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「ふたを閉めてもらえませんか」路線バスで弁当を開けた乗客。だが、乗客が箸を止めたワケ

  • 2026.9.16
「ふたを閉めてもらえませんか」路線バスで弁当を開けた乗客。だが、乗客が箸を止めたワケ

少し前の席で、紐を引く音がした

午後の路線バスは、席が半分ほど埋まっていた。

しばらくすると、少し前の席から紙のこすれる音が聞こえた。

目をやると、男性が膝の上に細長い弁当の箱を広げている。

箱の横から伸びた紐を引くと、しばらくして白い湯気が上がり始めた。

男性は少し待ってからふたを開け、箸を取った。

その途端、焼いた肉と甘辛いたれのにおいが車内に広がった。

窓は閉まっていて、湯気と一緒に流れてきたにおいが背もたれを越え、私のところまで届く。

近くにいた二人も顔を見合わせた。

「あ、けっこう来るね」

「うん。思ったより強いね」

男性に聞かせるつもりではなく、思わず口から出たような声だった。

後ろから、少し言いにくそうな声がした

少しして、私の後ろに座っていた女性が背もたれから身を乗り出した。

「あの、すみません」

男性は気づかなかったのか、弁当を食べ続けている。

女性は少し迷ったあと、今度は前まで届くように声を少し大きくした。

「すみません、ちょっとにおいが強くて…できれば、ふたを閉めてもらえませんか」

男性が振り返った。

「あ、すみません。そんなに後ろまで来てました?」

驚いたような顔だった。

女性は「はい、ちょっとだけ…」と申し訳なさそうに答えた。

「気づかなかったです。すみません」

男性は箸を置き、すぐに弁当のふたを閉じた。

そのころには、においは前のほうまで広がっていたようだった。次の停留所でバスが停まると、運転手が運転席横の窓を少し開けた。

「少し空気を入れますね」

後ろの女性が「ありがとうございます」と返した。

男性は弁当に輪ゴムを掛け直し、足元の袋にしまった。

「すみませんでした。ここまでにおうと思ってなくて」

女性は「いえ、閉めてもらってありがとうございます」と短く返した。

次の停留所で、男性は袋を提げて降りていった。

バスが走り出すと、開いた窓から入る風で残っていたにおいも少しずつ薄くなった。

誰かが怒ったわけでも、男性が言い返したわけでもない。ただ本人が思っていた以上に、閉め切った車内ではにおいが広がってしまったのだと思う。

しばらくすると、車内にはまたいつもの走行音だけが残っていた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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