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健康のための筋トレが、かえって肩関節を傷めている…整形外科医が60歳から勧める「元気な体を保つ運動」

  • 2026.10.6

年齢を重ねても健康に過ごすには、どうすればいいのか。整形外科医の歌島大輔さんは「60歳を過ぎたら肩関節に負担をかける運動はやめたほうがいい。筋肉を鍛えるのはとても大事だが、肩は加齢とともに弱り、傷んで切れる“けんばん断裂”になっていることがある。鍛えるべきは体幹と下半身で、おすすめしたいスポーツがある」という――。(第3回)

※本稿は、歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)の一部を再編集したものです。

黒い床に置かれたダンベル
※写真はイメージです
60代以上の筋トレは要注意

近年は「いくつになっても筋肉は鍛えられる」と言われ、筋トレに励む方が少なくありません。

ですが、60代以上の筋トレには注意が必要です。もちろん、私は筋トレ自体を否定しません。筋肉を鍛えることは、何歳になってもおすすめしたいことではあります。ですが、肩関節によくない筋トレもあるのです。

ここでインナーマッスルについて少し解説しておきましょう。インナーマッスルとは、日本語では「深層筋しんそうきん」と言い、体の深いところにある筋肉を指します。

インナーマッスルは関節のすぐ近くにあるので、その関節の安定性を高めることができます。肩の奥にある筋肉も、肩関節の近くにあるインナーマッスルです。

インナーマッスルと対になる概念が、アウターマッスルです。体の表面に近い筋肉で、日本語では「表層筋ひょうそうきん」と呼ばれています。アウターマッスルはインナーマッスルよりも大きくて太いので、強い力を発揮します。

アウターマッスルを鍛えると、力が強くなります。ですが、アウターマッスルは関節から遠いところにあるため、アウターマッスルの動きが関節には乱暴になってしまうことがあります。それが肩関節の痛みの要因になるのです。

「肩を使う筋トレ」は全般控えて

特に、ベンチプレスやショルダープレスなどの、上半身を鍛える筋トレには要注意です。特にショルダープレスで下ろすときの動きや、バーベルを担いでいる肩の姿勢は、肩関節の前方に負荷がかかり、よくない姿勢だというデータが出ています。このように、腕を外側に開いて、さらに外旋させる動きは「ハイファイブ」と呼ばれます。この動きは、肩の関節が前側にずれないように支える「前方関節包ぜんぽうかんせつほう」というところに負荷をかけます。

それ以外にも重い負荷をかけて肩を使う筋トレは、全般的に控えるほうがいいでしょう。何度もお伝えしているように、肩は体の中でも特に損傷しやすい部位で、障害の発生率がとても高いのです(*1)(*2)。

私が診察していても、ベンチプレスが原因で肩を損傷する方は本当に多いのです。

ここで「けんばん断裂」について触れておきましょう。腱板けんばんとは、肩を安定させる4つのスジのことです。この腱板が、加齢に伴って徐々に弱ってきて、傷んで切れるのがけんばん断裂です。とくに60歳を超えたら注意が必要です(参考:第1回記事)。

けんばん断裂の中でも肩甲下筋腱の断裂や、「肩鎖関節炎けんさかんせつえん」と呼ばれる障害は、ベンチプレスでたびたび起きています。

肩より上で押す・引くは×、下半身と体幹を鍛えて

ベンチプレスをするとき、肩は筋肉でバーを上げ下げしながら、同時にバーを安定させる仕事もやらされます(*2)。これこそが「肩がしんどい」理由です。

肩を安定させるために、肩の周囲の筋肉は働き続けるのですが、腱板が弱っている人には、この安定化の作業がかなりの負担になります。

もし、どうしてもベンチプレスをしたければ、バーベルを持つ「グリップの幅を狭く」して、肩甲骨を大きく動かしてください。ハイファイブの姿勢が肩に負荷がかかるとお伝えしましたが、ベンチプレスのグリップ幅を広くして、肩甲骨をあまり動かさずに肩関節だけで大きく上げ下ろしをすると、ハイファイブを悪い意味で強化した姿勢になってしまいます。

中高年の女性のための筋トレ施設も増えていますが、50~80代の女性で「痛みがある」「特に夜間の痛みがひどい」「腕が上がらない」のどれかがあるなら、肩よりも上に腕を上げて押したり引いたりするメニュー(チェストバック、ベンチプレス、ショルダープレス、ペックデックなど)は避けて、下半身と体幹の筋トレを中心にすることをおすすめします。

大胸筋や三角筋を鍛えるほど肩に負担

肩関節によくないのは、肩を動かすアウターマッスル(主に大胸筋と三角筋)を鍛える筋トレです。大胸筋や三角筋の筋トレを頑張ってやってしまうと、肩を直線的に動かすことになります。腕は本来、肩甲骨と上腕骨が連動して、なめらかに動くものです。

