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【対談】西野亮廣×又吉直樹「西野くんは土壌を耕している人だと思った」。『プペル』『生きとるわ』『ゴミ人間』の登場人物に見える“人間らしさ”【全文公開・後編】

  • 2026.5.30

西野亮廣さんと又吉直樹さんは芸人として活動するなかで、それぞれ絵本作家と小説家という肩書きで異なるフィールドでの創作に挑み、作家として成功を収めるなど、異色のキャリアを歩んでいる。

西野さんは2009年に「にしのあきひろ」名義で『Dr.インクの星空キネマ』を上梓し、絵本作家としてのキャリアをスタート。3月27日には西野さんが製作総指揮・原作・脚本を務める『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』が公開され、2か月が過ぎた現在も地方劇場を中心に盛り上がりを見せている。

一方の又吉さんは2015年に初となる小説作品『火花』で芥川賞を受賞し、その後も数々の小説やエッセイを刊行。2026年1月には6年ぶりの長編小説『生きとるわ』を上梓し大ヒットを記録している。

東西は異なるが1999年にNSC(吉本総合芸能学院)に入所した同期で同い年であり、芸人から異なるキャリアを築くなど、何かと共通項が多い2人。

本稿では、Youtubeチャンネル「西野亮廣 / Akihiro Nishino」で公開された『【クリエイター対談】又吉と西野が語る「ダメ人間」と「正しい人」のキャラクター論』の模様を、全文文字起こしでお届けする。

対談の後編では、それぞれの作品や登場人物のことはもちろん、映画公開を目前に文庫化された西野さんのエッセイ集『ゴミ人間 日本中から笑われた夢がある』を読んだ又吉さんが語る“西野像”、「信じる」ことの難しさなど、話題は多岐にわたった。

日本中のミュージカルクリエイターをゴボウ抜きにしてやると思った

西野:思い出した。珍しくイラっとしたことがあって。5年ぐらい前の話だから、時効にしてくださいね。ミュージカルの舞台を作るとなったときに、ミュージカル畑の人に「芸人が舞台を作れんのか」みたいなことを言われたときにイラっとして。「ちょっと待てよ」と思って。こちとら19歳のときから劇場で出まくって、何回スベって、何回傷を背負って……この何回って何百の話ではなくて、何千とかのレベルでやっている。経験値でカウントしたときに、全然ものが違うぞと思ったんですよ。

全然これ使っていただいていいですけど、そのときに日本中のミュージカルクリエーター、全員一気に一瞬でゴボウ抜きにしてやると思った。日本中のミュージカルを20年、30年、40年やってこられた方のプライドをズタズタにするぐらい、一瞬で、しかも処女作で一気に抜ききって、ブロードウェイまでいくって決めた。それぐらい、そのときにスイッチが入ったんですよ。

又吉:いや、西野くんって『プペル』を見ても思ったんだけど、すごいいっぱい矢が刺さっていて、それを乗り越えてきている。その矢は放たれなかったほうがよかったのか、それがあったほうがいいのか。どっち?

西野:結局、あったほうがよかったんです。こんなん言うの嫌だけど(笑)。

又吉:それで、毎回すごくやる気を出しているよね。

西野:そう。ちょっと矢に栄養があって(笑)。

又吉:でも、もう一方(の世界線)を見れてないもんな。矢が飛んでこなくて、みんなに「えっ、めっちゃいい」って応援され続けたら、どうなっていたんだろう。もっとすごくなっていたかもしれない。

西野:確かにABテストをしていないから。矢が刺さってないパターンを知らないから。

自分には応援代がまったくなかった

又吉:どうなんだろう。でも、今の作風になってるのは、矢があったからできている作風でしょう?

