1. トップ
  2. エンタメ
  3. 染谷将太さんが選んだ一冊は、佐藤究『トライロバレット』。読後は、事故に遭ったように茫然自失してしまった【インタビュー】

染谷将太さんが選んだ一冊は、佐藤究『トライロバレット』。読後は、事故に遭ったように茫然自失してしまった【インタビュー】

  • 2026.5.21

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年6月号からの転載です。

時間を見つけては本を読むのが好きという染谷さん。中でも本書には、「感情をかき回された」と語る。

「高校生のバーナムと退役軍人の男が、ある重大事件へと至る過程を描いているんですが、二人の心理の変化があまりに自然で。誰にでも起こり得ることだと恐怖を覚えました」

ページをめくる手が止まらず、物語と同じ時間を自分も生きていると感じるほど没入した。

「事件は永遠に続くかのようで、でも終わったらあっという間だった気もして。読後は事故に遭ったようというか(笑)、茫然自失でした。実際、事件や事故に遭うと、人は事象の処理が追いつかず時間感覚も失って、やはり茫然とするものなのかもしれません。そういう意味でも、僕はこの小説の中の人たちの体験を、共有できたのだと思います」

染谷さんは、物事の善悪についても考えさせられたという。

「バーナムはピュアな情熱に動かされ、退役軍人の男も一生懸命に生きた結果。そこでは善悪の境目は曖昧だし、非常に人間らしくもある。ただそれを、『人間らしい』と言ってしまうのも怖い気がして。結局僕は、人の思考がギリギリまで、あるいは境界を超えるところまでいってしまう物語が好きなのかもしれません」

染谷さんは今、主演映画『廃用身』の公開を間近に控えている。廃用身とは、麻痺などにより回復の見込みのない手足のこと。染谷さんは、「身体のリストラ」を施す画期的な治療を考案した医師・漆原を演じる。

「チャレンジングな題材ですから、自分が漆原役を説得力を持って最後まで全うできるのか、最初は不安でした。でも、𠮷田光希監督はこの作品のテーマを的確に捉えておられた。監督の『廃用身』の世界に飛び込んでみようと、勇気が出ました」

“『廃用身』の世界”に身を置く上で役立ったのは、リハーサルで行われた模擬カンファレンスだった。

「映画には登場しない原作の症例について、“治療”を施すべきか演者で議論したんです。役を通して本当に様々な意見が出て、その後も現場で話し合える空気が生まれました」

本作でも善悪の曖昧さは重要な要素となっている。

「漆原は患者さんの役に立ちたいと、確固たる信念で“治療”している。同時に、その思いの強さゆえに、先へ先へと“治療”を進めてしまう紙一重なところがあります。立場によっても、一人の人間の中であっても善悪は常に揺れ動いていると思います」

取材・文:松井美緒 写真:TOWA

ヘアメイク:AMANO スタイリング:清水奈緒美

そめたに・しょうた●1992年、東京都生まれ。2011年、映画『ヒミズ』で第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞受賞。近年の出演作に、映画『教場 Requiem』『爆弾』、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』、ドラマ『田鎖ブラザーズ』など。主演映画『チルド』が7月に公開予定。

『トライロバレット』

(佐藤 究/講談社文庫) 748円(税込)

アメリカ・ユタ州のウィットロー高校に通う少年バーナム。三葉虫の化石を集めながら静かな学校生活を送っていたが、突然、人気者のコールからいやがらせを受け始める。一方、退役軍人の男はウィットロー高校に憎しみを募らせていた。現代アメリカ社会の闇に光を当てる、ダークヒーロー・ファンタジー。

『廃用身』

原作:久坂部 羊(『廃用身』幻冬舎文庫) 監督・脚本:𠮷田光希 出演:染谷将太/北村有起哉、瀧内公美/廣末哲万、中村映里子、中井友望、吉岡睦雄/六平直政 配給:アークエンタテインメント 5月15日 TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

●ある町のデイケアで、漆原院長が考案した“ある治療”が密かに広まっていた。究極にコスパの良い介護を目指すその医療行為は、「廃用身」をめぐる常識を覆すものだった。超高齢社会である現代日本と地続きのテーマをはらむヒューマンサスペンス。

元記事で読む
の記事をもっとみる