1. トップ
  2. エピソード
  3. 「何度か壁を叩かれているんです」夜9時にテレビをつけると壁を叩かれた…隣人から告げられた覚えのない音

「何度か壁を叩かれているんです」夜9時にテレビをつけると壁を叩かれた…隣人から告げられた覚えのない音

  • 2026.9.16

夜9時のテレビと、壁が鳴った回数

二年前まで住んでいたアパートでの話だ。今は別の街の部屋に移っていて、あの建物とも、あの階の人とも、もう関わりがない。

今なら、あのころのことを少し落ち着いて振り返ることができる。

入居して二週目の夜だった。残業から帰り、夜9時にテレビをつけた。音量は下から三つ目。自分では、それほど大きな音ではないと思っていた。

番組が始まってすぐ、壁が鳴った。

ドン、と一度。

思わずテレビを見ると、少し間を置いて、またドン。3度目が鳴ったところで、私は慌ててリモコンを手に取った。

「…そんなに聞こえるのかな」

音を消すと、それ以上は鳴らなかった。

その週は結局、壁を3度叩かれる夜が三回あった。時間はいつも夜9時前後で、テレビを消すと止まる。

「やっぱり、こっちの音が響いてるのかも」

そう考えるしかなかった。

翌週、廊下で隣の男性と会った。五十代くらいで、髪をきちんと分けた人だった。私は少し迷ったあと、先に頭を下げた。

「あの、夜…テレビの音、うるさかったですか?すみません」

男性は一瞬こちらを見た。

「まあ……ちょっと響いてましたね」

「すみません。気をつけます」

「お願いします」

怒っているようには見えなかったので、私は少しほっとした。その日からテレビは9時ごろまでに消し、洗い物も遅い時間にはしないようにした。

玄関の前で、前の日の話をされた

半月ほど経った朝、玄関を出ると、男性が郵便受けの前に立っていた。

私が鍵をかけ終えたところで、男性がこちらを向いた。

「昨日は22時まで歩いてたよね。けっこう響いてたよ」

一瞬、何のことを言われているのか分からなかった。

「え…昨日ですか?」

「うん。ずっと聞こえてたから」

前の日のことを思い返した。22時前には寝室へ移り、そのまま寝る支度をしていた。部屋の中を何度も歩き回った覚えはない。

「でも、22時前にはもう寝る準備をしていて…そんなに歩いてないと思うんですけど」

男性は少し眉を寄せた。

「いや、でも聞こえてたよ。歩く音」

「……そうですか」

それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。

男性は郵便受けを閉めると、そのまま階段を下りていった。

怒鳴られたわけではない。強く責められたわけでもない。それなのに、自分には覚えのない音を「あなたの音だ」と言われたことが、妙に頭から離れなかった。

その日の昼休み、私は管理会社へ電話をした。

「すみません、ちょっと相談したいことがあって…。隣の方から、何度か壁を叩かれているんです」

担当の方は話を遮らずに聞いてくれた。

「今朝も、『昨日は22時まで歩いてたよね』と言われて。でも、その時間はもう寝る支度をしていて……」

「分かりました。まず建物全体に、生活音についての案内を出しますね」

「お願いします。私も気をつけます」

数日後、全戸のポストに生活音への配慮を求める文書が入った。

けれど、壁を叩く音はなくならなかった。

むしろ、テレビをつけていない夜にも鳴るようになった。

ドン、と聞こえるたびに、「今、何か音を立てた?」と、自分の行動を振り返るようになった。

結局、私は入居から半年ほどでその部屋を出た。

今の部屋では、夜に壁を叩かれることはない。

それでも夜9時が近づくと、テレビの音量を無意識に確かめてしまう。

何も鳴っていない壁のほうを見ながら、リモコンを持つ指が一度だけ止まる。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