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なぜヴィンテージの価値は高騰し続ける? NYの名店に探る「ブランドアーカイブ」の最前線

  • 2026.8.20
Hearst Owned

ヴィンテージ人気が高まるなか、今ファッション業界で注目されているのは、単なる“古着”ではなく、時代を超えて受け継がれてきた“アーカイブピース”だ。トップメゾンのクリエーションの着想源として、またレッドカーペットのスタイリングにも取り入れられ、その価値は年々高まり続けている。

そこで、希少なアーカイブが集まる街・ニューヨークへ。「Into Archive」「Desert Vintage」「Morphew NYC」の3店舗を訪ね、ヴィンテージシーンの最前線をひもとく。


Into Archive

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ケイト・マオ(Kate Mao)
「Into Archive」創設者。米・ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)でファインアートを学び、10代の頃からeBayを通してラグジュアリーブランドのヴィンテージを収集。2019年に「Into Archive」を設立し、1990〜2000年代を中心としたアーカイブピースを世界中からキュレーションしている。

――「Into Archive」を始めたきっかけを教えてください。

約5年前にInstagramでヴィンテージの販売を始めました。転機となったのは、最初のビッグクライアントだったカーディ・Bです。彼女のスタイリストから依頼を受け、パーソナルショッピングをお手伝いしたことをきっかけに、ビジネスが大きく軌道に乗りました。そして約1年2カ月前、ニューヨーク・フラットアイアンにショールームをオープン。専門性の高いアイテムが並ぶ宝箱のような空間を目指し、家具やアートも含めて店全体をキュレーションしています。

オフィスビル最上階にひっそりとたたずむ「Into Archive」のショールーム。来店は完全アポイントメント制。 COURTESY OF INTO ARCHIVE

――顧客層にはどのような方が多いですか?

本当に幅広いですね。BLACKPINKのリサも来店してくれていて、今では親しい友人です。スーツをコレクションする弁護士や、グリーンのアイテムしか集めないユニークなコレクター、経営者や金融業界の方など、さまざまなお客さまがいらっしゃいます。企業とのコラボレーションも多く、オークションハウス「Joopiter」のオークションに出品するアイテムを提供することもあります。

ショールームを訪れたBLACKPINKのリサとケイト。リサはこの日、カットアウトヒールが印象的な「ルイ・ヴィトン」のメタリックゴールドの<a href="https://www.intoarchive.com/products/louis-vuitton-2000s-metallic-gold-leather-cut-out-wedge-sandals" target="_blank">ウェッジサンダル</a>などをセレクト。 COURTESY OF INTO ARCHIVE

――買い付けや収集はどのように行っていますか?

以前は1年の約4分の1を東京やパリで過ごし、現地のショップやコレクターとの関係を築いていました。現在サイトには約11,000点が掲載されていますが、自社所有は約4,000点。残り約7,000点は、世界中の提携ショップやコレクターが所有する商品を自社サイト上で販売する「マーケットプレイス」の仕組みです。また、個人コレクターとの信頼関係も大切にしており、コレクション整理や遺品整理の相談を受けることも増えています。

「シャネル」2014/15年 クルーズ コレクションのフラップバッグ。繊細な刺しゅうやビーズワーク、立体的なフローラルモチーフが目を引く。 COURTESY OF INTO ARCHIVE

――買い付けるアイテムは、どのような基準で見極めているのでしょうか?

「DUDA」をはじめ、世界中のファッションブログやSNS、オンライン記事を日々チェックしています。優れた審美眼やキュレーションセンスを持つ発信者も多く、そうした情報源を追うことで「何に価値があるのか」が見えてくるんです。また、「Into Archive」の販売データも分析し、売れ行きや市場価格、ラグジュアリーブランドの価格動向を見ながら、買い付けや価格設定を決めています。

――今、特に価値が高まっているブランドやアイテムについて教えてください。

特に注目しているのが「フェンディ」の“バゲット”です。バリエーションが豊富で集める楽しさがあり、実用性も高い。この2年で世界的に品薄となり、「フェンディ」自身も復刻モデルを発表。私たちも最近、「Christie's」と協業し、“バゲット”7点を出品しました。また、手仕事を要する「ヴァレンティノ」のビーズバッグや、カール・ラガーフェルド時代の「シャネル」も、今後さらに価値が高まると思います。

――今、ヴィンテージファッションがこれほど人を惹きつける理由は何だと思いますか?

