1. トップ
  2. エピソード
  3. 「焼き鳥、焼き直して」何度も焼き直させる客。だが、丁寧に焼いた私の本音とは

「焼き鳥、焼き直して」何度も焼き直させる客。だが、丁寧に焼いた私の本音とは

  • 2026.8.28

静かな店内で、塩の話だけが聞こえてきた

三十代のころ、副業で焼き鳥屋の厨房に立っていました。焼き加減や味の濃さには好みがあるので、「もう少し焼いてほしい」「塩を控えめにしてほしい」と言われること自体は珍しくありませんでした。

ある平日の、店が空いている時間帯のことです。若い男性と連れの女性が来店し、カウンター席に並んで座りました。

店内が静かだったこともあり、男性の話し声が厨房まで聞こえてきます。

話題は、焼き鳥の焼き加減や塩についてでした。

「おいしい店は塩が違う」「焼き方で味が決まる」と、男性はかなり詳しそうに話しています。

私は普段どおり、焼き色を確認しながら串を返し、いつもの量の塩を振って出しました。

ところが、しばらくすると店長が呼ばれました。

男性は一口食べたあと、こう言ったそうです。

「食べたあとに舌に塩が残るんだよね、焼き鳥、焼き直して」

店長が厨房へ戻り、「少し塩辛く感じるみたいだから、もう一度お願い」と言います。

同じ塩を、いつもと同じ程度に使ったつもりでした。

ただ、味の感じ方は人それぞれです。私は一皿目より塩を減らして、もう一度焼きました。

三皿目の塩を知っているのは、私だけだった

ところが二皿目にも、「まだ食べたあとに塩が残る」と注文が入りました。

そこで三皿目は、塩をほとんど振りませんでした。指先でほんの少しつまんだ程度です。

さすがに今度は「味が薄い」と言われるかもしれない。

そう思いながら、焼き上がった串を店長に渡しました。

しばらくすると、カウンターから男性の声が聞こえてきました。

「これだよ。天然の塩って、食べたあとにスッと消えるんだよね」

さらに男性は、どこの塩を使っているのか店長に尋ねていました。

店長は少し間を置いてから、「普段使っている塩ですよ」とだけ答えました。

もちろん、一皿目から塩の種類は変えていません。変えたのは量だけです。

私は思わずカウンターを見ると、連れの女性も男性の顔と皿を交互に見ていました。

そして私と目が合うと、少しだけ口元をゆるめました。

男性は気づかないまま、「やっぱり塩は大事なんだよ」と話を続けています。

会計を終えて帰るとき、女性は男性より少し遅れて席を立ちました。

そしてカウンターのほうを向き、小さな声で「おいしかったです」と言ってくれました。

私は「ありがとうございます」と頭を下げました。

味の好みは人それぞれですし、本人が三皿目をいちばんおいしいと感じたことまで否定するつもりはありません。

ただ、あの三皿目にどれほど塩を振ったのかは、焼いた私だけが知っています。

それ以来、味について何か言われても、必要以上に「自分の焼き方が悪かったのでは」と考え込まなくなりました。味覚には、量や焼き方だけでは説明できない部分もあるのだと思った出来事です。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