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きっかけは新幹線で使うフィルターの失敗作…ウィッグ大成功で「あのアデランスの売上が男女逆転」の衝撃

  • 2026.4.26

現在、アデランスは女性用毛髪業市場においてシェア1位だ。同社商品研究開発部長の川﨑むつみさんは「約20年前に男女が逆転し、現在では売り上げの過半数を女性向けが占めています」という――。(後編/全2回)

アデランスの商品研究開発部長・川﨑むつみさん
アデランスの商品研究開発部長・川﨑むつみさん
女性のウィッグ需要はコンプレックスに非ず

「かつらは男のもの」――その常識は、もう崩れている。

実はアデランスは、現在女性用毛髪業市場においてシェア1位となっている(*1)。女性たちの間では、「ウィッグはもはや、日常使いのもの」であるらしい。

これを聞いて驚く男性は、少なくないのではないか。テクノロジー活用で人工毛髪はじめ、ウィッグのレベルはすさまじいほど高くなっているが、それを軽やかに受け入れてきたのが女性、と言えるのかもしれない。

なぜ、逆転現象は起きたのか。

「きっと、自分の変化を自然に受け入れるからではないでしょうか。年齢とともに髪の毛が細くなったり、抜けてしまったり、という悩みを女性からお聞きすることは日常茶飯事です。ちっとも、不思議なことではありません。また、若い頃は出ていたボリュームがなかなか出せなくなった、という声も耳にします。梅雨の時期などに、思うようにスタイリングができないというお悩みもあるようです。そこで前髪から分け目までの商品をちょっとつけてみたり、後ろのボリュームをアップしたり。女性の方たちは、ウィッグの活用がとても上手なんです」

こう語るのは、アデランス商品研究開発部長の川﨑むつみさん(58歳)だ。

「女性の方たちは、ウィッグの活用がとても上手です」と、川﨑さん
「女性の方たちは、ウィッグの活用がとても上手です」と、川﨑さん

社歴はすでに40年。ウィッグ製造の現場からキャリアを始め、商品開発へ。女性用製品の担当になって、もう20年近くになる。女性のウィッグニーズは、実は髪のコンプレックスに限らないという。

「ちょっとスタイルを変えたい、と大きなサイズをお求めになったり、思い切って色を変えてみたい、といった声もあります」

*1 女性用毛髪業(かつら・増毛、育毛サービス及び関連商品等を含む)市場(事業者売上金額ベース 矢野経済研究所調べ/2025年10月現在)

創業者が女性のニーズを知っていたワケ

アデランスの女性向け製品の売り上げが男性向けを超えたのは、2000年代。すでに20年以上経つ。背景にあるのが、ウィッグの質の高さだ。人気商品は、つむじ周りの気になる部分を根本から自然につくる「オーダーメイド・ウィッグ」。20万円弱からの価格帯だが、顧客は絶えない。

「実は、せっかく新しいウィッグをつけてきたのにお友達に気づいてもらえなくて、なんて話を聞くことがあります。誰も何も言ってくれないので、自分のほうから明かしちゃった、とか」

自分からウィッグについて語る女性が多いのだ、と川﨑さんは微笑む。しかも、それを聞いた周囲の反応は、「へえ、素敵ね」「どこで買えるの?」だったりするのだそうだ。

「初めてお会いした人とでも、そういう会話は普通に起きるそうです。お友達同士、揃ってウィッグの試着に見える方もいらっしゃいます」

女性向けマーケットの大きさを知っていたのは、創業者だった。実はもともと女性用ウィッグを扱う会社で働いていたという。男性の髪の悩みの強さから、男性向けで事業を始めたが、女性がウィッグをつける習慣があることを知っていた。女性がこの市場に親和性が高いことに気づいていたのだ。

「それこそ『美容室に行く時間がないからウィッグで』、という方もおられます。洋服を替えるように、ウィッグ一つで全体の雰囲気を変えることができますから」

ヘアプランナーによるオーダーメイド品

クオリティの高さは、人工毛髪をはじめとした製品そのものだけにあるのではない。既製品のブランドもあるが、相談者一人ひとり、オーダーメイドで対応してもらえるのだ。

「ヘアプランナーと呼ばれる担当者がお客さまとお会いして、どんなウィッグをお作りするか、ご相談させていただいています。どんな髪の色にするか、どれくらいのサイズのどの部分をカバーするものを作っていくか、いろいろな話をしながらプランを立てていきます」

なんと、頭の形状をレーザースキャンで3D画像として記録するという。頭の形にもフィットしたウィッグになるのだ。そして何より重要なのが、髪の毛の色の選択だ。

「今の髪がどのような色になっているか。例えば、白髪がどのくらいのバランスで入っているか。それは人さまざまなんですね。また、一見グレーヘアでも、じっくり見ると実はいろんな色が混ざっているのが本来の人毛なんです」

人の髪の毛をまじまじと見ることはまずないが、取材で目の前に置かれたサンプルのグレーヘアは、たしかに複雑な色合いだった。グレーもあるが、紫っぽい色も混じっている。黒もある。そうか、人の髪とは単色ではなかったのだ。

こうした複雑な色合いの髪の毛をウィッグでも再現するから、つけても自然なスタイリングになるのである。

ウィッグの大事な3つの要素

川﨑さんは言う。

「オーダーメイドですから、それぞれ必要な色の人工毛髪を用意して、組み合わせていきます。いろいろな色を合わせていくからこそ、自然なウィッグになるんですね。また、カールも、その方のカールの具合を見て、同じようなカールにします。これらをすべて、ヘアプランナーが指示書に仕立てて、生産工場に送るんです」

