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【クローディアの秘密】編集者の吉田元子さんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン

  • 2026.4.21
撮影=藤巻 斉(フレイム)

『小公女』『赤毛のアン』などの海外小説から、日本の戦前の少女小説、少女小説レーベル、そして現代文学へと受け継がれてきた“少女の物語”。そこで描かれる誇り高き少女たち、少女的な感性で生きるヒロインたちは、いくつになっても心のなかに生き続け、私たちに希望や勇気、自信を与えてくれます。そんな小説を愛し、少女の心を持ち続ける方々が、名作から学んだこととは……?

不自由を突き抜けて自分を生きる少女たち

クローディア・キンケイド 『クローディアの秘密』

少女のころ、物語を楽しんで読みながらも、こうありたいと主人公に自分を重ね、美意識や価値観のもとになる、いろいろなものを受け取っていたように思います。

『クローディアの秘密』の主人公は、弟が3人いる4人きょうだいの長女。女の子であるがゆえに不公平な扱いを受けていることに不満を感じ、家出を計画します。とはいえ、やみくもに家を飛び出しても仕方がないと、お小遣いを貯めている弟を仲間として連れて行くことにしたり、自分が楽しく快適に過ごせる美しい場所をと、ニューヨークのメトロポリタン美術館を家出先として目指したり。聡明で現実的、そして都会っ子なので、何をするにもお金が必要で、自分が不快な場所には耐えられないことをよくわかっているんです。

[『クローディアの秘密』(岩波少年文庫)P55]4人きょうだいのいちばん上で、女の子は一人きり。いつも不公平な目に遭い、誰も自分の値打ちをわかってくれない。そんな不満から家出したクローディア。家出先のメトロポリタン美術館で、こここそが自分の価値にふさわしい場所だと確信する。 Hearst Owned

家出と同時に、ミケランジェロ作とされる天使の像の謎を追うというもうひとつの冒険が物語の軸になっていますが、クローディアは単に不満から逃げ出すのではなく、自分が選んだ場所で「ちゃんと変わって帰りたい」という思いを強くもっています。

慎重なのに、チョコレートサンデーを我慢できなくてお金を貯められなかったりするところも愛すべきキャラクター。弟のジェイミーは、貯金はできるけれど大胆不敵で、ちょっとうっかりさんなところもある。お互いに補い合いながら、知恵を頼りに窮地を乗り切り、道を切り開いていく。その姿にわくわくしながら力をもらっていたように思います。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『クローディアの秘密』

E.L.カニグズバーグ/著 松永ふみ子/訳
岩波少年文庫 836円

11歳の少女クローディアは、弟ジェイミーを誘って家出を決意。行き先は、ニューヨークのメトロポリタン美術館。世界最大級の広さを誇る美術館で密かに暮らし始めるうちに、ふたりはミケランジェロ作とされる天使の像に惹きつけられ、その謎を解き明かそうとする……。秘密をもつことが大人への第一歩。そんな自立への成長を描く。

瑠璃姫『なんて素敵にジャパネスク』

氷室冴子作品も、夢中になって読んでいました。どちらかといえば作品全体からメッセージが伝わってくるタイプのものが多いのですが、主人公のパワーが際立つといえば『なんて素敵にジャパネスク』の瑠璃姫です。

平安時代の貴族社会という、いまよりずっと制約の多いなか、そこを突き抜けていく行動力は、少女の私を大いに勇気づけてくれました。一見ハチャメチャでありながら、和歌が効果的に使われていたり、時代背景や暮らしをきちんと捉えて描かれていたりするので、古典文学への興味の入り口にもなりましたね。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『なんて素敵にジャパネスク』(復刻版)

氷室冴子/著
コバルト文庫 825円 ※電子版は全10巻

平安京を舞台に、型破りで好奇心旺盛な姫君・瑠璃姫が巻き起こす騒動を描く王朝ラブコメディ。名門に生まれながら結婚を拒み続ける瑠璃姫は、幼馴染みの高彬や再会した初恋の相手・吉野君との関係に心を揺らしつつ、宮廷で起こる事件や陰謀に首を突っ込んでいく。持ち前の聡明さと行動力で難題を解決しながら、自分らしい生き方と恋を模索する物語。

