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巨匠ムーティと若い力が作る、新たなる『ドン・ジョヴァンニ』

  • 2026.4.25
©️東京・春・音楽祭実行委員会_平舘平

イタリア出身の著名な指揮者、リッカルド・ムーティ。ナポリで生まれ若くからその才能を発揮し、長いキャリアの中で世界中の歌劇場や管弦楽団との共演を重ねてきました。その情熱は84歳になるいまも衰えることなく、現代のクラシック界において絶大な支持と信頼を得るマエストロの一人です。

イタリアオペラへの特別な思いと、モーツァルトへの敬意

そんなムーティ氏によるオペラ『ドン・ジョヴァンニ』が上演されます。『ドン・ジョヴァンニ』は言わずとしれたオペラの名作ですが、ムーティ氏が日本でこの作品を指揮するのは初めてのこと。公演を控えて、作曲したモーツァルトへの特別な思いを胸にしているといいます。

公演に先立って行われた会見では、「わたしとモーツァルトの関係には意味深いものがあります。世界中の楽団と多くのモーツァルト作品を上演してきました。キャリアのなかでの長い時間をモーツァルト作品の鍛錬と研究に捧げてきたと思っています」と語りました。

「モーツァルト自身はオーストリア出身ですからイタリア人ではありません。しかし彼はイタリア語やイタリアの文化をよく理解してオペラをつくっていた。実際に彼が書いた音楽は、我々イタリア人が話すようなリズムで作られています」。イタリアオペラの発展に寄与したモーツァルトへの敬意と愛情を込めたプロダクションは、クラシックファンならずとも必聴です。

リッカルド・ムーティ氏。早くから指揮者として注目を集め、フィラデルフィア管弦楽団、ミラノ・スカラ座、シカゴ交響楽団などの音楽監督を務め、評価と人気を得てきた。 ©Toru Hiraiwa

演出は愛娘。万全の布陣で挑む古典の世界

さらに注目したいのは、本公演の演出を手掛けるキアラ・ムーティ。ムーティ氏の愛娘です。俳優としての顔ももつ彼女は、幼いころから父の元で音楽に親しみ、演出のキャリアを演劇からスタート。現在は父の信頼も得て、話題のオペラ公演をいくつか手掛けています。一番の魅力は既存の感性にとらわれない自由でモダンな発想。古典作品であっても、多くの資料や過去の例を研究し、独自の表現に昇華します。このプロダクションはすでにイタリアの複数の劇場で成功を収めており、父娘でつくる新たな『ドン・ジョヴァンニ』の日本公演にも期待が高まります。

オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(過去の他国公演より) © Andrea Macchia Teatro Regio Torino

ムーティ氏が選んだ歌手たちも最高の布陣。特に主役を任せたルカ・ミケレッティは、現在のオペラ界で最も人気を集める一人です。俳優としても活躍する人物で、歌のみならず繊細な感情表現に長けているのも、多くの観客から支持を集める所以でしょう。そもそもドン・ジョヴァンニは数々の女性と関係をもつプレイボーイという役。周囲の人々をその魅力で惑わせ、振り回す役柄にはうってつけの色気と華やかさも大きな武器です。

「若い世代との共演に希望を見出している」

また会見では日本の音楽界への思いも語られました。「わたしは1975年に初めて日本公演を行いました。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のツアーです。その後幾度となく、ミラノ・スカラ座やウィーン国立歌劇場などを伴って来日しましたが、日本のファンはいつも熱心に演奏を聴いてくれた。だから日本での公演には毎回特別な思いがあるのです」

さらに84歳という円熟の極みにいるムーティ氏は、若い世代への思いをしきりに口にしました。ムーティ氏は2015年から「イタリア・オペラ・アカデミー」という、これまでの経験や自身がこれまでに培ってきた教えを、才能ある世界中の若手音楽家に伝えるプロジェクトを主宰しています。2019年から東京でもこのアカデミーを開催。今回ともに『ドン・ジョヴァンニ』を作り上げる「東京春祭オーケストラ」は、そのアカデミーで大きく成長した管弦楽団で、ムーティ氏から薫陶を受けた若い音楽家たちを中心に組織されています。

「彼らの、わたしが指示したことへの対応力は本当にすごい。ぜひ期待していただきたい」。長い時間その世界に身を置き、数多の音楽家と経験をともにしてきたムーティ氏にとって、若いメンバーと挑戦することはとても重要なことだといいます。「共演するたびに日本の若い音楽家から希望をもらっています。彼らは音楽への情熱をもち、イタリアオペラに深い思いを抱いている。だから今回の公演も、紛れもない“イタリアオペラ”だと思っています。コンサートマスターを務めるヴァイオリニスト、長原幸太もすばらしいですよ、指揮者にも挑戦してほしいくらい(笑)」

会見でのムーティ氏。記者から閉館、休館が相次ぐ日本の劇場事情について問われると、「わたしにいいも悪いも言えないけれど、重要なのは生まれ変わる間には代わりの劇場が必要ということ。多くの劇場が同時に閉まるとその間、上演すべき芸術もなくなってしまう。残念なことではあると思います」とコメントした。 ©Toru Hiraiwa

愛情と恐れをもって、音楽に立ち向かうということ

「最近はひとつのオーケストラと長く契約して研鑽を積む時代とは異なり、複数の楽団を兼任する指揮者も増えてきました。時代は変わっています。しかしそれが指揮者や楽団にとって、よりよいということも言えないでしょう。複数の家族をもっているようなものですから。重要なことは指揮はただ振るだけではないということ。音楽に立ち向かうとき、ときには恐れを感じることもあります。でもどれほど深くひとつのオーケストラに力を注ぐか、そしてともにどれだけ深く作品の世界に入っていくか。指揮者としてはそんな思いと覚悟が重要だと思っています」

レジェンドのマエストロとその背中を追おうとする若い力が拮抗するとき、どんな共鳴があり、どんな音楽が完成するのか。ご期待ください。

オペラ『ドン・ジョヴァンニ』全2幕

© Andrea Macchia Teatro Regio Torino

作曲:W.A. モーツァルト

指揮:リッカルド・ムーティ
演出:キアラ・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:仲田 淳也

出演者(予定):
ドン・ジョヴァンニ:ルカ・ミケレッティ
ドンナ・アンナ:マリア・グラツィア・スキアーヴォ
ドンナ・エルヴィーラ:マリアンジェラ・シチリア
ドン・オッターヴィオ:ジョヴァンニ・サラ
レポレッロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
ツェルリーナ:フランチェスカ・ディ・サウロ
マゼット:レオン・コーシャヴィッチ
騎士長:ヴィットリオ・デ・カンポ

公演日時/4月26日(日)14時~
4月29日(水・祝)14時~
5月1日(金)14時~
会場/東京文化会館
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東京都台東区上野公園5-45

取材・文=八木あきほ

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