西野:間違いない。それは又吉さんもそうかもしれない。このようなことを言うとないものねだりだし、「そんな甘っちょろいこと言うな」と思うかもしれないけれど、たとえばメッセンジャーの黒田さんが「めっちゃ貧乏(な生活を)していました」みたいなことって、当時、本当につらかったと思うし、とんでもなくつらかったと思うけど、芸人になってからのそれって宝物じゃないですか。ずっとネタにできるし。

すごく貧乏だとか、明確なコンプレックスがある人がいるじゃないですか。つまりめちゃくちゃ不細工とか、すごく貧乏とか、そういうのがなかった場合、応援代(おうえんしろ)はどこなのって話じゃないですか。「誰の代弁者なの?」って話じゃないですか。

僕はまさにそれで。だって、むかつくじゃん。どうやらクラスの中心人物で、そのまま吉本にいき、すぐに売れて。「こんなやつを誰が応援するの」というか、誰の痛みを背負って、誰の代弁者なのかよくわからない。そのときはまじで応援代が全くなかったんですよ。ただ若くて早く世に出たから、女性の若い女の子が「ステキ!」みたいなのはあったかもしれないですけど、「俺の痛みを背負ってくれている西野くんいけー!」とはなってない。

それはずっと欲しかったんですよね。ずっと欲しかったけど、取りにいこうと思っても手に入らないから。だから、当時は25歳で『はねトび』でゴールデンやっていますって、認知はされているけど、ファンがいなかったです。

又吉:俺らからしたら、そんなことを西野くんが考えているとすら思ってない。「すごいな」って多分みんな思っているから。でも、そのときにはもう、その感覚は抱いていた?

西野:明らかに劇場に来るお客さん、単独ライブのお客さんは減っていました。毎週、『はねトび』というのは2000万人ぐらいが見ているわけで、単独ライブをしたらすぐに埋まりそうなもんだけれど、単独ライブが埋まっていたのはもう少し前で。

ゴールデンに上がってからは、単独ライブのお客さんが年々減っていっていて、「いや、これって応援代がなくなったってことかな……」と思った。たとえば、イオンの営業とかではめちゃくちゃ沸くよ。東京から有名人が来てくださったって「わあーっ」てなるけど、有料イベントでは明らかに集客は落ちていて、ファンがいない。

確かに自分には応援代が全くない。困ったなと思っていたら、激しいバッシングが始まった。

新しいことを始めたときの批判がすごかった

又吉:あれは何から始まったんだろう?

西野:いや、いろいろありますよ。まず1発目は、単純に先輩芸人のねたみ。1年目、2年目のときは、若手芸人がテレビとか出れてないときだったから、先輩芸人がラジオとかで「キングコングはな……」ってバンバン(ネガティブなことを)言うんですよ。

又吉:言いやすさもあるし。

西野:言いやすかった。当然、そのファンの方も一緒になって言う、みたいな。そこからスタートして、調子乗りやがってみたいなのは当然あるじゃないですか(笑)。

そこから先は僕の失言も多分めちゃくちゃあった。梶原さんの失言もめちゃくちゃあった。たとえば、クラウドファンディングをやるとかも、結構叩かれた。

又吉:ああ、新しいことをね。

西野:新しいことをやり始めたとき。そこからがすごかったですね。テレビをつけたら、自分はそこにはいないけれど、みんなが西野の話をしていて。「あいつイタいよな」みたいなのを言っているときはゾッとしたもん。

又吉:まだみんなが知らない新しい何かを世にどんどん出していって、「何を訳のわからないことを言ってるんだ」みたいな。その時期ね。

西野:たとえばクラウドファンディングとか、オンラインショップとかも早めにやったんですよ。2012年とかなんですよ。

又吉:めっちゃ早いね。

西野:そのときに、所属タレントがお客さんからライブとか以外で、オンラインでダイレクト課金してもらう、商品を売るとかいうシステムは、僕以前にはなかったから。だから、今考えると批判としては変な話なんだけれど、「あいつお客さんから金もらってやがる」って言われてたんです。

今考えると「いや、それはそうじゃん」っていう。「僕らの仕事って、お客さんからお金もらうものじゃん」という話なんだけどね。その当時は、まだオンラインでライブチケットを売ることまでは許されていた。あるいは、ライブの終演後に物販をしてグッズを売って、お客さんからお金もらうのは許されていたけど、そうではないときに、お客さんからお金をもらうというのは悪で。そこからのバッシングは「なんかとんでもないことをやってやがる」みたいな感じだった。

又吉:みんな、ピンときてなかったのか。実は一番、シンプルだけどね。街でネタを見せて、面白かったらお金をもらうみたいな。一番最初のやり方。

西野:そう。スポンサーさんからお金もらうよりも、はるかにシンプルで、初歩的な初期のことをやっているんだけれど。批判はすごくあった。でも、よかったのは、矢が刺さりまくって、「いや、何が間違っているんですか」というのを言いまくっているうちに、めちゃくちゃ応援してくれる人が増えた。

絵本『えんとつ町のプペル』を無料公開した背景

又吉:何でそんな先が見通せているの。システムとか含めて、何となくそのときの常識でいうと、今、誰もわかってないみたいなときに、西野くんは何となくわかっていることがあるでしょう? それは感覚?

