1. トップ
  2. 【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは

【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは

  • 2026.3.23

【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

残り2週にしてついに『怪談』を書くターンに

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と、その妻・小泉セツをモデルとした作品である。当初、これが発表されたときは、数々の八雲が残した『怪談』が、どのように朝ドラの世界に盛り込まれていくのかと、幼いころからオカルト好きだった自分としてはそういった側面からもワクワクしていた。

蝋燭がともされる中、ヒロインのトキ(髙石あかり)が『耳なし芳一』をヘブン(トミー・バストウ)に語り聞かせ、ヘブンが「スバラシ」「アリガトウ」と目を輝かせる第1話の冒頭を見たときには、こういった雰囲気で半年を展開していくのかと期待値が大いに高まった。トキが母のフミ(池脇千鶴)に聞かされる怪談が大好きで、嫌なことがあったら怪談の世界にこもるという設定も、この先何かの局面のたびに怪談が絡むのかと思わせられた。

だが、実際にはそういった描写はその後ほぼ登場しないまま物語は進行していった。かつて、『ちりとてちん』で、さまざまな古典落語を各週の題材としてその内容を寸劇風に見せ、本筋のストーリーと落語の内容をうまく絡ませていったように、『耳なし芳一』『むじな』『ろくろ首』といったハーンの『怪談』をどう盛り込んでいってくれるのかとも期待していた。

この連載でも何度か触れてきたが、この『ばけばけ』は、「何も起こらない」物語を描いていくというコンセプトが掲げられてきた。昭和の時代から、実在する人物をモデルにしたもの、完全なフィクション、いずれにせよ「何かを成し遂げた」女性の一代記が描かれることが多かった。または『ゲゲゲの女房』(第82作)や『まんぷく』(第99作)、『あんぱん』(第112作)といった、「何かを成し遂げた」よく知られた人物の妻をヒロインとして描いたものだ。

ハーンの『怪談』は、実質的にハーンとセツの共同作品のような性質を持つゆえに、『ばけばけ』は『怪談』を二人でつくりあげていくさまがどう描かれていくのかといったものがもっと見られるものだと思っていた。

もちろん、「何も起こらない」朝ドラ、ヒロインが何者でもない朝ドラだって何作も存在する。たとえば有村架純をヒロインとした『ひよっこ』(第96作)や、橋本環奈ヒロインの『おむすび』(第111作)あたりはそうかもしれない。しかし、モデルは世界中で現在も親しまれる『怪談/Kwaidan』を届けた夫婦である。個性豊かな登場人物たちが織りなすストーリーを楽しみながらも、どこかには「いつ怪談を書くんだ?」ということを気にしながらの視聴であったこともまた確かだ。

さて第24週のサブタイトルは、「カイダン、カク、シマス。」。サブタイトルで言ってくれている通り、残り2週にしてついに『怪談』を書くターンに突入した。物語の前半、来日したヘブンが『スバラシ』と感動していたように、前半の舞台になった宍道湖や神社の風景などの松江の風景は、ヘブンの言葉通り素晴らしいものがあった。

とはいえ実際のハーンは、熊本をはじめ、神戸や終焉の地となった東京など、さまざまな土地を移り住んでいるものの、神戸期間がまるごとカットされ、今週冒頭に時間が経過して東京に移り住んでおり、子供たちに恵まれ、勘右衛門(小日向文世)は他界しているなど一気に時間が経過していたスピード感には驚いた。

帝大もクビになり、「オワリニンゲン」となる

サブタイトル通り、内容としてはヘブンが怪談に取り掛かる展開となるわけだが、その創作意欲以前に、ヘブンの内面の葛藤やつまずきのようなものが深く描かれているところも本作らしいスポットの当て方だ。帝大で教壇に立つものの、53歳の今も決して「書く、人」になれているとはいえない状況の葛藤は、異人であることの孤独とともに、ヘブンもまたどこかまだ「何者でもない」存在であるのかと思えるところが印象的だ。

そんな帝大もクビになり、「オワリニンゲン」となる。そこに寄り添うような存在というか、理解者のような存在となるのが妻のトキや、リテラシーアシスタントとして長く支えた錦織(吉沢亮)でもなく、「わしと同じ匂いがする」と、巨額の借金を抱え、松野家をどん底に叩き落とした張本人となった朝ドラ名物(?)ダメ親父の司之介(岡部たかし)だったところこそが、このドラマらしい展開だ。

とはいえ、司之介は共感ができるだけの存在であり、実際にヘブンを救うのは、やはりトキである。そういったところにこれまでのストーリーで、「何も起こらない」中でじっくりとつくりあげてきたキャラクターづくりのうまさを感じる。ヘブンが隠してきた現状を知っても、執筆に集中できるではないかと朝ドラヒロインらしいポジティブさで励ます。錦織からリテラシーアシスタントとしてのバトンを受け取ったトキが、ヘブンを導く言葉、それが、「私、読めるの話、書いてくれませんか」だった。

司之介の借金問題もあり、小学校もまともに通うことができなかったトキにとって、ヘブンが送り出した『日本滞在記』などは難しい内容、夫が何を書いているのかは本質的に理解できていなかった。
「ずっと読みたかった、パパさんのホン。だけん、学がない私でも読めるの本、楽しいの本、書いてくれませんか」

トキの本音が、「オワリニンゲン」と卑屈になるヘブンに力を与える。二人の結論は、そう、『怪談』である。リテラシーアシスタント・トキは、これまで母から聞かされた怪談をはじめ、さまざまな怪談を集めてきてヘブンに提供、こうして『怪談』は、世に送り出された。

『怪談』制作に取り掛かってから、次々に新たな怪談が通り過ぎていくさまは、ダイジェストを見ているかのようなスピード感ではあったが、ようやく「成し遂げた」ことは、やはりほっとする。

予告で流れた描写から、せつなくもまた美しい幕引きが待っていそうだが、この「何も起こらない」物語が、結果的に何かを残してくれたことを期待して最終週を待ちたい。

元記事で読む
の記事をもっとみる