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スター建築家が手掛けた、日本の大学キャンパス11

  • 2026.4.7
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大学キャンパスは、教育や研究の拠点であると同時に、多くの人が日常を過ごすひとつの街のような場所。象徴的な講義棟や図書館、学生の交流を生む広場など、建築家の思想が反映された空間は、学生や教職員の日常を支えるだけでなく、その大学の個性を形づくる重要な要素となっている。

本記事では、それぞれの大学でどのようなキャンパスデザインが実現されているのかを紹介。普段はあまり見ることができないその内部を、建築の視点から紐解いていく。


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早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)/東京都

設計:隈研吾

早稲田大学の出身である作家・村上春樹の資料を核に、2021年に開館した「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」。初版本、多言語にわたる翻訳本、執筆関係資料、レコードなどの多様なコレクションを備え、「村上文学」、「国際文学」、「翻訳文学」の研究拠点として、早稲田大学の学生だけでなく、世界中の研究者、読者などに向けて広く公開している。

本施設は、村上春樹が学生時代に通った演劇博物館に隣接する早稲田キャンパス4号館をリノベーションしたもの。設計を手がけた隈研吾は、既存の外壁を白く塗装し、木の流線形の庇を重ねることで、“トンネルの入口”を暗示する演出を施した。

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内部でひときわ印象的なのが、館内を貫く木のトンネル状の空間。既存構造を活かしながら挿入された立体的な構成で、本棚であり通路であり、階段や閲覧スペースとしても機能する。緩やかな曲面が連続する空間は、物語世界へと入り込むような感覚をもたらす。

本棚には、「村上作品とその結び目」をテーマにしたセクションや、国内外の作家、翻訳者、研究者などが選んだ「現在から未来に繋ぎたい世界文学作品」など、多様なジャンルの本が並ぶ。

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従来の図書館機能を超えた多彩な体験ができるのも本施設の魅力。シンポジウムや展示、トークイベントなどを通じて、文学と文化の新たな接点を創出している。

<写真>オーディオルーム。村上春樹が長年集めてきたレコードが並ぶ空間。村上春樹が使用する同種のアンプなどが揃い、作品世界の背景にある音楽体験に触れることができる。

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数々の名作が生まれた、村上春樹の書斎を再現したスペース「村上さんの書斎(写真)」も。書斎の中に入ることはできないが、ガラス越しに創作の気配を間近に感じられる。

本好きはもちろん、建築や空間デザインに関心のある人にとっても、物語と建築が交差する体験が味わえる、貴重な場所といえるだろう。

早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)
東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学早稲田キャンパス4号館

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芝浦工業大学 豊洲キャンパスのカフェ・レストラン/東京都

設計:坂 茂(カフェ、レストラン)

2006年、豊洲の再開発とともに開設された都市型キャンパス。ビジネスと暮らしが交差するこの地において、最先端の研究環境と地域に開かれた空間を両立し、「実学」を軸にした教育・研究の拠点として機能している。2022年には本部棟が新設され、分野を越えた学びを促す「オープンラボ」など、産学官民の連携を視野に入れた先進的な取り組みが展開されている。

キャンパスは開放性を重視して設計されており、学生や教職員に限らず、地域の人々も利用できる施設が充実。研究棟前の大階段にはフラワーガーデンが広がり、上部には子どもたちが遊べる「シバウラキッズパーク」も整備されるなど、日常的に人が集い、滞在する風景がつくられている。

©︎Hiroyuki Hirai

なかでも注目したいのが、本部棟1階に設けられた坂 茂による飲食空間。レストラン「銀座シシリア豊洲店」では、再生紙の紙管を用いて天井や家具、間仕切りを構成し、素材そのものの可能性を引き出した軽やかな空間が広がる。ガラスシャッターを開放すれば外部と連続し、ピロティ全体が開かれた憩いの場へと変化するのも特徴だ。

©︎Hiroyuki Hirai

一方、カフェ「SIT Global Caffe empowered by Segafredo」では、新たに開発された白ブナ材の合板を用い、天井や家具を一体的にデザイン。素材や構造の工夫から空間を立ち上げるという、坂の建築思想が体感できる。コーヒーや軽食を楽しみながら、学生や地域の人々が自然に交わる場となっている。