私がヴィンテージを集め始めた頃は、手頃な価格が魅力でした。でも今はその逆です。ラグジュアリーブランドが過去の名作を復刻するようになり、オリジナルの価値も大きく高まりました。特に女性にとっては、自分だけの資産であり、自己表現の一部にもなっているのではないでしょうか。さらに、今では入手や輸入が難しい素材も多く、その希少性もアーカイブピースならではの価値につながっています。

「ディオール」2005春夏コレクションのアイコニックなセットアップをはじめ、遊び心あふれるアーカイブピースも。 COURTESY OF INTO ARCHIVE

――ヴィンテージシーンは、これからどのように変化していくと思いますか?

最近は、バッグやアクセサリー以上にウエアへの注目が高まっています。たとえば今では、「ロベルト・カヴァリ」のドレスに1万ドル(約160万円)を払うことをためらわない人も増えています。キャッシュレス化でバッグを持たない人が増えるなど、ライフスタイルの変化もウエアへの関心を後押ししている。ヴィンテージシーンも、時代とともに進化していくと思います。

「Into Archive」所蔵の「ジャンポール・ゴルチエ」のコルセットドレスを着用したアリアナ・グランデ。 COURTESY OF INTO ARCHIVE
ザラ・ラーソンは、「Into Archive」所蔵の「ロベルト・カヴァリ」のレオパード柄トップをチョイス。 COURTESY OF INTO ARCHIVE

――今後目指していることを教えてください。

世界各地に、その土地ならではのカルチャーを映し出す唯一無二の空間をつくり、コレクションすることの価値を体験できる場所を提供する――そんな「ラグジュアリーヴィンテージ界の『クロムハーツ』」を目指しています。社会で活躍する女性たちの装いが、もっとセンシュアルで遊び心があり、自分らしさを表現するものであってほしい。「Into Archive」は女性だけで運営している会社だからこそ、5年後、10年後の女性たちが何を大切にし、何をコレクションしたくなるのかを考え続けていきたいと思っています。

Desert Vintage

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サリマ・ブーフェルフェル(Salima Boufelfel)、ロベルト・コーワン(Roberto Cowan)
「Desert Vintage」の共同経営者兼バイヤー。2012年にアリゾナ州ツーソンの本店を引き継ぎ、その後ニューヨークやパリへと展開。1900〜1960年代を中心に、時代を超えて愛されるヴィンテージを厳選して取りそろえる。

――「Desert Vintage」を始めたきっかけを教えてください。

サリマ:1970年代にアリゾナ州ツーソンで創業したヴィンテージショップを引き継ぐ形でスタートしました。高校時代は衣装制作をしていて、よくそのお店に通っていたんです。その後ロベルトと出会い、前オーナーが引退する際に「あなたたちならこの店を任せられると思う」と声をかけてもらいました。自分たちの審美眼を磨きながら、ディーラーやコレクターとの信頼関係を築き、オンライン事業も拡大。2022年にはニューヨーク、さらにパリにも店舗をオープンしました。

ヴィンテージとアンティークの魅力を空間全体で表現した、ニューヨークの店舗。 COURTESY OF DESERT VINTAGE

――顧客層にはどのような方が多いですか?

ロベルト:年齢を問わず、人生や歴史に興味を持ち、忙しい日々の中でも立ち止まる時間を大切にしている方が多いですね。印象的なのは、30代の女性がお母さんと一緒に来店する姿。お母さんが若い頃に着ていた服の思い出を娘に話し、娘は「お母さんが好きだった服だから、私も好き」と感じる。そんなふうに、服を通して世代がつながる瞬間をよく目にします。

――買い付けや収集はどのように行っていますか?

