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「連絡先って聞いてもいい?」奥さんと子どもの話をしていた常連男性。連絡先を交換してから変わった距離感

  • 2026.9.16

カウンターで隣になった晩に、連絡先を聞かれた

三十代になった今も、妹と二人で暮らしていた頃に通っていた店のことを、ときどき思い出す。家から歩いて数分のところにあるバルで、三十代の男性二人が切り盛りしていた。

賑やかなのに落ち着いていて、カウンターに座れば店の人とも、隣り合った常連とも自然に話が始まる。妹と並んで座り、閉店近くまで長居することもよくあった。

常連の一人に、歩いて行ける距離のパン屋で働く四十代の男性がいた。ほぼ毎日、仕事上がりに一人で来ては、端の席で静かに飲んでいた。

その人は奥さんや子どもの話をよくしていた。私も「そうなんですね」「楽しそうですね」と相槌を打ちながら聞いていて、家族のいる人なんだな、という以上のことは考えていなかった。

ある晩、妹が用事で来られず、私だけがカウンターに座った日があった。たまたま隣の席に、その人が座っていた。

しばらくいつものように話していると、不意にこちらへ顔を向けた。

「そういえば、連絡先って聞いてもいい?」

思わず聞き返した。

「え、私のですか?」

「うん。話しやすいし。嫌じゃなかったら」

恋愛のような意味はまったく考えていなかった。ただ、これからも同じ店で顔を合わせる相手だったし、お酒も入っていた。ここで断って気まずくなるのも嫌で、「連絡くらいなら」と軽い気持ちで交換してしまった。

パン屋へ行ったあと、二人で会う誘いは断った

何日かして、その人から連絡が届いた。

「今度、店にパン買いに来てよ。俺がいる日にさ」

私は「タイミングが合ったら」とだけ返した。

しばらくすると、もう一度似たような連絡が来た。

「ほんと、一回来てよ。おすすめあるから」

二度も言われると、断り続けるのも少し気まずかった。パンを買うだけならいいかと思い、休みの日に一人で店へ行った。

トレーにパンを二つ載せて会計を済ませ、その人にも「じゃあ、帰りますね」と声をかけて店を出た。

ところが、少し歩いたところでスマートフォンが鳴った。

「もうすぐ仕事終わるんだけど、ちょっと待っててくれない?」

画面を見て、手が止まった。パンを買いに来てほしいという話と、二人で会う話は、私の中では別だった。

「ごめんなさい。このあと予定があるので、今日は帰ります」

すぐに返事が来た。

「そっか。じゃあ来週とかは?」

「しばらく忙しいので、大丈夫です」

そこから私は、少しずつ距離を置くようになった。

責めるようなことは言わなかった。ただ、二人で会う約束はせず、連絡が来ても必要なことだけを短く返した。こちらから連絡することもなかった。

そのうち向こうからの連絡も間遠になり、やがて来なくなった。

はっきり「もう連絡しないでください」と言ったわけではない。相手も理由を聞いてこなかった。ただ、これ以上近づかないように距離を取ったのは私のほうだった。

通っていたバルにも、それきり行かなくなった。顔を合わせるかもしれない場所で、相手のことを気にしながら飲むのは、もう楽しくないと思ったからだ。

妹には、秋の終わりの帰り道で一度だけ話した。

「ねえ、あの店なんだけど。私、もう行かないことにする」

妹が少し驚いた顔でこちらを見た。

「え、何かあった?」

私は、常連の男性と連絡先を交換してから何度か誘われたことを短く話した。

妹は少し黙ってから、「そっか」とうなずいた。

「じゃあ、もういいよ。無理して行くことないし。次の店、私が探す」

「うん。そうしてくれると助かる」

そう答えると、少しだけ肩の力が抜けた。

妹が見つけてきたのは、カウンターが五席しかない静かな店だった。その年の暮れから、私たちはそちらへ通うようになった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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