芝浦工業大学 豊洲キャンパス

東京都江東区豊洲3-7-5

提供:内藤廣建築設計事務所

多摩美術大学 上野毛キャンパス新棟/東京都

設計:内藤廣

都心からほど近く、緑豊かな住宅地に隣接する「多摩美術大学」の上野毛キャンパス。2026年度より新たに使用が開始される新棟は、創立90周年の節目にあわせて計画された。設計を手掛けたのは、同大学学長でもある内藤廣。本プロジェクトの根底にあるのは、理事長が内藤に託した「雨露を凌ぎ、凍てることなく鉛筆が持て、熱中症の心配なく、友と師とふれ合い、競い合い、絆を結ぶことのできる清朗な覆いさえあればいい」という言葉だった。

提供:内藤廣建築設計事務所

その思想を体現するように、本部棟は簡素な仕上げとしながらも天井高にゆとりを持たせ、将来的な用途変更にも対応できる柔軟な空間として設計されている。建物の周囲にはバルコニーが巡らされ、内部に広がりをもたらすと同時に、避難動線としての機能も担う。

提供:内藤廣建築設計事務所

環状八号線に面した本部棟の1階には、ギャラリー「サーラブルゥ」を配置。約6mの天井高をもつ大空間は、可動パネルによって多様に使い分けることができ、学生の制作やプロジェクトを発信する“ショーケース”として機能する。地域にも開かれた設えとすることで、大学と街との接点を生み出している。

2階から4階には、平面・立体・映像といった幅広い表現に対応する教室やスタジオを配置。自然光の取り込みや動線計画にも配慮され、制作に集中できる環境が整えられている。最上階の5階には交流テラス「サブチェロ」を設け、中庭を望む開放的な場として、学科や領域を越えたコミュニケーションを促す。

提供:内藤廣建築設計事務所

象徴的なのが、「オクルスホール」と名付けられた講堂。ドーム状の空間の頂部に設けられたトップライトから柔らかな光が差し込み、内部はルーバー状の木材で仕上げている。また、演劇や音楽など多様な表現に対応できる音響環境を備えている。外に開かれたギャラリーとは対照的に、包み込まれるような内向きの空間が、創造のためのもうひとつの場を形づくっている。

多摩美術大学 上野毛キャンパス
東京都世田谷区上野毛3-15-34



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多摩美術大学 図書館(八王子キャンパス)/東京都

設計:伊東豊雄

多摩丘陵の豊かな緑に囲まれた八王子キャンパスの一角に建つ図書館は、同大学の客員教授も務める伊東豊雄による設計。2007年に竣工したこの建築は、正門から続く緩やかなスロープをそのまま内部へと引き込み、キャンパスの動線と一体化するように計画されている。

特徴的なのは、連続するコンクリートアーチと曲面ガラスによって構成された外観だ。湾曲する構造体は視線をやわらかく導き、アーチ越しに周囲の樹木や光を取り込むことで、内外が緩やかにつながる開放的な空間を生み出している。バス停に隣接する配置も相まって、ここは単なる図書館にとどまらず、学科や専攻を超えた交流のハブとして機能する。

<写真>周辺に大きな広葉樹があるのは、建物に当たる西日を和らげるため。すべての窓ガラスには飛散防止を兼ねた紫外線反射フィルムが施されており、紫外線による日焼けから書籍を守っている。

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1階には、映像や新刊雑誌のためのスペースとオフィス、そして「アーケードギャラリー」が広がる。このフロアの半分を占めるアーケードギャラリーは、アーチをくぐりながらそのまま建物の反対側に抜けることのできるスペースとなっており、気軽に立ち寄ることができるような軽やかさが印象的だ。

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一方、2階はカーペット敷きの静かな閲覧空間が中心となり、美術・デザイン・建築分野を軸にした約22万冊の蔵書を収める。窓際の席では、手が届きそうな距離に木々の葉が迫り、まるで樹上で読書しているかのような感覚を味わえる。

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また、構造面においても独自性が際立つ。コンクリートのアーチ内部には鉄板が組み込まれ、地下には免震装置を設置。大規模地震時には建物全体がゆっくりとスライドすることで揺れを吸収し、大量の美術書を抱える書架の安全性を確保している。

ユニークな造形が際立つ一方で、日常的な使いやすさや居心地のよさ、さらには安全性にまで細やかな配慮が行き届いている点も、この図書館の大きな魅力だ。見学を希望する場合は、大学の公式案内を事前に確認しておこう。

多摩美術大学 八王子図書館

東京都八王子市鑓水2-1723


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武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス/東京都

設計:芦原義信(マスタープラン)、藤本壮介(図書館・美術館)、長坂常(16号館)

東京都小平市に位置する「武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス」は、1960年代以降、同大学の建築学科の初代主任教授も務めた芦原義信の主導によって段階的に整備された。

