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もしも──不確実性が高まる世の中へのメッセージ by 渋澤健【真の豊かさを問う vol.6】

  • 2026.9.18

シブサワ・アンド・カンパニーを創業し、より良い社会を次世代に残すべく活動する渋澤健さん。渋沢栄一さんの玄孫でもあり、「論語と算盤」経営塾や数々の講演を通じてその思想を世に広めています。今回は、不確実な時代を穏やかに生き抜くためのしなやかな信念について伺いました。

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<Profile>
渋澤健(しぶさわけん)/シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役

1961年生まれ。'87年UCLA大学経営大学院にてMBAを取得。2001年にシブサワ・アンド・カンパニー、'07年に現コモンズ投信、'23年に&Capital(アンドキャピタル)を創業。経済同友会幹事および中東・アフリカ委員会筆頭委員長の他、「サステナブルファイナンス有識者会議」など、複数の政府系委員会の委員を務める。「『論語と算盤』経営塾」を主宰。著書多数。

漠然とした不安に負けず、信念を持ち続ける

学びやを巣立つ数多くの若者たちが、希望を胸に、少しの緊張を抱えながら、それぞれの新しい生活へと旅っていく。 (C)Seikei University

いまの国内外の情勢は不確実性が高まるばかり。保護者や教育者は、若者たちにどのような心構えを説いて新たな人生のステージへ送り出すべきか、悩むところです。そんな折、息子が通っていた大学の卒業式で、学長の式辞に引用された言葉に、まさにそのヒントを得、深く感銘を受けました。学長が引用されたのは一編の詩でした。ラドヤード・キップリングの『If——もしも』(抜粋、意訳)

夢を見ることがあっても、
夢のとりこにならず、
考える力を持ちながらも、
考えることだけを目的にしないなら

成功と失敗という
二つのかりそめのものに出会っても、
どちらにも振り回されず、
同じ心で向き合えるなら

自分の語った真実が、
悪意ある人によってねじ曲げられ、
人を陥れるための言葉に変えられても、
それに耐えることができるなら

また、人生をかけて築いてきたものが
壊れてしまうのを目にしても、
身を屈して、
すり減った道具でそれをもう一度
築き直すことができるなら

そうすることができるなら、
世界とそのすべてはあなたのものとなり、
そしてそれ以上に、
あなたは一人前の大人になるでしょう。

『ジャングル・ブック』の作者として知られるキップリングは、19世紀末から20世紀初頭のイギリスを代表する作家です。彼の言葉が学長の式辞を通して、次代を担う若者たちに人としてあるべき姿を問い掛け、励ましとして心へ届いたことを期待しています。ところで、この詩の余韻の中で、私はふと別の声を聞いた気がしました。高祖父・渋沢栄一(1840~1931)です。キップリング(1865~1936)と同じ時代を生きて、産業化と帝国主義、揺れ動く国際秩序など、混沌(こんとん)とした世界を肌で感じていた人物です。

栄一は、次のような言葉を残しています。“論語と算盤(そろばん)は甚(はなは)だ遠くして甚だ近いもの”。「算盤」を経済やビジネスや金儲け、「論語」を倫理や道徳や社会貢献と置き換えるならば、「算盤だけを目的とする者」は、夢にとらわれて浮かれてしまう。一方で「論語だけを語る者」は、思考にとらわれて行動が伴わない。その双方を持ちながら、どちらにも縛られないことの大切さを語っているとも取れます。

また、昭和33年には第1回「国民生活に関する世論調査」が実施され、7割以上が自分を「中の上~中の下」と回答していました。1970年代に定着した「一億総中流社会」という表現に先立ち、その意識はすでに芽生えていたのです。中間層が増え、国が豊かになるという現象は、日本に限らず世界共通の公式でもあります。

しかし現在では、産業革命を先行して豊かさを築いた西洋社会においても、「中間層社会には戻れない」という声が聞こえ始めています。GDPで測る成長(豊かさ)は“総額”です。つまり、全体のごく一部が飛躍的に生産・成長している一方で、大多数が停滞していても、総額としては成長として表れてしまう。この「取り残された感」の増大こそが、豊かさの喪失や社会の分断の根源にあるのではないでしょうか。

また栄一はこのようにも述べています。“世の謂(いわ)ゆる成功は必ずしも成功でなく、世の謂ゆる失敗は必ずしも失敗でない”。勝って慢心せず、敗れても本質を見失わない。一時的な成敗という「外面」ではなく、自分がどう在るかという「内面」を判断基準にする大切さを示しています。若者たちだけでなく、私たち自身の心のともしびにもなります。漠然とした不安に振り回されることなく、信念の導くところに向かう姿勢を持ち続けたいと思います。

【トラベルノート@ニューヨーク】ニューヨーク駅構内で楽しんだ不変性

長年、世界中から多くの人々が集まって、食事と会話が楽しまれている。 Ken Shibusawa

2月下旬に経済同友会の米国ミッションでワシントンDCとニューヨークを訪れ、日米関係を巡る重要な課題について、多くの識者と充実した意見交換をしました。最後の夜は特に予定もなく、経営者数名と「軽く食事でも」という流れになり、ホテル近くのグランドセントラル駅構内の「オイスター・バー&レストラン」へ向かいました。創業100年以上の歴史を誇り、30年ほど前のニューヨーク生活のときに何回も訪れた店です。店内の雰囲気は当時とまったく変わらず、メニューもおそらく同じ。さまざまな種類の生ガキなどをワインと一緒に楽しみ、仲間たちと過ごした平和な夜の余韻も最高でした。その3日後、アメリカとイスラエルがイランに対して大規模な先制軍事攻撃を実施し、世界が大きく変わるとは思いもよりませんでした。

初出:リシェスNo.56 2026年6月26日発売

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