西野:いや、感覚ではなくて。又吉さんもそうかもしれないですけど、僕はマジで、今でもお客さんと飲みに行くんですよ。業界の人とかではなく、田舎のじいさんばあさんとかと飲みに行く。今日もこのあと、また行くんですけど、そうすると今お客さんが何に困っているとか、今お客さんが何にハマっているとかが一次情報でもらえる。

たとえば、絵本なんかすごくわかりやすくて。『えんとつ町のプペル』という絵本を無料公開したときにもめちゃくちゃ炎上した。けれど、それは、その前に一般のお父さん、お母さんと普通に飲んでいて「僕、ずっと絵本を作っているんですけど全然売れないんですよね」って、どういう絵本を買うんですかというのをリサーチしたんです。

すると「いや、西野さん。絵本は正直、僕たち別にお金に余裕があるわけではないから、まず、博打はしません。当たるか外れるかよくわからない絵本は、まず買いません。なので、中身がわかっているやつしか買いません。だけれど、本屋さんで当たりの絵本を見つけるまで5、6時間も立ち読みはできません。なので、結局、自分が子どものときに買ってもらって面白かった絵本を、自分の子どもに買い与えます。この流れなんです」と言われた。

又吉:売れている本って、ずっと一緒だもんね。たまにレジェンドのところに、新しく何冊か入っていけるみたいな。

西野:そうなったときに、これを要約すると、絵本ってそもそもネタバレがスタートになっている。ネタバレしていないものは、そもそも打席にも立ってないという話。だったら、家の中でも立ち読みができるようにしておいたほうがよくて。

要は洗濯している合間とか、子どもを寝かした合間に時間ができたときに、家の中で立ち読みができるという状況。立ち読みの分母を増やしてしまえば、お父さん、お母さんに優しいなと思って無料公開をしたという。でも、それも思いついたというよりかは、直接お客さんから聞いた。

『ゴミ人間』を読んで、西野くんは土壌を耕している人だと思った

又吉:そういうのを『ゴミ人間』に詳しく書いてくれてたよね。

西野:(読んでいただいて)ありがとうございます。それです……うまくない?(話を)つなぐの(笑)。急にMCして、嫌なんだけど。

又吉:いやいや、してないしてない(笑)。

西野:急に又吉さんが仕事してて、何か今、嫌でした。

又吉:違う違う。俺は『ゴミ人間』を読ませてもらって、いろいろなやり方のことも書いてくれているし、新しいことをやると必ず批判を受けると。それで数年経つと、そのシステムがちゃんと浸透し始めて、批判していた人たちが手のひらを返して、それをやり始めるみたいな。

西野くんはこの本の中で怒りつつ書いてたし、何やったら新しいサービスを世の中に説明するのが西野くんの役割だと思ってるというのはあると思うけど、俺はそれ自体が西野くんの芸のようにも思ったの。要は二番煎じって、1発目より薄くなる。影響力が薄まるから。

でも、1発目を全部取りにいって、批判されて、のちのち証明されたら、批判してた人が少しダサく見える。

西野:確かに。

又吉:そこでちゃんと淘汰されるべき人間を淘汰するシステムも含めてやっていて。しかも芸人は、一番率先して文句を言っていても、数年後、手のひらを返して面白くするのがうまいから、かわいげでみんな生き延びていく。

西野:いける、芸人はね(笑)。

又吉:結局、西野くんはその循環を作って、土壌をすごく耕している人だなと思って。“ゴミ人間”だけど、ちゃんと肥料にして耕している人だというふうに、これを読んで思いました。

西野:ちょっと仕事するのやめません?