ロベルト:LAには頻繁に足を運びます。15年間続けるなかで、お客さまやディーラー、買い付け専門の“ピッカー”とも信頼関係を築いてきました。ご自宅のコレクションを見せてもらったり、オークションに参加したりしますが、一番好きなのは偶然の出合い。以前ジュネーブの小さなお店で素晴らしい品々に出合い、それらがニューヨークのお店で新しい物語を紡いでいく。その感覚が好きなんです。

サリマ:実店舗があるからこそ、個人のコレクションについて相談を受けることも多くあります。先日もパリ店の近くに住む女性から、「15年間『ヨウジヤマモト』で働いてきましたが、コレクションの一部を手放したい」と声をかけていただきました。こうしたご縁があるからこそ、実店舗を大切にしています。

1920年代のイブニングローブ。時代を超えて受け継がれる、圧巻の一着。 COURTESY OF DESERT VINTAGE

――買い付けるアイテムは、どのような基準で見極めているのでしょうか?

ロベルト:本当に直感です。たとえ利益が大きく出なくても、「どうしても店に置きたい」と思う服があるんです。時には「なんてひどい服なんだ」と思いながら、「ひどすぎて最高だ」と感じることも。「誰も欲しがらないかもしれない。でも、私ならきっと美しく見せられる」と。サリマには「世界一ひどい服ね」と言われますが、不思議とそういう服ほど真っ先に売れてしまう。だから私たちは「ひどい」という言葉を褒め言葉として使っています(笑)。

――これまでで特に印象に残っているアーカイブピースはありますか?

サリマ:「Desert Vintage」を引き継いで間もない頃、前オーナーの知人から「夫の実家に古い『ルイ・ヴィトン』のトランクがあるので見に来ないか」と声をかけられました。その家系は20世紀初頭のシカゴで成功した実業家一家で、中には「シャネル」やポール・ポワレをはじめ、子ども服からイブニングドレスまで、一家のワードローブが丸ごと残されていたんです。事業を始めたばかりで資金が必要だったため手放しましたが、今でも最も忘れられないコレクションの一つです。

ロベルト:友人で「ボーディ(Bode)」のデザイナー、エミリー・ボーディのためにヴィンテージ生地を探していた頃、カリフォルニアのディーラーから「生地と、あなたが気に入りそうなプリーツドレスがある」と連絡をもらいました。現地へ行くと、箱の中にはマリアノ・フォルチュニが手掛けたガウンが2着。サンフランシスコの名家のエステートセールで見つかったもので、オリジナルのフォルチュニに出合えるなんて、まさに「黄金のチケット」を引き当てるようなもの。今では世界中のコレクターが探し求める貴重な一着です。

マリアノ・フォルチュニによる、ムラーノガラスのビーズ装飾を施した1930年代のシルクガウン。「ザ・ロウ」のためにキュレーションしたヴィンテージコレクションの一着。 COURTESY OF DESERT VINTAGE

――今、ヴィンテージファッションがこれほど人を惹きつける理由は何だと思いますか?

ロベルト:今の世の中では、何もかもが同じように見えてしまいます。毎日、膨大な情報やモノをものすごいスピードで浴び、人はすぐに飽きて次へと移ってしまう。でもヴィンテージだけは「時間」を宿しているんです。何年経っても色あせず、一つひとつが唯一無二だから、人は惹かれるのだと思います。人が求めているのは、ただ消費するモノではなく、意味やストーリーがあって、自分の一部になっていくようなもの。お店そのものも、そんな物語を語る場所であってほしいと思っています。

サリマ:私も「物語」という点は大きいと思います。そこに並ぶ服は、それぞれ異なる歴史や背景を持っています。一点ものだから、自分だけの特別な一着になるし、驚くほど丁寧なものづくりも魅力です。今では、同じような服を同じ工程でつくろうとすると、とても現実的な価格では販売できません。

服だけでなく、空間そのものが物語を語る。細部までこだわり抜いたニューヨークストアの内観。 COURTESY OF DESERT VINTAGE

――今後目指していることを教えてください。

ロベルト:今はニューヨークとパリの店舗を育てることが一番大事です。店舗を次々に増やすことは目標ではありませんが、もし次に出すなら、ロサンゼルスかロンドンですかね。インハウスコレクション“Ténéré”にも力を入れ、自分たちが毎日着たいと思える服を形にしています。「いつかやりたい」と話してきたことは結構実現してきたので、これからも仕事と暮らしのバランスを大切にしながら、「願うことには気をつけないと」ですね(笑)。

Morphew World

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ジョエル・アレクサンダー・モラレス(Joél Alexander Morales)
「Morphew World」チーフ・デザイン・オフィサー兼アトリエ・サービス・ディレクター。ヴィクトリアン時代のピースから希少なクチュールまで幅広く扱い、ニューヨーク、マイアミ、サウサンプトン、モナコに店舗を構える。

――「Morphew World」はどのように始まったのですか?