正門から中央広場、さらに美術館・図書館へと至る明快な軸線は、このキャンパスの骨格をなすもの。1号館のピロティをくぐることで一度視界が圧縮され、その先で一気に広場が開ける構成は、光と影のコントラストを強く意識したものだ。路地から広場へと抜けるヨーロッパの都市空間を思わせる体験が、日常の動線の中に組み込まれている。

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キャンパス内には、中央広場を囲むように配置された4号館(写真左側)や7号館(写真右側)、美術館(写真中央)など、多様な建築群が点在。打放しコンクリートの力強い表現や、壁面に施された矢羽根状のレリーフ、スプリット・フロアによる立体的な空間構成など、芦原建築の特徴が随所に見られる。

各棟に明確な「玄関」を設けず、教室からそのまま外部へと連続する計画は、“外部空間まで含めて設計する”という思想を体現したもの。

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2010年には、藤本壮介による図書館が誕生。“書物の森”をコンセプトに、外壁から内部へと連続する本棚が空間を包み込み、約32万冊の蔵書を収める。ハーフミラーの外装に周囲の緑が映り込むことで、建築と自然が溶け合うような風景をつくり出している。

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館内では、多様な過ごし方に応えるよう、大階段や個人ブース、大きなテーブルなどが点在し、名作椅子も随所に配置されている。森の中を歩くように空間を巡りながら思い思いの場所を見つけ、腰を下ろして書籍に向き合えるのも魅力だ。映像ライブラリーや美術館も隣接しており、制作やリサーチの合間にも、必要な資料やインスピレーションにすぐアクセスできる環境が整っている。

さらに2021年には、スキーマ建築計画の長坂常により16号館が竣工。制作や実験に応じて柔軟に使えるスタジオや工房を備え、“完成されすぎていない建築”として、学生自身が空間を更新していく余白を残した設計が特徴だ。

モダニズム建築と現代の建築が入り混じる、建築的にも見どころの多い「武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス」。美術館での企画展や学祭をきっかけにぜひ訪れてみてほしい。

<写真>放射状に広がるカテゴリー別のサイン。デザインは佐藤卓が手掛けた。

武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス

東京都小平市小川町1-736

提供:東京造形大学

東京造形大学/東京都

設計:磯崎新

1966年、服飾デザイナーの桑澤洋子によって創設された「東京造形大学」。そのキャンパスは1993年、八王子市宇津貫の地へと全面移転した。移転計画にあたり、当時の学長・豊口協が掲げたのは、「キャンパス全体をひとつのクリエイティブな空間として成立させる」という構想。その実現に向け、指名コンペによって5人の設計者が選定され、磯崎新の案が採用された。

磯崎が提示したのは、「逆転」というコンセプトに基づくキャンパス計画。通常は丘の上に建築を集中させるプランが考えられるが、磯崎は武蔵野の自然を残しながら、建築群を谷へと沈み込ませるように配置。ランドスケープと建築の関係を反転させることで、周辺環境と緩やかに連続する空間を生み出した。

<写真>下部がアーチ状になった1号館は門の役割も果たしている。

提供:東京造形大学

アーチ状のゲートをくぐると、外部からは想像できない内向きの広場が現れる。建築群に囲まれたこの空間は、学生たちの活動を受け止める場として機能し、日常的な交流や制作の気配が自然とにじみ出る場所となっている。多様な形や色が採用されているのは、構造や素材、ディテールに至るまで、建築のあり方そのものが教材として機能するようにという思いから。

<写真>奥に見えるのが、白井晟一の設計原案に基づいて建てられた「東京造形大学附属美術館 (横山記念マンズー美術館)」。

提供:東京造形大学(1993年竣工時)

通常は周縁に配置されがちな体育館をデザイン棟の中心に据えることで、建物内部に人の動きと賑わいを引き込む構成とした点も特徴的だ。

また、学生が制作を行うスペースでは、学生自身が使い方を組み立てていくための実験的な場として計画。固定された空間ではなく、創作行為に応じて変化する環境そのものが、学びの一部として位置づけられている。

提供:東京造形大学

磯崎新が構想した宇津貫キャンパスは、その後約30年のあいだに12号館や10号館(CS PLAZA)、13号館などが増築され、時代に応じて更新を重ねてきた。完成形として固定されるのではなく、変化を受け入れながら発展していく姿そのものが、このキャンパスの思想を体現しているといえる。

<写真>全学生に解放されている「9号館 CS-Lab」。専攻領域を超えて、学生たちが交流する拠点となっている。(写真は学食として使用されていた当時の様子)

東京造形大学
東京都八王子市宇津貫町1556

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慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス/神奈川県

設計:槇文彦

「慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)」は、1990年に開設された慶應義塾大学の主要キャンパスのひとつ。全体計画と主要建築を手掛けたのは槇文彦。何もない土地から構想された本キャンパスは、建築同士の関係性によって全体の環境を形づくる「群造形(Group form)」という槇の思想を大規模に体現した代表作として知られている。

<写真>キャンパス全景。中心部を環状に囲む「ループ道路」が、各建物をゆるやかにつなぎながらオープンスペースとしても機能し、敷地全体に回遊性をもたらしている。

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設計のキーワードとなったのは、「中心と周縁」「隠れ家と眺望」。キャンパス中央には大階段が設けられ、その先に主要施設が集約される一方、外周にはループ状の道路が巡り、内と外をゆるやかに分節する。階段脇に流れるカスケード(人工滝)や、点在する広場、あえて視線の中心から外された開口部などが、空間に多層的なリズムを与えている。

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また、日本の都市空間に見られる「奥」の感覚を取り入れ、あえて直線的に進ませず、道や建物、植栽によって人の動線をジグザグに導く設計も印象的だ。

狭い路地のようなスケールから、視界が一気に開ける広場へと移ろう体験は、歩くごとに異なる表情を見せる。主要な4つの軸線に立てば、遠くまで見通せる伸びやかな景観も楽しめるだろう。

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建築のバリエーションも豊かで、κ館、ε館、ι館、ο館にはル・コルビュジエの「サヴォア邸」を思わせる軽やかな造形が見られるほか、M館4階には槇の思想に触れられる「槇文彦ルーム」も設置。道路を挟んだ向かいには、谷口吉生による「湘南藤沢中高等部校舎」も建ち、エリア全体で建築的な広がりを見せている。訪れる機会があれば、ぜひキャンパス内を歩きながら、その空間構成を体感してみてほしい。

慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス

神奈川県藤沢市遠藤5322

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甲南女子大学/兵庫県

設計:村野藤吾

「甲南女子大学」のキャンパスは、村野藤吾が1964年の開学当初から設計と配置計画を一貫して手掛けた、モダニズム建築の傑作として知られる。六甲の傾斜地を生かした計画により、白亜の校舎群は段状に配置され、神戸の海を望む風景と一体化。高低差や借景を巧みに取り込みながら、各建物が個性を放ちつつも、全体として調和のとれた景観を形成している。

数多くの建築を手掛けた村野の作品のなかでも、建物単体ではなく建築群としてまとまった形で現存している例は貴重だ。2019年には管理棟・3号館・渡廊下が登録有形文化財に登録され、その建築的価値の高さが改めて評価された。

<写真>キャンパスの顔となる管理棟。直線を基調とした端正な構成でありながら、手作業で仕上げられたモルタル外壁によってやわらかな質感を宿す。

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建物の四方に配された円塔が曲線的なアクセントを与える「阿部記念図書館」。村野は「教育にはゆとりが必要」との考えから、床面積を抑えてでも吹き抜けの空間を確保したとされる。

<写真>上部の横長方形の飾り窓は、他の建物にも共通する意匠。

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円塔内部には螺旋階段が設けられ、空間体験そのものを重視した設計となっている。蔵書は、古典籍から漫画まで約50万冊におよび、2階の閲覧室には三層吹き抜けの開放的な空間が広がる。

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学園創立70周年を記念して建てられた「芦原講堂」は、曲線を取り入れた造形が印象的な建築。内部にはパイプオルガンを備えた荘厳な空間が広がり、音響性と造形美が高い次元で融合している。リズミカルに波打つ砂岩貼りの壁面は貝殻を思わせる表情を見せる。照明や華奢で優雅な手すりなど、細部にまで配慮された設計も見どころだ。

こうした計算された全体設計と豊かな空間体験は、現在の在校生からの評価も高い。日常のなかで自然と建築に触れ、空間の質を体感できる環境そのものが、このキャンパスの大きな魅力となっている。

甲南女子大学

兵庫県神戸市東灘区森北町6-2-23

※キャンパスは基本的には非公開。イベント時や建築関係者からの見学希望に関してはこの限りではない。

photo by Shigeo Ogawa

IPU・環太平洋大学/岡山県

設計:安藤忠雄

岡山市の田園風景の中に広がるIPU・環太平洋大学は、「教育とスポーツの融合」を理念に2007年に開学。そのキャンパスは、2010年から2019年にかけて安藤忠雄の手によって段階的に設計され、スポーツ施設やカフェなど機能の異なる5つの学舎がつくられた。