又吉:してないしてない(笑)。

西野:酒飲んで熱くなっていたのに、急に名MCが出てきた(笑)。しゃんとしちゃった。

又吉:読んだ印象ね(笑)。そのときは大変だっただろうけど、あとから振り返ったら、ちゃんと土壌を耕している人だなと思った。

ダメ人間が間違ったり迷ったりするところに“人間らしさ”が見える

西野:先ほど又吉さんが来られる前にずっと、又吉さんが書いた『生きとるわ』もそうですけど、いろいろなほかの作品についてスタッフさんとしゃべっていたんですよ。結構、(又吉さんは)ダメ人間を書くじゃない?

たとえば『えんとつ町のプペル』って、ダメ人間というよりは、本当に素直ないい子が出てくるんです。自分の作品には、いわゆる落語の登場人物みたいなのは出てこない。でも、(又吉さんの作品には)出てくるじゃないですか。あれは何なんですか? 好きなんですか?

又吉:好きだし、そういう人が周りにいたのもあるし。西野くんぐらい突き抜けていたらすごく面白いと思うけど、余裕があって、正解を導き出すのがとにかくうまい人って間違わないから、あまり迷わなかったりする。

そうしたら、見ていて安心できるけど、ダメなやつとか弱い人というのは迷いまくるから。そのときに間違う。間違ったら、また追い込まれて、もっと迷って、普段できることもできないようになっていく。そこに人間らしさを見ているというか。

西野:それって、本の中でもちゃんと又吉さんは(そのダメ人間を)愛すじゃない? じゃあプライベートでも、実世界でも、そういう人が周りにいたときに「それも人だな。かわいいな」となる?

又吉:なるけど、直接自分と1発目でそういう人がいたら遠ざける(笑)。でも、西野くんの友達で、すごく厄介なやつがいると聞いたら、「すごく面白いやん、すごくええやん」というのがある。だから、一個挟んでいたら、いてほしい。どこかにはちゃんと生息しておいてほしいけど、自分の近くにはいてほしくない(笑)。

でも、やっぱりいるよ。いるけど、そういうダメを自認しちゃっている人と、よくなろうとしてない人とすごく近くで一緒にいようとは思わない。けど、好きは好きだし、話を聞くのも魅力的だなとは思う。

西野:魅力的だわ。ガッポリ建設さん(お笑いコンビ※2025年12月31日に解散)とか見ていると、キュンキュンくるもん。落語の登場人物じゃん。「うそでしょう?」って。

又吉:絶対に選んではいけない二択のほうを選ぶもんね。あれは魅力やんな。

“ちゃんとしている人”を見落としてはいけない

又吉:俺はそこで「見落としたらいけないな」っていつも思うのが、ちゃんとしている人。ちゃんとしている人はもっと偉いというのを忘れないように気をつけてる。

いろいろなところでこの話をしてるけど、ピストジャム(お笑い芸人)という後輩がいて、そのお父さんがちゃんとお勤めしているすごいまじめな方で。「お世話になっているから」といって、『生きとるわ』を連載してたときに読んでくれていたらしい。(『生きとるわ』には)岡田というやつと横井というダメなやつが出てくるけど、ある日、お父さんからメールが届いて、それを開いたら「岡田も横井も死ね」って書いてて。

西野:(笑)

又吉:俺は、ダメなやつでも生きててほしいという思いも込めて『生きとるわ』というタイトルつけて、ダメなりに生きているってことを書いてたんだけど、(お父さんからしたら)「こんなやつら、許してなるものか」って(笑)。

でも、それはすごく正しい。その視点が抜け落ちた瞬間、全部崩れるから。「ダメなやつを許していきましょう」すぎてもいけないし、ダメはダメだけど、という前提は崩したくない。生徒会長はすごいと、俺はちゃんと思っているし。

西野:あいつはあいつで「偉いぞ、頑張っているぞ」って。

又吉:中学校のとき、俺は生徒会長の子が好きだったから。

西野:いや、知らないよ(笑)。何やのそれ。

又吉:実らなかったけど。

西野:知らんて(笑)。中学時代の恋バナに誰が興味あるの。

「一生懸命に生きたけど、すごくひどいことになってしまった」が愛おしい

西野:後輩の父ちゃんのトラック運転手の話はした?