約20年前、まだヴィンテージが今ほど注目されていなかった頃、創業者のブリジット・モーフューが500ドル(約8万円)の資金と、ヴィンテージを詰めたトランク一つでビジネスをスタートしました。当初はニューヨークの完全予約制ショールームで、メゾンや業界関係者に向けて、デザインリサーチの資料となるアーカイブピースやテキスタイルを提供。その膨大なコレクションを生かし、ヴィンテージ素材を再構築する一点物のライン“Morphew Atelier”も誕生しました。

「Morphew World」がリアーナのために制作したミニドレス。1970年代製のゴールドプレートメタルメッシュを使用した一点もの。 COURTESY OF MORPHEW NYC
“Morphew Atelier”のガウンを着用したケイト・モス。 COURTESY OF MORPHEW NYC

――顧客層にはどのような方が多いですか?

結婚式のための特別な一着を探す方から、セレブリティのスタイリスト、映画のコスチュームデザイナーまで、客層は実にさまざまです。皆さんに共通しているのは、「ここでしか出合えない一点もの」を求めていること。私たちも特定の時代やデザイナーをおすすめすることはなく、先入観を持たず自由に発見してもらうことを大切にしています。実際、目当てのブランドとはまったく違うアイテムに惹かれる方も少なくありません。

1980年代の「ミュグレー」や「サンローラン」のクチュールピースが並ぶ、まるで美術館のようなニューヨーク店。 COURTESY OF MORPHEW NYC

――買い付けはどこで、どのように行っているのでしょうか。

この仕事を20年以上続けているので、今では習慣というより本能に近い感覚です。決まった買い付け方法はなく、長年築いてきたディーラーやコレクターとのつながりや、旅先での出会いを頼りに新しいピースを探しています。

――買い付けるアイテムは、どのような基準で見極めているのでしょうか?

まず重視するのはコンディションです。それだけでなく、アイテムが持つストーリーやデザインの背景も大切にしています。以前扱ったジャンニ・ヴェルサーチェによるハンドペイントのメタルメッシュドレスも、その価値を理解するコレクターのもとへ渡りました。

――これまでで特に印象に残っているアーカイブピースはありますか?

未発表だった「オスカー・デ・ラ・レンタ」のランウェイドレスです。長年ヴォルト(保管庫)に眠っていた一着を、あるお客さまがウエディングドレスとして選ばれました。クリエイティブ・ディレクターのジェイソン・ライオンが、フロリダのアトリエで彼女の理想を形にするようドレスを再構築。ヴィンテージのビーズワークやフェザーを用いたケープも制作しました。アーカイブピースがお客さまだけのクチュールドレスへと生まれ変わった、印象深い仕事の一つです。

――今、ヴィンテージファッションがこれほど人を惹きつける理由は何だと思いますか?

昔から人は過去からインスピレーションを得てきました。音楽が過去の楽曲をサンプリングし、映画が歴史を参照するように、ファッションも同じです。今は特に「誰でも持っている服」ではなく、「唯一無二のもの」を求める人が増えていると感じます。ヴィンテージやアーカイブの価値は、写真だけでは伝わりません。実物を見て、触れて初めて分かる魅力がある。それは、METやMoMAを訪れて本物の作品を見たいと思うのと同じだと思います。

ベラ・ハディッドは、カンヌで開催されたチャリティイベントに「Morphew World」所蔵の「ドルチェ&ガッバーナ」のドレスをまとって出席。 Gareth B. Cattermole/FFR / Getty Images

――今後目指していることを教えてください。

「Morphew」は急成長を続けていますが、外部資本に頼らず、自分たちの力で成長してきました。どれだけ事業が広がっても、実際に空間を訪れ、服を見て、触れ、袖を通して初めて伝わる価値を大切にしたい。その体験を届け続けることが、私たちの使命です。

Hearst Owned

「Into Archive」「Desert Vintage」「Morphew World」の3店舗を訪れ、よりすぐりのアーカイブピースをご紹介! 三者三様の世界観を動画でのぞいてみて。

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