マリー・アントワネット『マリー・アントワネットの日記 Rose』『マリー・アントワネットの日記 Bleu』

マリー・アントワネットが主人公の名作はたくさんありますが、『マリー・アントワネットの日記』は、史実を踏まえつつ、口調も感覚も完全に今時のギャルとして生き生きと描かれているところが秀逸です。王妃とはいえ嫁いだ時点では10代の女の子。それはそうだよね、と心を寄せながら読みました。

「パンがなければお菓子を食べればいい」という有名な台詞も、彼女が発した事実はなく、この作品では革命推進派による王政を攻撃するためのネガティブキャンペーンに使われたという説が取られています。「言ってない!」と怒り心頭の彼女が、いまのネット上での壮絶なバッシングを思わせる大きなうねりに飲み込まれていく様子に、発信する手段など持ち得なかった当時の実在の彼女にも思いを馳せずにいられませんでした。口調はともかく、きっとこんな女性だった、と思いたくなる魅力的な作品です。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『マリー・アントワネットの日記 Rose』『マリー・アントワネットの日記 Bleu』

吉川トリコ/著
新潮文庫nex (Rose)649円 (Bleu)693円

14歳でフランス王室に嫁いだマリー・アントワネットの生涯を、ギャル語とネットスラングを駆使して日記形式で綴った歴史小説。前編『Rose』では、フェルゼンとの恋愛と華やかな宮廷生活を、後編『Bleu』では、革命の悲劇を鮮明に描く。悲劇の王妃としてだけでなく、サービス精神旺盛なひとりの等身大の女性として再発見できる。

Hearst Owned

よしだもとこ〇文芸誌、趣味誌、実用誌、Webマガジン、書籍の編集を経て、2002年ポプラ社入社。文芸を中心に書籍を手掛ける。辻村深月『かがみの孤城』、小川糸『ライオンのおやつ』ほか、最新刊は中脇初枝『天までのぼれ』(すべてポプラ社)。

少女小説をもっと知るためのイベント

特別展 生誕130年吉屋信子展 シスターフッドの源流

会期:4月4日(土)~5月31日(日)
時間:9時30分~17時(入館は~16時30分)
会場:神奈川近代文学館
休館日/月曜(5月4日は開館) 入場料/800円

20歳で作家デビューし、大正、昭和を通じて、旺盛な活動を続けた人気作家、吉屋信子。連作短編集『花物語』は、女学生を中心に熱狂的な支持を集め、日本文学史に少女小説という一ジャンルを築いた。

作中で多様な女性像や女性同士の関係を描き、自身も同性のパートナーと生涯をともにした信子。神奈川近代文学館が所蔵する膨大な資料を中心に、信子の人生と作品に「女性同士の絆」という観点から新たな光を当て直す。

集英社コバルト文庫創刊50周年ときめくことばのちから──少女小説家は死なない!─

会期:4月29日(水・祝)~5月10日(日)
時間:10時~20時(入館は~19時30分)
会場:西武渋谷店A館7階催事場
入場料/1,500円

1976年5月28日に創刊し、今年で50周年を迎えるコバルト文庫。1980年代から2010年代にかけて生み出されてきたコバルト文庫の物語と言葉は、多くの少女たちを夢中にさせ、“いちばんの親友”としていつも寄り添ってきた。

本展では、「ことば」「ときめくことばのちから」に着目し、コバルト文庫の50年の歴史と魅力を掘り起こす。日替わりでゲストとして登壇するコバルトのレジェンド作家たちにもご注目!

撮影=藤巻 斉(フレイム) 取材・文=和田紀子 編集=柏木敦子(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年5月号より

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◾️特集「少女小説が教えてくれたこと」

辻村深月さんにとっての少女小説とは?|それは「わたし」の物語

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【クローディアの秘密】編集者の吉田元子さんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン(この記事)
嵯峨景子さんが選んだ、知る人ぞ知る名作少女小説20選(4/30公開予定)

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