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空間を楽しむ東京・下落合のフラワーショップ「Hljóð(ヒュウド)」とは?

  • 2026.6.5
SATOSHI TAMURA

東京・下落合の住宅街の一軒家に店を構える「ヒュウド」。築70年近い古民家を改装した空間には気持ちの良い自然光が差し込み、そこに花や花器がポエティックに並ぶ。まるで海外のフラワーショップのような洗練された空間だが、気負わずゆったりと過ごせる親密さもある。こんな唯一無二のフラワーショップ「ヒュウド」について、オーナーの齋藤拓磨に店の縁側に座りながら話を聞いた。

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縁が繋いだ、下落合でのオープン

東京・下落合といえば、新宿の喧騒から少し離れた落ち着きのあるエリアだ。この地に「ヒュウド」がオープンしたのは2024年10月で、今年で2周年を迎える。店の周囲は人々の生活が垣間見える住宅街だが、この場所を狙って探したわけではなく、一つの縁から始まったと齋藤は話す。

「花の仕事をする前は、設計事務所で建築の仕事をしていました。この建物は友人で建築・空間設計事務所あのねの代表をしている鈴木啓太さんが借りていて、彼が設計事務所兼自宅として使っていました。当時、僕がここで店をやる計画はまったくありませんでしたが、彼がここを見つけて歩んできた過程を近くで見ていました。その後、彼が『住まいとしてだけじゃなく、人が出入りする形にできないか』と考え、『ここでやってよ』と声をかけてくれたんです。これが花屋として独立し、ヒュウドをオープンしたきっかけです」

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建物は築70年近い一軒家。住まいとして使えるように、一度大掛かりなリノベーションは行われていたので、追加の工事は最低限にとどめた。生活のために設けられていた段差を減らし、窓だった場所を入り口へと新しくつくり変えたり、壁の塗装を白からニュアンスのある色に変更したりと、細やかな改修を行いヒュウドとしての空間をつくり上げていった。

足を踏み入れると最初に感じられるのが、“光の心地よさ”だ。齋藤は「 照明は最小限に抑え、基本的には使っていません。日当たりも良いので、なるべく自然の明かりでお客さんに過ごしてもらいたいんです。なので、基本的に夜の営業はせず、明るい時間帯に営業しています」と話す。

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店に大きな照明を設けずに自然の光と影を楽しむという視点に関しては、建築家ルイス・バラガンからも影響を受けたという。

「彼の自邸は間接照明はあるけれど、光と影を意図的に設計しています。お店をスタートさせる直前に現地のメキシコまで実際に見に行けたことも、大きかったです。バラガンの自邸は、空間の光や影に日常を合わせて暮らしているような感覚がすごく良くて。『明るい時間はそこでお茶を飲み、暗くなったらこっちで仕事をする』というスタイルを見て、お店もそうありたいなと思いました」

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ヒュウドではただ花を選ぶだけでなく、その空間を堪能し家具や花器へも思いを巡らせる、豊かなひと時が過ごせる。しかし、この空間自体もまた、あえてつくり込んだものではなく、自然とたどり着いた結果なのだと話す。

「建物だけの力や空気感で言えば、アートギャラリーのようなピンと張り詰めた空間にすることもできますが、ここは住宅街の中。なので、そこに洗練されすぎたギャラリーがあるのは僕の中で違和感がありました。もともと住宅だった経緯もあるので、昔の状態のいいものはなるべくそのまま残し、付け加えるものは最小限にする。そのほうが、お客さんや近所の人たちが来たときに安心して過ごしてもらえるんじゃないかなと思っています」

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街の八百屋さんのような存在を目指して

ヒュウドとしての店の在り方について尋ねると、意外な言葉が返ってきた。それは“街の八百屋さんのような安心感”というキーワードだ。世界観のある佇まいのショップとは一見かけ離れた言葉だが、そこにはお店という異なる人々が集う、ひとつの空間に対する思いが込められていた。

「お店でお客さんが安心して過ごせる状態をどうつくるかをいつも考えています。昔の魚屋さんや八百屋さん、駄菓子屋さんはいつも変わらずそこにある“安心感”がありますが、花屋もその延長線上にあると考えています。目的を持ってお店に行くのも素敵ですが、日常の意識の片隅にいつもそこにあるという存在でありたい。この場所が目指すのは、極論、何も商品がなくても、何が売っているか分からなくても『行ってみよう』と思える場所です。また、誰が来ても居心地よく過ごせる場所にできないだろうか
という点にも興味があります。『ちょっと緊張して辛かったな』というような思いは、お客さんには絶対にしてほしくないんです。もしそうなってしまう理由がお花のセレクトや置き方にあるのだとしたら、お客さんの方の心地よさを優先したいと、強く思っています」

