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アート好きも納得、これぞ没入型体験。贅沢な海上のミュージアム「ザ・ムービアム ヨコハマ」

  • 2025.12.25

「没入型」「体験型展示」「アートを全身で浴びる」——ここ数年で一気に増えたこれらの言葉に、少し距離を感じているアート好きは案外多いのではないだろうか。どこかフォーマット先行で、作品や作家の輪郭がぼやけてしまう。そんな感覚が積み重なって、「もう十分かな」と思ってしまう瞬間もある。そんな気分のまま訪れたのが、横浜・山下ふ頭で開催される「THE MOVEUM YOKOHAMA by TOYOTA GROUP」だった。結果からいうと、ここには、アート好きが没入型に抱いてきたモヤモヤを静かにほどいてくれる理由が、ちゃんと用意されていた。

文:稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)

世界が支持したパリの源流を思い出す、海の上の倉庫

いまや世界各地で行われている没入型アート。その世界的流行の源流として知られるのが、パリの旧鋳物工場を使った「アトリエ・デ・リュミエール」というミュージアムだ。天井の高い倉庫に映像と音を投影し、空間ごと作品に変えてしまうあの感じ。そもそもの建物がかっこいい。「イベント会場でやっています」感がなく、あくまで倉庫なのだ。(実際にはミュージアムだが。)

ザ・ムービアム ヨコハマの会場に入った瞬間、その記憶がふっとよみがえった。

約1,800㎡の倉庫空間は、とにかく広くて天井が高い。そして、作品が目立つような暗さがきちんと演出されている。この「広い」「ちょうどよく暗い」というのが、思っている以上に大事だ。最近の展示でありがちな、隣の人の動きや物音が気になって集中できない感じが、ここではほとんどない。誰かがスマホで動画を撮っていたって気にならない。視界に入るのは映像と光だけで、他人は影となる。自然と作品との距離が近くなるのだ。

駅からも遠い山下ふ頭。でも、この場所だから叶う特別な体験にはわざわざ出かける価値がある。(ちなみにこのミュージアム、TOYOTAグループの運営なので、移動には次世代モビリティが活用されているのでそれもお楽しみに!)

クリムトでうっとり、シーレでざわつく。身体と心が反応するアート

ザ・ムービアム ヨコハマは「シアター」展示と少し小さめの「スタジオ」展示、それに関連するショップとで構成される。

シアター展示は、グスタフ・クリムトからエゴン・シーレまでの激動の世紀末ウィーン芸術を表現した「美の黄金時代」。

まず惹きつけられるのは、クリムトの煌びやかな世界だ。黄金、生命、愛、死。装飾的で美しいのに、どこか人間の欲や不安も滲んでいる。その多層的な魅力が、音楽と映像によって空間いっぱいに広がっていく。考えるより先に、身体が反応してしまう感じがある。

空気が変わるのが、エゴン・シーレのパート。クリムトの華やかさとは対照的に、張りつめた線と不安定な身体表現が続く。歪んでいて、正直で、少し居心地が悪い。その感じが、巨大な空間に映し出されることで、より強く伝わってくる。同じ時代を生きた画家でも、こんなにも世界の見え方が違うのかと、感覚的に理解できる構成だ。

近年の没入型展示に、アートが好きな人ほどモヤモヤしてしまうのは、体験の気持ちよさが前に出すぎて、作品そのものが置き去りにされてしまう瞬間があるからだと思う。どこへ行っても似たような演出で、作家の違いが見えにくくなってしまう。その点、この展示は少し立ち位置が違う。

作品そのものをきちんと紹介するコーナーもあり、改めて「これは誰の、どんな作品なのか」に立ち返ることができる。体験を盛り上げるためにアートを使っているのではなく、アートに近づくために体験がある。それが守られていることに、芸術に対するリスペクトを感じた。

見る場所を選べる自由が、没入を深くする

シアターは会場が二階建て構造になっているのも、魅力のひとつだ。同じ映像でも、見る高さや距離が変わると印象がまったく違う。好きな場所に立って、好きなだけ眺めることができる。その自由さが、没入体験を無理のないものにしている。

流行りの言葉に頼らず、空間と作品でちゃんと勝負している展示。アートが好きな人ほど、きっとこの違いに気づくと思う。

スタジオ展示「LISTEN. ONE MOMENT」音で旅する、もうひとつの没入

シアターの隣に入口のある「スタジオ」での展示は、「LISTEN. ONE MOMENT」だ。「LISTEN.」は10年をかけて約26ヵ国を巡り、未来へ紡ぎたい「音」の宝を映像に収めるプロジェクトだ。ナビゲーターは山口智子さん。

今回はその新シリーズで、東西を結んだ騎馬民族のリズム、流浪の民や吟遊詩人のメロディ、心をひとつに結ぶ歌の宴、世代から世代へと受け継がれた魂のダンスなど、映像を体感することで、まるで世界中を旅している感覚になるだろう。

スタジオ展示でも、シアター展示でも、どちらが先でもいいが、「LISTEN.」は気持ちも自然と切り替わり、音そのものに集中できる。展示の途中で深呼吸をするような時間が挟まれている感じがして、個人的にはこの2つの展示構成がとても心地よかった。

会期は3月31日までの予定だが、12月31日、1月1日も含む年末年始もオープンするとのこと。港町・横浜の空気が澄むこの季節、海と空とアートをぜひ堪能してほしい。

THE MOVEUM YOKOHAMA by TOYOTA GROUP
ザ・ムービアム ヨコハマ by トヨタグループ
会期:2025年12月20日(土)~2026年3月31日(火)
https://global.toyota/info/themoveum/Harumari Inc.
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