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「アレッシ ストア 東京」がオープン!アルベルト・アレッシ×深澤直人 スペシャル対談

  • 2026.4.10
CEDRIC DIRADOURIAN

――東京・青山に新店舗がオープンしました。その経緯を教えてください。

アルベルト・アレッシ(以下アルベルト):ここ青山は、18年前にも日本で最初に店舗を構えた場所で、再度直営店を出すなら青山でなければならないと思っていました。東京は文化的に非常に刺激的な都市で、私たちにとってとても重要な場所です。そこで、長年の友人でもあり、これまで「アレッシ」とともに素晴らしいプロダクトを作ってくださってきた深澤直人さんに相談したんです。結果的に、4月にオープンするミラノ・マンゾーニ通りの旗艦店とともに東京のショップデザインもお願いすることができました。

深澤直人(以下深澤):アルベルトとは、プロジェクトをともに実現してきました。その延長線上に今回のお話がありました。これまで開発したプロダクトもかなり多くなってきている中で、日本にもお店を出そうという話が出てきた。であれば、単にコレクションを並べるだけではなくて、空間も含めて考える必要があるだろうと感じました。それで「お店を出すなら私がデザインしたい」とお伝えして、ものだけではなく空間も含めた提案をさせていただいたんです。

「アレッシ ストア 東京」。2フロア展開のストアには、アイコニックな定番から最新コレクションまで、約600点が揃う。 Hearst Owned

――今回のショップデザインについて教えてください。

深澤:これまでの「アレッシ」のショップは、どちらかというとデザインの強さや視覚的な印象を全面に出すような方向性だったと思いますが今回は少し異なるアプローチを取ることにしました。私が「アレッシ」とミーティングするときは、決まってアルベルトが所有するワイナリーと、その一角に立つ自宅に招待していただく。ゆっくりと食事をしながらワインを空け、語らう時間が、一番自然で幸せな形だと感じるんです。彼の自宅は木や石などの自然素材がふんだんに使われていて、まるで周囲の自然に溶け込むように無理がない。彼の自宅の感覚をそのまま持ち込むような形で、ショップもデザイン的に強く振る舞うのではなく、人間の静かな生活に馴染むような雰囲気にしました。

明るいオーク材とミニマルなディテールで構成された什器が、プロダクトの存在感をより一層引き立てる。 Hearst Owned

アルベルト:私の考えはとてもシンプル。ショップはお客様に対してウェルカムな場でなければなりません。ですから、お客様には自分の家のようにくつろいでほしい。それゆえ単なるインパクトや視覚的な強さを見せるものではなく、商品がどのように存在し、生活の中で息づくのかを体感する場でなければならないのです。つまり、主役はあくまで商品であり、空間はそれを支えるものであるべきです。

深澤:その意味でも、インテリアをやりすぎないことをかなり意識しました。ものと空間の関係がうまく調和するような状態、互いにぶつかるのではなく、自然に共存するような関係性を生み出すことを考えました。その結果として、すごくいい、というより「何かいい感じ」と思えるくらいのバランスに落ち着くことが重要だと思っています。

――イタリアの巨匠たちともに、多くのレガシーを生み出してきた「アレッシ」ですが、そこにはデザインの鉄則のようなものがあるのでしょうか。

アルベルト:私は数年前に“アレッシのボーダーライン”というものを定義しました。「アレッシ」のようなデザインファクトリーは、常に高いデザイン性と一般の人々の理解の狭間、ギリギリのライン上にいなければならない、ということです。見た目の美しさや、魅力によって手に取ってみたいと思っていただけるデザインでありながら、それが行きすぎてしまうと、「面白いけれど理解できない」と気持ちがついてこない。その一歩手前の、非常に微妙な位置に「アレッシ」は立っています。

エットレ・ソットサスによる“トゥエルジ”コレクション。エットレとの協業は、「アレッシ」にポストモダンの感性を持ち込み、ブランドの表現を拡張した。 Hearst Owned

――ボーダーラインに立ち続けることは難しいことでしょうか。

アルベルト:とても難しく、常にリスクを伴います。そのボーダーラインは目で見て判断できるような明確さはありません。特に、マーケティングの視点から見てもそのラインは絶対に見えない。立っている体のバランスを崩すだけでも、理解されないエリアに転げ落ちてしまうんです。たとえば、自動車工業のような大量生産型の事業者は、このボーダーラインから最も遠いところに身を置き、リスクを最小限にします。しかしこれが進むとどうなるか。みなさんご存知の通り、似たり寄ったりの製品しか生まれてきません。そのラインはまるで蜘蛛の糸のような境界線で、私自身も何度もそこから転げ落ちて、失敗を経験してきました。しかし落ちる瞬間にこそ「どこがボーダーラインだったのか」が一瞬鮮明に見えるのです。それこそ、私たちのようなミニプロダクションが、独占的に唯一無二の製品を作り続けることができる方法です。もし1年の間に1度も失敗が起こらないとしたら、それはむしろ問題で、「アレッシ」は普通の会社になってしまったのではないか、と危機感を持つべきです。失敗があってこそ、私たちらしさが保たれているのです。

アレッサンドロ・メンディーニの未発表デザインをもとにしたお箸セット。長年にわたりアレッシの象徴的存在として活躍したデザイナーの世界観が息づく。 Hearst Owned

――アレッシの製品の中で最も気に入っているものはどれですか

深澤:私がデザインしたもので、“Itsumo”というシリーズのカトラリーがあります。中でもバターナイフが気に入っています。大前提として、「アレッシ」におけるカトラリーといえば、エットレ・ソットサスやアッキーレ・カスティリオーニというマエストロたちの名作が多数あります。とても敵わない(笑)。ただ、日常で使うには、少し重い気がしていました。しかし、ただプレス機で型抜きしただけの簡素なものはブランドにそぐわない。コストを下げながら、肉厚を感じさせ、薄いのに柔らかい、そんなカトラリーを目指して制作したシリーズで、中でもバターナイフはぽってりと美味しそうな形に仕上がりました。カトラリーは非常に完成された道具ですから、生涯でそう何度もデザインするものでもありません。そのひとつが「アレッシ」とともにできたことにとても喜びを感じています。このバターナイフは、私自身も毎日使っていますね。

2019年に発表された“Itsumo”コレクション。カトラリーをはじめ、プレートやコーヒーカップなど、日常使いのテーブルウエアを一式で展開する。 Hearst Owned

アルベルト:深澤さんのデザインは、一見すると非常にミニマルに見えますが、ヨーロッパや北欧のミニマリズムとは大きく異なります。静かなデザインの内側に、強い情熱がこもっていて、それが色や素材を通じて表面に滲み出てくる。その点が非常に希有で、魅力的だと感じています。

――東京のショップはどのような場所でしょうか。

アルベルト:「アレッシ ストア 東京」は、「アレッシ」の世界を開く「窓」のような存在になってほしいと考えています。最近のデザインショップは、セレクトショップの形態が多くなっていて、複数のブランドが混在することで、それぞれのブランドの個性や価値が見えにくくなっているように感じます。だからこそ、この場所では商品数を増やすのではなく、むしろ絞り込むことで、それぞれのアイデアやコンセプトがしっかりと伝えられたらと思っています。

深澤:空間のデザインも同じ考え方です。情報を増やして説明するのではなく、少し引いて余白をつくることでプロダクトの魅力や使い方のイメージが自然に立ち現れるような状態を作ろうと考えて設計しています。

アルベルト:カフェもありますので、ぜひ日本のみなさんに気軽に訪れていただきたいです。

1階に併設されたカフェでは、ミケーレ・デ・ルッキやデイヴィッド・チッパーフィールドが手掛けた「アレッシ」のアイコンともいえるマキネッタで淹れたコーヒーを提供。プロダクトの魅力を、味わいとともに体験できる。 Hearst Owned
パニーニやティラミス、コルネッティなどイタリアらしいフードやスイーツが楽しめる。 Hearst Owned

ALESSI STORE TOKYO(アレッシ ストア 東京)
住所/東京都港区南青山3-7-1 1-2階
電話/03-6804-5616

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