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【インタビュー】クロエ・ジャオの最新作『ハムネット』、シェイクスピアの妻を通して描く「人間らしく生きる」ことの意味とは?

  • 2026.3.29

クロエ・ジャオ/映画監督・脚本家

Chloé Zhao/クロエ・ジャオ1982年、中国・北京生まれ。15歳で渡英、寄宿学校を卒業後、ロサンゼルスに移住。マウント・ホリヨーク大学、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・アーツで学ぶ。長編3作目の『ノマドランド』(2020年)で第93回アカデミー賞作品賞・監督賞を受賞。

現代において女性が、人間が、どのように生きるかを問い直す。

『ノマドランド』(2020年)でアジア系女性監督として初めてアカデミー賞監督賞および作品賞を受賞する快挙を成し遂げたクロエ・ジャオ。ハリウッド大作『エターナルズ』(21年)を経て撮った最新作『ハムネット』は、ジャオの映画作家としての大器を再認識させる傑作である。

本作は16世紀の戯曲家ウィリアム・シェイクスピアが愛息を失った後、その喪失を『ハムレット』という作品に昇華させるまでを描いた人間ドラマだ。

「正直、『ハムレット』に関しては詳しくありませんでした。復讐劇として語られていたので、とても男性的に感じられてあまり惹かれませんでした。でもいまは、まったく違う見方をしています」

視点を刷新したのは、この映画の原作である英国の作家マギー・オファーレルの小説『ハムネット』に出合ったからだ。シェイクスピアの妻アグネス・ハサウェイの視点から描かれた本作は"悪妻"のイメージを払拭するばかりか、自然と共生するこの女性主人公を通して、生命を宿す存在としての女性を肯定する。ジェシー・バックリーが体現する、森の中での出産シーンはその象徴的なシーンだ。

「アン(アグネス)・ハサウェイの"悪妻"のイメージに挑むことはマギー・オファーレルにとって最も情熱を注いだ点でした。私はそれに忠実でありたかった。彼女は原作の中で、女性の身体に対する制限やコントロールがどれほど不自然か、そして女性の生殖医療の多くが男性によって設計されてきたことについて語っています。本来、女性が四つん這いになって地面に近い位置で、叫び、呼吸しながら出産することは、とても自然なことです。でも病院では仰向けに寝かされ、押さえられ、かつては声を出さないように言われていた時代もあった」

とはいえ、自らを「"伝統的な"フェミニストではない」と彼女は言い切る。

「現代社会の構造は、女性を"男性のような存在"としてではなく"女性としての女性"として必要としているのです。女性的な意識が欠けたまま築かれてきた土台を問い直さず、ただ女性をそこに適応させようとするなら、それは女性に自分の女性性を弱め、男性的なあり方に近づくよう求めることになる。私が伝統的なフェミニズムに対して感じる葛藤です」

現代において人はどう人間らしく生きられるのか。"自然との共生"はジャオの作品群に通底するテーマでもある。

「私たちは自然の一部で、あらゆるものは死に、堆肥となり、別のものへと変わっていく。でも、人間は死を自然な循環の一部ではなく、"克服すべき問題"として見てしまう。それはとても自己中心的な見方。死を超越しようとすることは、神のような存在であろうとすることに近い。ただ、その過程で、私たちは自らを滅ぼしてしまうかもしれないのです」

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*「フィガロジャポン」2026年5月号より抜粋

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