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毎年書いていた母への手紙をAIに任せた俺、「母さんへ」の1語で止まった母

  • 2026.9.4
ハウコレ

手紙を胸の高さで持ったまま、母は先を読みませんでした。棚から下ろした菓子箱に1通をしまう姿を、俺はソファから見ていました。

俺は、生まれて一度も使ったことのない呼び方で、母への手紙を書き出していました。

手紙を書く時間がなかった今年

実家を出てから、母とのやりとりは月に数回のチャットだけになりました。そんな母には変わった頼みがあって、帰省が近づくたびに「今年も手紙、書いてね」と言うのです。電話でも用は足りるのにと思いながら、俺は毎年、便箋を1枚だけ埋めてきました。

今年は仕事が立て込み、家に帰ってから手紙の内容を考える気になれませんでした。そこで頼ったのがAIです。母への感謝を伝える手紙、と入力すると、すぐに整った文章が表示されました。俺はそれを便箋に書き写し、封をして鞄に入れました。

字は俺のものだから、気づかれないだろうと思っていました。

居間で開いた封筒

帰省した日の居間で、母は封筒を受け取るとうれしそうに開きました。

「読み上げてもいい?」

そう聞かれて、俺はうなずきました。母は便箋を胸の高さで持ち、最初の言葉を読みました。

「母さんへ」

そこで止まりました。母の目は便箋に向いたままでしたが、その先を読みません。俺は何も言えず、母が続きを口にするのを待ちました。そのとき、ようやく気づきました。

呼んだことのない呼び方

俺は母を「かあちゃん」としか呼んだことがありません。便箋の最初に書かれているのは、これまで一度も使ったことのない「母さん」という呼び方でした。

AIが作った文章を書き写したとき、俺はそこにも違和感を持ちませんでした。母は先を読み上げないまま、便箋をたたみました。

「ありがとう。大事にするね」

俺は「うん」とだけ返しました。打ち明けることもできたのに、その場では言えませんでした。母は棚の上から古い菓子箱を下ろし、今回の封筒をその中へしまいました。隙間からは、昔書いたものらしい便箋が何枚も見えました。

そして...

帰りの電車に乗る前、俺は駅の売店で便箋を買いました。座席で広げ、最初に書いたのは

「かあちゃんへ」

その先は、すぐには続きませんでした。それでも今度は、自分で考えて最後まで書くつもりです。うまくまとまらなくても、母が待っていたのは、俺が考えて書いた言葉だったのだと思います。

(20代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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