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花は無理せず、ゆるくていい

ヒュウドの店内は、一か所だけでなく空間のさまざまな場所に花が静かに飾られている。どれも花自体がもつ自然の美しさが感じられるが、決して気負いのない力の抜けた雰囲気が心地よい。齋藤は花の飾り方に対して、「ゆるくていいんです」と話す。

「どうすれば長持ちしますか?や、どうやったら上手く飾れますか?と尋ねられます。もちろん基礎的な知識は人より知っていますが、感覚としては『うまく飾れないよね』というお客さん側の気持ちに同調している感じなんです。花を飾るとなるとダメにしないようにケアしなきゃと考えがちですが、決してそうではなくて、適当でゆるくていいんです」

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さらに花だけでなく、花器や家具も扱うヒュウド。齋藤の中では、花も器も家具もすべて一緒で、同じ並びにあるという。

「花をたくさん飾りすぎると、器や家具が見えなくなって、建物が生み出す美しい光や影も分からなくなってしまう。それは自分の中ではちょっと違って、僕の中ではお花も器も家具もすべて一緒で、同じ並びにあります。日本では装飾的な要素としてお花が位置づけられがちです。そういったシーンもいいと思いますが、インテリアを良くしようとして無理に飾る必要はありません。花がなくても空間は成り立つし、自分もそれでいいと思っています。ただ、たとえば近所を歩くと花が咲いていて、それを見たときに素敵だな、家に持って帰りたいなという気持ちになったら、それを飾ればいい。その気持ちになった時って、花瓶がペットボトルであっても、どこに置いてもすごく空間が晴れやかになりますよね。そういう“飾る気持ち”が大事だし、そのマインドでいたほうが、花の変化していく姿も含めて長く楽しめるはずです」

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人の手の痕跡が感じられるものや、素朴なものが好きと語る齋藤。メキシコの建築家ルイス・バラガンや旅など、ありとあらゆるモノやコトから日々インスピレーションを受けている。そのインスピレーションソースの一つとして、神社や公園といったパブリックな空間を挙げる。

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「神社には神様がいますが、お茶が飲めるわけでもなく、何も用意されていない空間ですよね。でも、小さい頃に神社で遊んだように、何もないけれど人が集まる。そういう、パブリックでみんながオープンに来られるゆるい場所を目指しています。おじいちゃんやおばあちゃん、小さな子どもが一緒にいる神社の風景はいつも不思議で素敵だなと思いますし、その“何もない余白”が僕の中ですごくいいなと感じるんです」

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この思いはヒュウドの2階スペースにも通じるものがある。2階は花が少しずつ飾られているが、椅子が置かれ、そこに腰掛けてぼーっと過ごすことができる。

「2階は僕の目から逃げられる場所でもあるんです。話したい人は向こうから来てくれるから、本当にゆっくり商品を見たい人やぼーっとしたい人のために、これだけのゆとりがある空間を全部埋めず、余白を残しています。外と遮断されてぼーっとする時間が人生に必要だし、大事だなと思っていて、それを店でも共有したいんです」

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自然な流れで土地に根差したお店を目指して

最近では近所の住人の来店も増え、嬉しいと笑う。

「その土地に根ざすというのは一番難しいですし、意図的というよりも自然とそうなっていくのがいいのかなと思います。まだまだ知らない人も、入りにくいなと思っている人もたくさんいると思いますが、その中で興味を持って寄ってくれる人が少しずつ増えている状態は、すごく心地いいです」

自然の産物である花や植物を飾る喜びや、生活の中での余白の大切さ、空間における光や影の美しさなど、さまざまなインスピレーションを与えてくれる場所、ヒュウド。無理をせずに自然体な感覚と、人とのつながりを大切にする軽やかなショップは、想像以上に心地よい。天気のいい日もそうでない日も、ふらりと訪れて空間を体験してみてほしい。

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Hljóð(ヒュウド)
東京都新宿区下落合4-1-10
※営業日や休日、営業時間はInstagramで確認を

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