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「30分以上、同じ話が続いています」客からの長電話。だが、私が電話を切ることで出来なかったワケ

  • 2026.8.22
「30分以上、同じ話が続いています」客からの長電話。だが、私が電話を切ることで出来なかったワケ

受話器の向こうの声は、ずっと弾んでいた

レジャー施設の事務をしている私にとって、電話の対応は日常の仕事のひとつだ。その日も受話器を取ると、年配とおぼしき女性の、ゆっくりとした声が聞こえてきた。

「あの、そちらの施設のことで、お聞きしたいことがありまして」

問い合わせだと思い、私はメモ用紙を引き寄せた。ところが女性の話は、なかなか本題にたどり着かなかった。

「この前ね、家族で行かせてもらったんですよ。それがもう、本当に楽しくて」

クレームではなかった。むしろその逆だ。

売店で買ったものがおいしかったこと、係の人が親切だったこと、家族みんなが笑っていたこと。声は終始うれしそうで、ときどき小さな笑い声が混じった。悪い気はしない。この人はたしかに、私たちの施設で良い時間を過ごしたのだ。

「係の方がね、みなさん親切で。それがうれしくてねえ」

ただ、私の手元では別のことが起きていた。画面には締め切りの近い書類が開きっぱなしで、机の端の未処理の紙束は、朝より確実に高くなっている。

受話器を肩と耳ではさんだまま、私はキーボードに手を伸ばしては、また引っ込めた。メールの通知が画面の隅で増えていくのが、視界の端に映っている。

切りたいのに、切る理由がなかった

話は、いつのまにか一周して戻ってきていた。売店の話、係の人の話、家族の話。同じ順番で、同じ言葉で、また最初から始まる。

「それでね、あのときに食べたものが、また格別で」

相づちを打ちながら、私は保留ボタンを何度も見た。押せない。押す理由がない。この人は怒っているわけでも、困っているわけでもない。ただ、楽しかったことを誰かに聞いてほしいだけなのだ。

通りかかった同僚と目が合った。私は受話器を手で覆い、小声で伝えた。

「30分以上、同じ話が続いています」

同僚は困ったように眉を下げ、それでも何も言わずに自分の席へ戻っていった。誰も悪くない電話は、誰にも代わってもらえない。切る口実を探している自分のほうが、なんだか薄情に思えてくる。

「ごめんなさいね、長々と。聞いてくださって、ありがとう」

女性のほうからそう言ってくれるまで、私は受話器を置けなかった。最後の言葉は、最初と同じくらい弾んでいた。

受話器を置き、私は積み上がった紙束に向き直った。残業は確定だ。ため息をつきながら、自分の相づちがいつから上の空になっていたのだろうと考える。仕事を優先して、もっと早く切るべきだったのか。それとも、あのまま最後まで聞いていて正解だったのか。あの弾んだ声を思い出すたび、答えは今も出ないままだ。

※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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