又吉:いや、聞いてないと思う。

西野:俺、大好きな話があって。後輩の父ちゃんがトラックを運転していて、赤信号だから止まったんだって。そのとき停止線を越えちゃった。すると、お巡りさんが来て「これオーバーしていますよ」「違反ですから降りなさい」と言うのだけど、父ちゃんからすると停止線を越えるって、時々あるじゃんみたいな感じで。

「これぐらい、いいじゃないですか。あなたもしているでしょう?」と言うけど、お巡りさんは「見てしまったからダメだよ」と対応する。「とにかくそれは点数を引かないといけないから、路肩に止めて」みたいに言うんだけど、父ちゃんは応じない。それで、警察が何度も「それはもうダメだ」と注意していたら「わかった。じゃあ後続車を全部チェックしろよ」と父ちゃんがついにキレてしまった。

「停止線を越えた瞬間に全部取り締まれよ」と言うのだけど、お巡りさんからすれば「いや、それは無理です。私はパトロール中で、次に行かなくてはいけない」と言い返す。父ちゃんがついにブチギレて「おまえふざけんなよ。何で俺だけに注意して、ほかの人は許すんだ?」みたいにまくし立てて、お巡りさんをめちゃくちゃ詰めたんだって。

そうしたら、それを見かねて助手席にいた母ちゃんが、ばっと外に出て、間に入って、「いいかげんにしなさい」と怒って、父ちゃんを止めた。お巡りさんに対して「すみません。この人酔っ払ったら、いつもこういうことばっかりしてます」って(笑)。

又吉:すごいな(笑)。

西野:(母ちゃんに)とどめ刺されたっていう、この話がすごく好きで(笑)。登場人物に悪い人がいないじゃん。母ちゃんが一番最低なこと言っているんだけど、一番のとどめを刺すんだけど、一生懸命生きて、すごくひどいことになっちゃった、とかが愛おしくて。最高じゃないですか、この話。

又吉:最高。落語のようでもあるし。

西野:そう。母ちゃんなりに本当に頑張って守ろうと思ったのだけど、すごいとどめ刺してしまうみたいな(笑)。

又吉:何とかしようと思ったのにな(笑)。そのときのお父さんの顔を見たいなあ。どんな顔をしてたのか。

西野:でも、そういうのも面白いですよね。笑ってしまうんですよね。キュンキュンしちゃう。

又吉:でも、お父さん、その状況でよくねばろうとしたな(笑)。

“すごくいいやつ”の話をいつか書いてみたい

西野:そういうの面白いですよね。小説って、そこを、人をすごく描けるからいいね。要は思っていることを書けるじゃん。アニメーションだったら、セリフにしていることしか言語化されてないじゃない。

又吉:引き算していかないといけないもんな。

西野:でも、小説って「こいつはこのようなことを考えてるのかな」とかいうところも、書こうと思えば書けるじゃない? それは面白いですよね。

又吉:『プペル』の中でも出ていたよね。少年たちにいじわるなことを言うやつとか、少年グループの中にも……最後はあれだけど。そういう、いつでも正解を出せるわけではない人もいるからね。

だから、俺はダメで共感されにくい登場人物ばっかり書いているし、自分の芸風とも合っているけど、なんか自分が楽してるのかなと思っていて。すごくちゃんとしている人を主人公にして、面白い話を書いてみたいなと思うんだけど。

西野:面白くなるんですか? ちゃんとしたら。

又吉:わからない。どうなんだろう。ツッコミ要るよな。すごくいいことを言うやつ、「こんなやついるのか」というぐらい純度を保っている人間を、客観的に見ている人。でも、それも結局いじわるな語り手になってしまうもんな。

そいつをいじるかたちになってしまって、それは結局いじわるなやつの物語やもんな。けど、やってみたい、すごくいいやつの話。

西野:いいやつで、本当によこしまな気持ちが全くない人っているじゃない? でも、そいつのせいで、そいつにもう少しよこしまな気持ちとか、もう少ししたたかな気持ちがあったなら、そのプロジェクトはうまくいっていたのに、ピュアすぎてうまくいかない。おまえのせいでうまくいかないってことも、ちょっとあるかもしれない。

又吉:愛おしいけど、歯痒さも感じる人。アホな後輩にもいたなあ。すごくかわいいアホな後輩で、一緒にボウリング行ったときに、俺がストライク出したのを見て、「いいな、俺もそれをやろう」って言ってきて(笑)。