特徴的なのは、あらかじめ完成形を定めるのではなく、建設のプロセスの中で教員や学生との対話を重ねながら空間を更新していくアプローチにある。複数の学舎を、個性ある木々が集まって森を形づくるように配置する「学びの森」という構想のもと、キャンパス全体が有機的に成長してきた。

photo by Shigeo Ogawa

その中心的存在となるのが、2010年に完成した体育施設「TOPGUN」だ。南北に延びるメインストリートと直交するように配置され、キャンパスの軸線を象徴するゲートの役割を担う。屋上は大階段状の広場として開放され、建物そのものがトレーニングの場となる構成が特徴的だ。内部には道場やジムなどが配され、内外をつなぐ階段を介して多層的に連続する空間が、身体的な活動を誘発する。

<写真>「TOPGUN」は、安藤が一番最初に手掛けた施設。

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最新鋭のスポーツ機器・設備を備える「INSPIRE」は、トップアスリートやトレーナーの育成を科学的に支える研究拠点。軽やかな鉄骨のV字柱が連続する構造によって大屋根を支え、スピード感のあるダイナミックな空間を生み出している。

<写真>「INSPIRE」の屋内外にまたがる陸上トラック。「TOPGUN」と呼応する、スピード感のあるファサード。

photo by Shigeo Ogawa

5つ目の学舎として計画された「DISCOVERY」は、プレゼン力やディベート力など「非認知能力」を育成するための拠点。大屋根の下に短形と楕円のボリュームを配置し、その間に光や風が通り抜ける余白を設けることで、学生同士や教員との自然な対話が生まれる環境を整えている。水盤に映り込む建築の姿も印象的で、空間体験に奥行きを与えている。

ダイナミックな建築群を横断しながら、身体的な活動と知的な学びの双方に働きかけるこのキャンパス。環境そのものを学びの装置として取り込みながら、独自の教育空間をかたちづくっている。

<写真>「DISCOVERY」。水盤の上を渡る、アイコニックなアプローチ。

IPU・環太平洋大学

岡山県岡山市東区瀬戸町観音寺721

提供:広島大学広報室

広島大学 中央図書館/広島県

設計:丹下健三

広大な敷地をもつ「広島大学」の東広島キャンパス。その中心に位置する中央図書館は、1995年、東広島への統合移転に伴い、分散していた蔵書を集約する拠点として整備された。本建築は、丹下健三の知られざる作品の一つでもある。

外観では、大胆に張り出したボリュームが印象的で、水平性を強調した構成と広場を取り込む配置によって、建築と周囲の空間が一体化しているように見える。

提供:広島大学広報室

地上3階・地下2階からなる館内には大きな吹き抜けが設けられ、各フロアがゆるやかにつながることで、どこにいても人の気配を感じられる。閲覧の場としてだけでなく、グループ学習や思索の場としても機能する、現代的な学びの環境が整えられている。

丹下は学生時代、旧制広島高等学校(現・広島大学)に在学中に触れたル・コルビュジエの建築思想に影響を受け、建築家を志した人物でもある。

その原点の地において設計されたこの図書館は、単なる教育施設にとどまらず、広島という土地との個人的な記憶とも重なる存在となっている。

広島大学 中央図書館
広島県東広島市鏡山広島県東広島市鏡山1-2-2


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九州大学 伊都キャンパス 椎木講堂/福岡県

設計:内藤廣

九州大学の伊都キャンパスにある「椎木講堂」は、創立100周年を記念して2014年に竣工した。入学式や学位記授与式といった全学的な行事の場であると同時に、日常的に学生や教職員、市民にも開かれた交流の場として機能する。

設計を手掛けたのは内藤廣。直径約100mの円形平面をもつこの建築は、最大約3000人を収容する講堂と本部棟から構成され、その間には半屋外の大空間「ガレリア」が設けられている。

<写真>外観には、かつての旧工学部本館の外壁タイルの意匠が継承されている。

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講堂内部は、すり鉢状の円形劇場のような構成が採用されているのが特徴だ。約3000人が一堂に会しながらも、舞台との距離を感じさせない密度の高い空間体験を実現。さらに可動式の間仕切りによって、約1000人規模のホールや複数の階段教室へと転換できる柔軟性を備え、式典から講義、学会、コンサートまで多様な用途に対応する。

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建物全体を貫くガレリアは、半円状に広がる大規模な半外部空間であり、キャンパスの動線をつなぐ結節点として計画された。大きな庇のもとに人々が集い、滞在することで、建築と日常の活動がゆるやかに交差する風景が生まれている。

九州大学 伊都キャンパス

福岡県福岡市西区元岡744


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