頭の形も色もカール具合も一人ひとり違えば、毛量も違う。どのくらいの人工毛髪を入れるのがいいのかも、ヘアプランナーが指示書に記す。

「難しいのは、例えば黒にしても、いろんな黒があることです。真っ黒に見えるものもあれば、赤っぽい黒に見えるものもあれば、青っぽい黒に見えることもある。微妙な色合いを、しっかり把握する必要があるんです」

ウィッグの要素には、3つのポイントがあるという。土台となるベース、人工毛髪の素材(毛材)、そして留め方、すなわち装着方法だ。

男性向けには人工皮膚が使われることが多いが、女性向けで多いのはベースネット。ここに人工毛髪を、ヘアプランナーの指示通りに特殊な針を使って、“1本1本毛植え”していく。

「頭に乗せるものですから、通気性が良いものでないといけません。自分の髪の毛と混ぜて使いますから、薄さも大切。しかも軽くないといけない」

通気性の良い女性向けウィッグのベースネット
通気性の良い女性向けウィッグのベースネット
見えないところにお洒落をする女性願望

そして、さすがは女性向けというべきか、このベースネットにもお洒落な遊び心が施されている。見えない裏側とはいえ、ネットが花柄になっていたりするのだ。

「最初は、ネットの柄を単に変えるだけの発想でしたが、女性のお客さまの反応がとても良かったんですね、『かわいい』と。きっと、こんなウィッグだったら試してみたいな、つけてみたいな、という心を動かすきっかけになったのかもしれません」

ここから柄へのこだわりが始まる。

「下着もそうですが、女性は見えないところにも、お洒落をしたい気持ちがありますよね。こうした取り組みを拡大したことが、女性のお客さまの拡大につながっていったと考えています」

大切な要素である土台となるベースネットは、その後、肌にやさしいシルクプロテインを配合したり、健康をキーワードにゲルマニウムを入れてみたり、さまざまな取り組みが好評を博していく。

高齢者からの切実な声でポイント改良

そして大切な要素の3つ目、装着方法にもアデランスは強いこだわりを見せてきた。

なんと今はワンタッチで自分の髪の毛に簡単につけることができる。つまり、乗せて軽く上から押さえるだけ。

「自社で開発した手法です。もともと両手でパチンと留めるやり方でしたが、女性モノはほぼすべて、ワンタッチで装着できます。お客さまが増えていく中で、いろいろな声をいただくことになりました」

切実な声があった。年を経て、腕が上がらなくなったというのだ。言われてみれば、そうだろう。高齢者にしてみれば、両手で頭の上のウィッグをパチンと取り付けるのは、なかなかの苦労である。

「やはりちゃんとした位置に留まらないと、見た目が不自然になります。では、何かいい方法はないか。ただ乗せて、押さえるだけで留められるものはないか、と考えて、2023年に『スマートタッチ』が生まれました」

表面の形状が不思議な構造になっており、これが見事に髪の毛にくっつく。

「だから、片手で簡単に装着できます」

新幹線車両用の“失敗作”を転用へ

アデランスのストッパー開発の歴史は長い。実に1976年からだ。その後も改良を重ねてきたが、転機となったのは、異業種の技術との出会いだった。

「改良のヒントになったのは、鉄道車両向けフィルターを手がけていたメーカーの“失敗作”だったんです。新幹線車内の蛍光灯の中に虫が入らないようにするフィルターで、その試作品でした。複雑な構造の網なので、見事に髪の毛に引っかかる。ちょうど人毛との相性が良かったんですね」

“異業種技術との出会い”で生まれたストッパー「クイックタッチ」
“異業種技術との出会い”で生まれたストッパー「クイックタッチ」

それを改良し、ウィッグのストッパーとして転用したのだ。こうしてベースも、人工毛髪も、ストッパーも、何十年も研究を続けて進化させてきた。

「完成したオーダーメイド・ウィッグの毛材は、ちょっと長めにできています。それをサロンで理美容師がカットして、スタイリングを施していきます」

なんと、ウィッグは作ったらおしまい、ではなかった。出来上がったウィッグを実際に装着して、ベストな状況になるように調整、カットもするというのだ。しかも、アデランスのサロンのプロの理美容師が、だ。

変身願望を満たしてくれるウィッグ魔法

「ウィッグのカットもしますし、地毛のカットもします。このカット技術が評価されているのもわが社の特色で、それをマスターするための研修はものすごく厳しいです。ただ、どうすれば思うようなスタイリングができるのか、お客さまにしっかり伝えますから、再現性という意味でもとても大事な場になっています」

2025年からは、提携する一般のサロンでウィッグを扱える「サロンクチュール」事業もスタートした。アデランスのサロンでなくても、提携先の理美容室でウィッグを購入したり、アデランスのサポートを受けることが可能になったのだ。

「1枚だけではなく、2枚目が欲しい、色が違うものが欲しい、という声もよく聞きます。女性はやはり新しいものが好きですし、自分が変わるのがやっぱり楽しいんです」

変身願望をウィッグが叶えてくれる、ということか。ウィッグのイメージが、まさに一変した取材だった。男性も、もっとウィッグを楽しんでいいはずだ。すでに女性は、大いに楽しんでいるのだから。

研究開発を続ける川﨑むつみさん(右)と、サブマネージャーの佐藤駿祐さん(左)
研究開発を続ける川﨑むつみさん(右)と、サブマネージャーの佐藤駿祐さん(左)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年、兵庫県生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループを経て、94年よりフリーランス。広告、記事、広報物、書籍などを手がける。インタビュー集として、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)、『外資系トップの仕事力』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。2011年より宣伝会議「編集・ライター養成講座」講師。2013年、「上阪徹のブックライター塾」開講。日本文藝家協会会員。

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