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腐った世界を怪物と花嫁がぶっ壊す!痛快ロマンススリラー『ザ・ブライド!』の高濃度なエンタメ性と力強いメッセージ

  • 2026.4.1

『クレイジー・ハート』(09)でアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされ、監督デビュー作で脚本も手掛けた『ロスト・ドーター』(21)ではアカデミー賞脚色賞の候補にも挙がったマギー・ギレンホール。多才な彼女が再び監督と脚本を務めたのが、4月3日(金)に公開されるロマンススリラー『ザ・ブライド!』だ。メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」を基にした映画『フランケンシュタインの花嫁』(35)にインスパイアされたという物語は、主眼を怪物ではなく、花嫁に置くことでいま作られるべきフェミニズム映画として着地。原作者メアリー・シェリーと花嫁を一人二役で演じるオスカー女優ジェシー・バックリーら俳優陣の熱演、同時にゴシックホラー、ブラックコメディ、ミュージカルといった様々な要素を兼ね備えた本作の魅力をイラストと共に紹介する。

【写真を見る】ブライドとフランクの行動が多くの女性たちを奮い立たせるなど、フェミニズムのメッセージがこめられた『ザ・ブライド!』

あの世から語りかける作家メアリー・シェリー(バックリー)が1930年代のシカゴに住む女性アイダ(バックリーの二役)に憑依。その後アイダは闇社会のボス、ルピーノに目を付けられ、手下によって殺されてしまう。一方、科学者フランケンシュタインが創り出した怪物は自らをフランク(クリスチャン・ベール)と名乗り、蘇生の研究家であるユーフォロニウス博士(アネット・ベニング)に伴侶が欲しいと懇願。博士は死んだアイダを墓から掘り起こし、フランクの花嫁“ブライド”として蘇らせるのだが…。

メアリー・シェリーの報われない魂から伝わるフェミニズムのメッセージ

メアリー・シェリーの魂が憑依した“ブライド”が覚醒! イラスト/チヤキ
メアリー・シェリーの魂が憑依した“ブライド”が覚醒! イラスト/チヤキ

ジェームズ・ホエールが監督した『フランケンシュタイン』(31)の続編『フランケンシュタインの花嫁』は、怪物が花嫁を求めるというヒューマニズムとセクシュアリティに言及した当時としては画期的な、だからこそいまも語り継がれる不朽の名作として独特の光を放っている。本作がユニークなのはブライドが主役として終始圧倒的な存在感を発揮している点だ。

ジェシー・バックリー扮するヒロインは、まず、原作者メアリー・シェリーとしてモノクロのクローズアップで画面に登場し、怒りに満ちた悪魔のように物語の始まりを宣言。以降は、1930年代のシカゴに暮らす女性アイダに取り憑いたメアリーの魂が、アイダを支配し、時に離脱しながら、花嫁を求めていたフランケンシュタイン改めフランクを相棒にして、欲望と差別が渦巻く魔界都市、シカゴを疾走していく。

【写真を見る】ブライドとフランクの行動が多くの女性たちを奮い立たせるなど、フェミニズムのメッセージがこめられた『ザ・ブライド!』 イラスト/チヤキ
【写真を見る】ブライドとフランクの行動が多くの女性たちを奮い立たせるなど、フェミニズムのメッセージがこめられた『ザ・ブライド!』 イラスト/チヤキ

そもそも、シェリーの原作「フランケンシュタイン」に登場する女性たちは皆、男性社会の無力な犠牲者として描かれていて、そこにシェリーのフェミニズムの教義が示されているのだが、彼女のメッセージはまるで評価されないまま、53歳の若さで病に倒れ、他界した。物語の起点となるシェリーの怒りの本質をそのように理解すると、彼女の無念さがアイダにある意味引き継がれる形で、本作『ザ・ブライド!』の物語が構成されていることに納得が行くはず。思えば、ギレンホールは前作『ロスト・ドーター』でも、母親としての使命を全うできなかった主人公の後悔と怒りにフォーカスしていた。彼女にとってこの最新作は映画作家としての方向性をより明確にした作品と考えて間違いないと思う。

一方、クリスチャン・ベールが演じるフランクはブライドとは真逆で、孤独に打ちひしがれた怪物として画面に現れる。ブライドに寄り添い、迫り来る危険にも敏感に反応する繊細さは、タイミング的にどうしてもギレルモ・デル・トロの『フランケンシュタイン』(25)でモンスターを演じたジェイコブ・エロルディと比較してしまう。でも、感情を抑制し、いつもためらいがちで、ツギハギだらけの顔とは対照的に柔らかな雰囲気を漂わせるベールの造形は、むしろ、ホエールが監督した『フランケンシュタイン』で怪物を演じたレジェンド、ボリス・カーロフに近い気がする。派手なヘアスタイルと不気味なメイク、カラフルな衣装で登場するブライドとフランクを視覚的に比較すると、さらに、ギレンホールが意図した女性主導のテーマが浮かび上がる仕掛けだ。

シカゴからニューヨークへと向かうブライドとフランク [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
シカゴからニューヨークへと向かうブライドとフランク [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ゴシックホラーや逃走劇、さらにミュージカルの要素もあるエンタメ映画

映画館で幸せな時間を過ごすフランクとブライド イラスト/チヤキ
映画館で幸せな時間を過ごすフランクとブライド イラスト/チヤキ

本作には多種多彩なジャンル映画の要素が混在していて、観客に広い間口を用意している。クラブでダンスを楽しんだ後、フランクがブライドに襲いかかってきた男たちを殺したことから始まる、逃走者となった2人の道行きは、まるで『俺たちに明日はない』(67)のボニーとクライドのようだ。犯罪を積み重ねて行く傍若無人ぶりから『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(94)のミッキーとマロリーを連想する人がいるかもしれない。要は、走り続ける逃亡劇の要素だ。

銀幕のスターを演じたジェイク・ギレンホール [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
銀幕のスターを演じたジェイク・ギレンホール [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

また、フランクが憧れる“マチネーアイドル”ロニー・リード(ジェイク・ギレンホール)の主演作を観るため、ブライドを伴い映画館を訪れるシーンでは、スクリーン上のギレンホールがフレッド・アステアを思わせる優雅なステップを披露。そこから、古き良きハリウッドへのオマージュを感じ取ることもできるし、ニューヨークのパーティ会場でフランクとブライドがリズムを刻んで踊り回る場面は、さながらミュージカル映画、またはロックオペラのノリだ。ちなみに、パーティシーンで流れるのはジャズの名曲「踊るリッツの夜(Puttin’ on the Ritz)」。フランクは踊りながら曲のタイトルを叫んでいるが、それは、メル・ブルックス監督の『ヤング・フランケンシュタイン』(74)の劇中でジーン・ワイルダー(フランケンシュタイン博士)とピーター・ボイル(モンスター)も同じように曲のタイトルを叫んだのとリンクしている。音楽にも密かなオマージュが隠れているのだ。

オスカー俳優ジェシー・バックリー&クリスチャン・ベールをはじめとした豪華キャストのアンサンブル

ゴシックホラーやミュージカルといった様々なジャンルが楽しめる『ザ・ブライド!』 イラスト/チヤキ
ゴシックホラーやミュージカルといった様々なジャンルが楽しめる『ザ・ブライド!』 イラスト/チヤキ

アカデミー賞でも話題のキャスティングの魅力にも触れておこう。まず、なんと言ってもシェリーとブライドの二役に扮して物語を果敢に牽引するジェシー・バックリーだ。シェリーが憑依した時の激しい取り憑かれ演技、また、パーティに出席している男どもを虐待者と激しく非難し、警官を殺害し、フランクを伴い盗んだ車を転がして街を脱出する、その間の疾走感は半端ない。アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ハムネット』(25)と同じく、観念ではなく、感覚で役柄を捉えて演技で具現化できるバックリーならではの役作りがここにはある。

ピーター・サースガードとペネロペ・クルス演じる刑事コンビがブライドたちを追跡する [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
ピーター・サースガードとペネロペ・クルス演じる刑事コンビがブライドたちを追跡する [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

それをいなして受けるクリスチャン・ベールを筆頭に、燕尾服姿が板についているジェイク・ギレンホール(言わずと知れたマギーの実弟)、フランクとブライドを追跡する刑事ワイルズ役のピーター・サースガード、ワイルズの助手マロイに扮したペネロペ・クルス(ベレー帽とチェックのスーツがブライドの装いとは対照的)、そして、フランケンシュタイン博士を女性に置き換えたようなユーフォロニウス役のアネット・ベニングと、配役も豪華絢爛。映画ファンは「こんな人がここに!?」と驚きつつ、配役の狙いを感じ取って楽しみを倍増させるに違いない。

1930年代のシカゴを蘇らせたプロダクション・デザインと象徴的なコスチューム

1930年代アメリカをセットで再現 [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. [c]Niko Tavernise
1930年代アメリカをセットで再現 [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. [c]Niko Tavernise

豪華絢爛と言えば、1930年代のシカゴを画面に再現したプロダクション・デザインとコスチュームだ。スチームパンク風(ヴィクトリア朝時代に極まった蒸気機関に準えたレトロフューチャーな世界観)のセットを監督の依頼どおりに設営したのは、バズ・ラーマンの『エルヴィス』(22)で1950年代のロックシーンを蘇らせたプロダクション・デザイナーのカレン・マーフィだ。彼女のセンスなくて、ギレンホールはこれほどまで大胆に狂気じみた世界を映像化できなかったと思うし、それは、コスチューム・デザインを担当したオスカーコレクター(これまで3回受賞)、サンディ・パウエルにも言えること。

特に、今回パウエルがブライドのために用意したオレンジ色のガウンは、逆立ったヘアと黒い墨がリップからほっぺたまで飛び出した奇抜なヘアメイクと共に、映画のイメージショットとして見終わっても脳裏から離れない。特に、劇中でライトアップされた時のオレンジは印象深く、改めて衣装がどれほど映画の価値を決めるか再認識させられる。

衣装を手掛けたのは『アビエイター』(04)などでアカデミー賞衣装デザイン賞に3度輝くサンディ・パウエル [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
衣装を手掛けたのは『アビエイター』(04)などでアカデミー賞衣装デザイン賞に3度輝くサンディ・パウエル [c]2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

このほか、IMAXカメラで撮影された本作では一部のIMAXシアターでアスペクト比1.43:1にフレームが拡大するという唯一無二の劇場体験ができるお楽しみも!ブライドとフランクの“愛と破壊の逃避行”の行く末を大きなスクリーンで目撃してほしい。

文/清藤秀人

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