「いや、おまえここまで、どういうモチベーションで投げてたの?」みたいな。そういう気持ちでやっていたんだろうけど、突然思ったんだろうな。

西野:いいですね、そういう人。

又吉:いいなと思う。だって、そういうのは自分では思いつかないもの。自分では言えないから。俺は多分、ボウリングをやるとなったら、店員さんの位置とか確認して、店員さんが見ていないときに投げたりとか、ほかのレーンとのバランスを考えたりとか、一番目立たないときに投げようとか、そのようなことばっかり考えているから。後輩のそういう純度の高い言葉を聞くと、ハッとする。「いいな。そんなの言いたいな」みたいな。

西野くんの人生は自分自身で書いたほうがいい

西野:昔すぎて内容を半分忘れてしまっているけれど、『のぼうの城』の、のぼう様とかはでくの坊じゃないですか。でも、めちゃくちゃピュアで、めちゃくちゃいい人。「大将としてはどうなの?」みたいな感じだけど、最後、すごくそのピュアさが大逆転を起こすみたいな。あのパターンが気持ちいい。映画の『スクール・オブ・ロック』とか。

又吉:あれ、すごく好きだった。

西野:すごく気持ちいい。熱い音楽の「やろうぜ」みたいな感じで、本当によこしまな気持ちが全くない。でも、そいつがいいやつすぎて、熱すぎて、そのせいでうまいこといかなくて。

だけど、最後もう一回、彼がいいやつだったからハッピーエンドのほうにいくという。そのパターンがめちゃくちゃ気持ちいいです。主人公がいいやつで、まっすぐな生徒会長とか。

又吉:でも、わかるよ。生徒会長として、ちゃんと目立ってきて、全力を尽くしてきただけやのに、嫉妬されて文句言われんのつらいよな。大変。

西野:本当に(笑)。つらいよ、西野の人生。おすすめしないで、別に。

又吉:年表にしたら面白いもんな、西野くんの一生。

西野:書いてもらっていいですか?

又吉:いや、絶対に自分で書いたほうがええよ(笑)。

西野:俺が書くんですか(笑)。自分で自分の生徒会長の話を書くんですか。

又吉:そう、自分で(笑)。

『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』は自分の話

又吉:新作がまもなく公開になりますよ。

西野:あれは完全に自分の話ですね。22、3歳ぐらいのときに梶原さんが失踪しました。キングコングというのはデビューが早くて、いろいろなところに出させてもらったけれど、22、3歳のやつがテレビで結果なんか出せないし、引き出しもないし。そうすると全敗で、結局梶原さんが病んでしまって、失踪して。

あれは心身症という病名だったと思うんだけど、とにかく会話もできないぐらいになっちゃって。活動休止が吉本興業のほうからばっと出て、1日でレギュラー番組が8本ぐらいなくなったんですよ。仕事が全部なくなって、大阪のマンションの部屋でぽつんとしてて、2、3カ月経ったけど、梶原さんは戻ってこない。

すると、吉本興業のほうから「梶原はあの感じだし、おまえ、1人でやっていくか」という提案をされて、「一瞬いこうかな」と思ったけど、やっぱり漫才しているとき楽しかったなとか、2人でしゃべっている時間が結構楽しかったなとか。あれがなくなるのは嫌だなと思って。

自分がここで1人でやってうまくいってしまうと、梶原さんが戻ってくる場所がなくなってしまうなと思って、「待ちます」と言ったんですよ。あのときが、自分の人生を振り返っても、一番覚悟を振り絞った瞬間です。帰ってこないかもしれない人を待つって、よっぽどの覚悟じゃないですか。しかも22、3歳の子に、その判断って重すぎる。

又吉:何年かかるかわからないしね。

西野:自分のことだけだったら頑張れるけど、そういうときに相手を信じ抜くって、すごく難易度が高い。今回の映画はその話です。『プペル』の1は自分を信じ抜くだったんですけど、その上位互換が「大切な人を信じ抜く」ということだなと思ったから、2はそっちですね。さらに難易度が高い。相手を信じるのって難しくない?

又吉:難しい。俺が書いている『生きとるわ』という小説は信用しようとしたら、友達にだまされ続けるという話だから(笑)。いや、楽しみにしています。

【作品情報】

映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~

https://poupelle.com/

生きとるわ

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163920603

ゴミ人間 日本中から笑われた夢がある

https://www.kadokawa.co.jp/product/322601000589/

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