1. トップ
  2. レシピ
  3. 「月の土」模擬物質で栽培したひよこ豆の採取に成功

「月の土」模擬物質で栽培したひよこ豆の採取に成功

  • 2026.3.10
模擬「月の土」からひよこ豆を採取 / Credit:Jessica Atkin(A&M)et al., Scientific Reports(2026), CC BY 4.0

もし将来、人が月で生活することがあるなら、そこでは何を食べるのでしょうか。

アメリカのテキサスA&M大学(A&M)の研究チームは、月の土を模した物質を使ってヒヨコマメを育て、収穫可能な種子を得ることに成功しました。

研究の焦点は、ただ作物を育てることではなく、月の土を植物が育つ土壌へ近づけられるかを確かめることにありました。

研究成果は2026年3月5日、科学誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • 「月の土」模擬物質からヒヨコマメの種子を採取
  • 菌が月の土を少しずつ「土壌化」していた

「月の土」模擬物質からヒヨコマメの種子を採取

月の表面を覆う細かな粉は「レゴリス」と呼ばれています。

見た目は土のようですが、地球の土壌とはかなり違います。

地球の土には有機物があり、微生物がいて、植物の根のまわりでは栄養が循環しています。

しかし月のレゴリスには、そうした生物の働きがほとんどありません。

しかもレゴリスの粒子は鋭く、水をうまく保ちにくいという性質があります。

植物に必要なリンやカリウム、カルシウム、鉄などの元素は含まれているものの、多くは植物がすぐ使える形ではなく、窒素も乏しいため、そのままでは土壌として十分に機能しません。

また植物にとって有毒な可能性のある重金属も含まれています。

そこで研究チームは、レゴリスに足りないものを生物の力で補う方法を試しました。

使ったのは、月の土壌を再現した高精度の模擬物質「LHS-1」、ミミズ堆肥、アーバスキュラー菌根菌(AMF)です。

ミミズ堆肥は、ミミズが有機物を分解して作る肥料で、栄養だけでなく微生物も含んでいます。

月面基地では、食べ残しや綿製品、衛生用品などの廃棄物を再利用して、こうした材料を作る構想も考えられています。

さらに研究チームは、ヒヨコマメの種子にAMFを接種しました。

これは植物の根と共生する菌類で、根が届きにくい場所からも水や栄養を取り込みやすくし、重金属の影響をやわらげる働きが期待されています。

研究では、模擬レゴリスとミミズ堆肥を25%、50%、75%、100%の割合で組み合わせ、菌を入れた場合と入れない場合を比べました。

その結果、ヒヨコマメはすべての条件で発芽しましたが、レゴリスを含む混合土壌で花を咲かせ、種子を作るところまで進んだのは、菌根菌がある場合だけでした。

しかも、レゴリスの割合が75%までなら、実際に収穫できる種子が得られました。(※画像はこちら)

より詳しい結果は、次で見ていきましょう。

菌が月の土を少しずつ「土壌化」していた

レゴリスの割合が増えるにつれて植物は強いストレスを受けていました。

草丈は低くなり、葉は黄色っぽくなり、枝分かれも少なくなっていきます。

特に100%レゴリスの条件では、ヒヨコマメは開花する前に枯れてしまいました。

ただし、ここで菌根菌の効果がはっきり表れます。

100%レゴリスでも、菌を接種した植物は接種していない植物より平均で約2週間長く生き延びました。

つまり、菌は過酷な環境そのものを一気に解決したわけではないものの、植物が受けるダメージをやわらげていたのです。

さらに重要なのは、レゴリス25~75%の混合条件では、菌を入れた区だけが開花し、種子を作ったことです。

種子の数はレゴリスの割合が高くなるほど減りましたが、多くの条件では種子の重さに大きな差は見られませんでした。

これは将来の多世代栽培を考えるうえで、ここは見逃せない点です。

この研究でもう一つ面白いのは、菌が植物を助けただけではなく、レゴリスそのものの性質も変えていたことです。

レゴリスは本来、粒子がまとまりにくく、水や栄養が動きにくい素材です。

ところが菌根菌がいると、菌糸や分泌物の働きによって粒子が結びつき、より安定した塊を作るようになりました。

これは、月の土に「土っぽさ」が少しずつ生まれ始めたことを意味します。

もちろん、まだ課題は残っています。

最大の問題は、収穫されたヒヨコマメが本当に安全に食べられるのかどうかです。

レゴリスには鉄、アルミニウム、亜鉛、銅などが多く含まれており、それらが植物体や種子にどの程度取り込まれたのかは、今後詳しく調べる必要があります。

栄養価が十分なのか、宇宙飛行士の食料として適しているのかも、これからの検証課題です。

それでも今回の成果は、月面農業の研究にとって大きな前進です。

生き物の力を使って、月の土を食料生産の土台へ変えていけるかもしれない。

その可能性を、ヒヨコマメが初めて具体的に示したのです。

月の未来の食卓は、まず一粒の豆から始まるのかもしれません。

参考文献

Chickpeas Grown in Simulated Moon Dirt Produced Viable Seeds With a Fungal Assist
https://www.zmescience.com/space/chickpeas-grown-in-simulated-moon-dirt-produced-viable-seeds-with-a-fungal-assist/

Scientists successfully harvest chickpeas from “moon dirt”
https://www.eurekalert.org/news-releases/1118340

元論文

Bioremediation of lunar regolith simulant through mycorrhizal fungi and plant symbioses enables chickpea to seed
https://doi.org/10.1038/s41598-026-35759-0

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる