「海景」シリーズのほか、「建築」「スタイアライズド・スカルプチャー」など、複数のシリーズで新作が初公開される。

会期/~9月13日(日)
時間/10時~17時(金・土曜~20時)※入館は閉館の30分前まで
休館日/月曜(7月20日は開館)、7月21日
料金/一般2,300円ほか
tel.050-5541-8600
会場/東京国立近代美術館[東京・竹橋]
Google mapで確認
東京都千代田区北の丸公園3-1

東京国立近代美術館 公式サイト

おざきてつや〇1955年東京都生まれ。ジャーナリスト/アートプロデューサー。2019年フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエを受章。アートの理論や歴史だけでなく、経済や社会の現実にも目を向けた批評に定評がある、アートジャーナリズムの第一人者。著書に『現代アートとは何か』(河出書房新社)などがある。

文=小崎哲哉 編集=吉岡尚美(本誌)

『婦人画報』2026年7月号より

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