ところが、このようなトレーニングを繰り返すと、機械的に一直線に動かすような形になってしまうのです。細やかな動きをするはずの肩を、大きな筋肉で押し切ってしまうようなものです。そのような動きが、肩への大きな負担になります。

歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)
歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)

特に、大胸筋を鍛えるトレーニングでは、肩が前のほうに引っ張られやすくなります。

また、三角筋を鍛えるトレーニングでは、少し極端な言い方になってしまいますが、上腕骨頭が受け皿である関節窩から上にずれようとする力がかかります。

実際に外れることはほぼないのですが、そういう無理な力がかかってしまうということです。

三角筋が働くときには、上腕骨頭が上に持ち上がらないように、腱板が上腕骨頭を肩関節の中心に保つ必要があります。腱板が弱っているのに三角筋を強く動かすと、上腕骨頭が上にずれやすくなります。それでは肩関節が安定しません。

ピラティス・ヨガも肩関節を痛めるリスク

大胸筋と三角筋がターゲットになっている筋トレは、けんばん断裂の視点からすると、どれもおすすめできません。

体幹を安定させ、しなやかな体作りによいとされているピラティスもまた、肩を過剰に動かす動きはおすすめしません。ピラティス専用機器の「リフォーマー」を使ったエクササイズ中に、両肩を脱臼してしまったという報告もあります(*3)。

ヨガも、正常な肩の可動域を超えようとする動きや、手や肩で体重を支えるようなポーズでは、肩関節を痛めるリスクがあります(*4)。

これらをおこなうなら、くれぐれも、ご自身のレベルや年齢に合う、医学的知識も豊富なインストラクターを選ぶようにしてください。

強い負荷ではアウターマッスルという三角筋や大胸筋などが動員されてしまうため、インナーマッスルを効率的に刺激することが難しくなります。だからこそ、インナーマッスルを効率的・効果的に使うための訓練としては、弱い負荷であることが必要になります。

私の経験的な知見、そして複数の論文をもとに導き出した結論をお伝えします。健康の維持・増進が目的であれば、年を重ねるほど、肩関節ではインナーマッスルのトレーニングに絞ることをおすすめします。代わりに、体幹と下半身のアウターマッスル(特に太ももの前や裏など)を鍛えるトレーニングを頑張ることが、健康を維持・増進するのに役立ちます。

60代以上のおすすめスポーツは「水中歩行」

ボウリングで球を投げる前に、腕を真後ろに上げますね? あのような肩関節の「伸展(後方挙上)」は、基本的にけんばん断裂にはよくない動作です。真後ろまで上げなくても、後ろに引く動きが入ると、痛みを感じることがあります。

そもそも肩の伸展は、肩関節に負荷をかける動きです。水泳のクロール、ゴルフのバックスイング、テニスや野球でボールを打つ前に腕を後ろに引く動きなどにも、伸展の要素が入っています。

オーバーヘッドスポーツの競技者は、痛みがなくてもMRI検査で40%の人にけんばん断裂が見つかりました(*5)。野球、テニス、バレーボールなどオーバーヘッドスポーツをする方は、たとえ痛みがなくても、肩の中は消耗していることがあるのです。

60代以上の方にいちばんおすすめしたいスポーツは、水中歩行です。加齢とともに弱る下半身のアウターマッスルを鍛える運動だからです。ビート板を使ったバタ足や水中エクササイズをすると肩を使うことにはなりますが、それぐらいならいいでしょう。

プールで水中歩行をする女性
水中歩行は、加齢とともに弱る下半身のアウターマッスルを鍛えられる(※写真はイメージです)

(参考文献)
*1 Tung MJY, et al. 2024. Injuries in weightlifting and powerlifting: an updated systematic review. BMJ Open Sport & Exercise Medicine 10: e001884.
*2 Noteboom L, et al. 2024. Effects of bench press technique variations on musculoskeletal shoulder loads and potential injury risk. Frontiers in Physiology 15: 1393235.
*3 Ergün et al. Physiotherapy Theory and Practice, 2023; 39(3): 667-674.
*4 Cramer et al. BMC Complementary and Alternative Medicine, 2019; 19(1): 190.
*5 Connor PM, Banks DM, Tyson AB, et al. Magnetic resonance imaging of the asymptomatic shoulder of overhead athletes: a 5-year follow-up study. Am J Sports Med. 2003; 31(5): 724-727.

歌島 大輔(うたしま・だいすけ)
日本整形外科学会・日本専門医機構認定整形外科専門医/日本整形外科学会認定スポーツ医
1981年生まれ。山形大学医学部卒業。肩関節、肩関節鏡手術、スポーツ医学の専門家としてさまざまな肩治療を行う。肩関節鏡手術は年間約400件と全国トップクラス。診療のかたわら「医学的根拠のあるセルフケアを」との信念から、YouTubeで医療情報の発信も行っている。現在は東京脊椎・関節クリニック 羽田に所属。

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